2015/12/17

使った経験のない言葉は聞き取れない

【新・英語屋通信】(61)

――“Twelve O'clock High”(頭上の敵機)より
 この映画を観て「夏草や兵(つわもの)どもが夢の跡」という松尾芭蕉の句を思い出した。第二次世界大戦後、米軍の退役軍人が英国から母国に帰る途中、戦時中に従軍していた飛行場の跡地に立ち寄る。殺伐とした原っぱに立ちすくむ彼の回想で物語が始まる。飛行機の爆音がしだいに大きくなり、照明弾を放つ音と重なると、爆撃機(B-17)が次々に着陸する。そのうち1機が不時着すると、救急車と関係者がいっせいに駆けつける。
 軍機から搭乗兵が降りてきて、半死の戦友を労って“Easy / with his right leg. / It's / broken.”(右脚をやさしく。折れてる)と悲痛な言葉を吐く。“I wouldn't / believe it / if / I wasn't / looking at it. / You can / see his brain.”(見ないと信じられんね。奴の脳を見ろよ)と軍医が言い捨てる。
 搭乗兵が“What / 'll I / do / with an arm, / sir?”(腕をどうしますか?)と尋ねる。上官が“An arm? Whose arm?”と返して、“What / happened / to the rest / of him?”(彼の残し物に何が起こったのか?)とたたみかける。腕の主はパラシュートで降下したものの……話の冒頭から The End の字幕まで悲惨な戦禍が連続する。出演者の98%が男性で、珍しくもハッピーエンドな作品ではない。
 米軍がヨーロッパ戦線に参戦した1942年の夏、イギリスのイーストアングリアを基地にした米陸軍第8航空軍が本作品のモデルと推察できる。ナチスドイツへの空爆にまつわるエピソードを紡いで、航空兵のみならず、指揮官までが戦場で死に直面してパニックに陥る心理状態をテーマにした重要な資料になっている。
 ナチスドイツがポーランドに侵攻して世界大戦を始めた1939年9月1日、ルーズベルト米大統領は「どんな状況になっても、民間人を爆撃してはならない」と言い放った。米爆撃兵団の カール・スパーツ総司令官は、軍事・産業に関係する施設だけを空襲するオペレーションで precision bombing(精密爆撃)を提唱した。
 一方、ナチスドイツは開戦当初からワルシャワやロッテルダムの市街地を空爆している。ロンドン市街を誤爆したとき、あろうことかゲッペルスが成果を称賛したため、民間爆撃はしないと広言していた英国のチャーチル首相は、この災禍を見過ごすわけにいかず、報復としてベルリンを空襲した。すると、こんどはヒトラーが本格的にロンドンを空爆して、終わりの見えないドンパチが続くに至った。
 ハンブルグを空爆したゴモラ作戦では、英軍が都市部を夜襲して、米軍は民間人を攻撃しない方針を貫いた。米軍機は白昼堂々と爆撃地に向かい、ドイツ軍の恰好の標的になって、多大な犠牲を出している。1943年の夏に始まったシュバインフルトにあるボールベアリング工場への爆撃では、護衛機なしの丸裸同然で敵地に向かうB-17の編隊がドイツ空軍の迎撃機に撃墜され、約600人の航空兵が帰還できない日があった。米軍はこの数ヵ月の戦いで出撃兵の4人に3人以上の戦死者を出している。米軍のジミイ・ドゥーリトル司令官はしぶしぶながら、民間人を攻撃しないという箍をベルリン空爆で外した。
 この戦争映画には、米・独双方の実写が多く盛り込まれ、生きるか死ぬかの本音のやりとり集に作っているから、無視できるセリフがほとんどない。この種の英語を完全に理解できたら、どんなナマ英語の情報も咀嚼できるだろう。この映画のナチュラルな話し方の英語をすべて聞き取れたら、もはや英語話者レベルと言ってよかろう。
 本物の会話はもっと無駄口が多いけれど、映画の脚本は重複をできるだけ避けている。観客にはすべて必要な言葉だが、少しくらい聞きもらしても、英語話者なら大筋を理解できる。なぜなら、彼らにとっては、どこかで聞いたことのある日常言葉ばかりで、学術的な表現がないから、欠けた部分は類推で繋げられる。
 囲碁・将棋のプロは、過去に何千回も学んだ手筋を見た瞬間にパターン認識できて、いわゆる「読まない能力」を持っている。アマが実戦で一度も遭遇していない局面に出くわすと、多くの手順を読まなければならないが、読む手数が多すぎると混乱して間違った答しか出さない。言語はそれと似て、使った経験のない言葉は聞いてもわからない。
 映画の日本語字幕は、文字数の制限上、翻訳でかなり省略するので、大切なニュアンスを汲み取れない。英語字幕はほぼ話したとおりに出るから、せめて読んで理解できる英語力は身に付けたい。軍で使う特殊表現はさておき、私が知らない英単語は本作に数個しかないから、英語字幕でなんとか理解できたが、耳だけではとても間に合わない。英語話者は聞くだけで画面を想像できるが、非英語話者には出会っていない言葉はわからない。
 ともあれ、想像力と倫理感を大切にした米軍は、日本の各都市を無差別空爆して、ついに原爆投下まで決行したが、原点はベルリン空爆にあったと思う。この映画は全シーンが第二次世界大戦を現場で戦った者の立場から見た戦記物で、歴史の実際の経緯を知ると知らないとでは観賞後の感想が大きく変わってくる。戦争は始まったら止められないけれど、ラグビーにはルールがあって、審判もいて、ノーサイドもある。
(S・F)
2015.12.17(木)

2015/12/05

ニーズがあれば技術はモノにできる

【新・英語屋通信】(60)

 NHKに「奇跡のレッスン」という番組がある。海外から腕利きコーチを招聘して、十代の十数人の少年少女を束ねて、6日間だけ対象のスポーツを特訓し、7日目の最終日に強敵と試合して成果を確認する仕立てになっている。たった1週間で実績を出す凄腕のお手並みは「お見事!」と称賛するほかない。良質の早期教育は、効率がいいねえ。
 この番組の外国人コーチの共通点は、若者から「やる気」を引き出す指導法で、1人1人に「ニーズ」を注入することに主眼を置いている。指導力に長けたコーチは、自ら実践の経験があって、教える技術を「自分ができて、指導法も身に付けている」から、習う側の気持を十分に察知できて、子供たちからニーズを巧みに導き出せている。指導者が技術の手本を示せないと、教わる側の間違った自己流を正す手立てがないため、目標が定まらない練習がだらだら続くだけで、効果ゼロのマンネリに陥りやすい。
 幼児はふつう自分の「欲求」つまりニーズを満たすためか、3歳までに実用母語をほぼ完璧に覚えてしまう。大人になった日本人は、なんとか日本語だけで過ごせているせいか、英語を話したいという願望はあっても、本気で学ぼうとするニーズは薄い。
 わが国の学校英語の教育からでは、生徒のニーズは決して取り出せない。教師の大半が英語を自在に話せず、技術の模範を示せないからで、生徒が英語を苦手とするのは当然だろう。一方、AETたちの来日目的は、自分の旗を上げることで、英語を話せても、教える技術をきちんと修めていない者ばかりで、お粗末な連中が多い。
 英語はその指導法に熟達した英語話者に教わるのが最善で、人材がいないわけではない。奇跡のレッスンの英語版は、ミュージシャンが適材だから、バブ(Bob Godin)にやらせてみたいと思った。厚切りジェイソン級の優れたカリズマが出現して、英語学習へのニーズを引き出してくれれば、日本人はあっという間にバイリンガルになれると思う。
 問題は処遇で、住居が用意できれば、AETたちの最低の希望は満たせる。わが国には空家が多いので、その利用は行政が市町村単位で手を尽くせばいい。有能な逸材を発掘して、文科省の重要ポストに1人だけ据えれば、英語学習の技術面はいっきに解決する。
 明治初期に高額な給料でお雇い外人を調達し、当時の日本人エリートを指導したおかげで、わが国は鎖国時代の停滞した状況を打破できて、近代化に早く目覚めた。英語教育の維新バージョンで未来を担う子供たちにチャンスを与えたい。
(S・F) 2015.12.5(土)

2015/11/28

英会話指導の絶好のお手本を見た

【新・英語屋通信】(59)

――“The Search”(山河遥かなり)より
 映画の主人公は、アウシュビッツ(Auschwitz)に収容されていたチェコスロバキア国籍の9歳になるユダヤ系の少年で、終戦後に米軍のスティーブ(Ralph Stevenson)に保護され、彼から英語を教わるシーンが物語の中核を占めている。少年が指導を受ける初期段階のメニューは、おおよそ次のような構成になっている。
1.「No と Yes」で答えるようにする。
2.「人の名前」を言えるようにする。
3.「物の名前」を写真を見ながら言う。
4.「物の名前」を実物で認識する。
5.「物の名前」を擬声語から連想する。
6.「物の名前」を尋ねながら「会話」に入っていく。
(1) まず最初に、嫌なときは横に首を振って“No”と言い、オッケーなら肯いて Yes と言えと教えるが、少年はなかなか口を開かない。Steve が“Have a drink.”と言ってテーブルに酒を置くと、臭いを嗅いだ少年が初めて“No.”と言う。調子に乗った Steve が yes と言わせようとして“Am I a genius / or / am I / not?”と自分が天才か否かを問うと、少年はすかさず“No”と答える。Steve は苦笑いして、チョコレートを出して、欲しければ“Yes.”と言うよう促すと、少年はすんなり“Yes.”と答える。
(2) ついで、Steve が“You / haven't got a name. / What / am I going to / call you?”と呟きながら、少年を Jim と名付けて、“Your name is / Jim. / My name is / Steve. / You, Jim. I, Steve ”と互いを呼び合う名前を教える。少年が反応しないので、“Never / mind. / Yes and no's / enough / for one day.”と、1日目はイエスとノーだけで十分だとひとりごとを言って、出掛ける直前に“Wanna / come?”と誘うと、少年は“Yes, Steve.”と答える。
(3) 少年が“The chair. The house ……”と写真を見ながら、覚えた単語を復習している。間違えると“You / miss that one / every time. / That is / an umbrella.”と Steve が訂正し、少年がいぶかしげに“The umbrella?”と確かめる。チェコ語は知らないが、印欧語の1種だから、冠詞のような言葉があるに違いないが、定冠詞と不定冠詞、それに限定詞の使い分けがまことに興味深い。
(4) 少年が“The bed.”と言うと、Steve が間髪を入れず“Do you / see any other beds?”と尋ねて、少年が“There.”と指し示す。Steve が“What's / that?”と指差しを続けると、少年が“The window.”“The table.”と即答する。模型の橋を“The bridge.”と答えたあと、Steve が“Who build it?”と聞くと、少年が“You.”と返事する。少年は副詞や代名詞を名詞のように把握する段階に達している。
(5) Steve が次に照明灯を指し示すと、少年が“The bell.”と答える。Steve が“No, no. / You're / right, / it / looks / like a bell. / That's / a lamp. / A bell / goes, / ding dong ding. / You kids / here / say / bim bam, bim bam.”と接続詞なしのフレーズで言うと、少年が“Bim bam, bim bam. / Bambi.”と〔b〕の音から連想したバンビを口にする。
 Steve がびっくりして“Bambi? / What / did you / get that?”と尋ねると、少年が雑誌の写真を見せる。Steve が“That's / Bambi. / What / a boy! / Up / on the wall. / Get me / a thumbtack.”と切り取った写真を壁に貼るから押しピンを取ってくれと言うと、少年の反応が鈍いので、もう一度“Thumbtack”と言うと、Steve の動作から類推して押しピンを差し出す。
(6) そのあと、少年が Steve に“What's / that?”と聞いて、Steve が“That's / an ostrich.”と答えると、少年が“In a zoo, / that's / an ostrich.”と前置詞句とか be 動詞文を使い、さらに駝鳥を閉じ込めたフェンスを指して“And that?”と聞くと、Steve が“That's / a fence.”と返す。少年は収容所生活を思い出してか“A fence. / Why / is a fence?”と尋ねて、Steve が“So / the ostrich can't / run away.”と答えるなどしながら、しだいに会話のスタイルに入っていく。
 Steve が‘OK’が は世界じゅうで使えると言って“You can / use English / all over the world. / Not / just America.”と英語の便利さを説明する。Steve は英語を公用語とする国名をいくつか並べたあと、“Even / in England / they / understand English.”と OK の汎用性を言い添えた文型は、日本語話者が苦手とする語順だが、初心者が理解しやすい自然な形になっている。
 私はこの年末から正月にかけて里帰りしてくる7歳と3歳の孫に Steve の指導メニューを試してみたいと考えている。どう反応して、どんな対話が展開するか、楽しみで胸が踊る。
(S・F)
2015.11.28(土)

2015/11/19

大衆が築く権力構造の恐怖

【新・英語屋通信】(58)

――“The Desert Fox”(砂漠の鬼将軍)より
 歴史上の大人物の不慮の死には謎が多い。第二次世界大戦中のドイツ軍の元帥(field marshal)で、狐のような狡猾な手段で連合軍を翻弄したロンメル(Erwin Rommel)将軍の最後もまた、戦中から戦後しばらくの間、原因不明(?)として話題になっていた。イギリスのチャーチル(Winston Churchill)首相が下院(the House of Commons)でロンメルを称賛しているが、敵から尊敬されるほど傑出した偉丈夫であった。
 本作品は a legend in the desert と喧伝されたロンメルの死の真相を解明した英国人のデスモンド・ヤング(Desmond Young)が物語る形式で闇に葬られた逸話のナゾナゾを解明していく。インド軍の中佐(lieutenant colonel)であったヤングは、アフリカの砂漠でロンメル将軍の姿を一度だけ遠目に見ている。
 捕虜になったヤングがドイツ軍の少佐(major)から“I'm / giving you / an order”と言われて、戦争のルール違反を押しつけられる。ヤングが“I'm / a prisoner / of war. / You can't / give me / such order.”と命令を拒むと、少佐が“I'm not going to / argue the point / with you.”とお前に選択肢などないとヤングに迫る。
 2人のやりとりを垣間見ていたロンメル将軍が少佐を呼びつける。そのあと、ヤングは少佐から“Field marshal said / you were / right.”とロンメルから注意を受けたと聞いて、フェアな精神で戦場を指揮するロンメル将軍に直立不動の姿勢で遠くから敬礼する。将軍は座ったままヤングに軽く敬礼を返す。
 ナチ(Nazi)の総統(Fuhrer)であったヒトラー(Adolf Hitler)の暗殺は、何度も計画され、実行もされたが、最終的にロンメルもこの謀議に関与していたらしい。当時のドイツの政財界人や軍人の半数以上(?)が反ナチ派だったと思うが、ヒトラーとその側近が大衆を動員して秘密警察の暗躍するドイツを構築したため、国民の自由な発言はもとより、いわんや反対意見はいっさい封じられていた。
 ロンメルが戦況の不利を告げたとき、ロシアでは“Officers / like me / have been / put / against the wall / and shot.”とヒトラーに返されたと反ナチの友人に語るシーンがある。スターリン下のソビエト諜報機関は、たしかにナチ以上に怖かったかも。
 戦況はしだいにドイツ軍に不利になり、ヒトラーが「1ミリたりとて撤退は許さん」とワンパターンで‘victory or death’とわめくだけの政権がいずれドイツを滅ぼすと危惧した有志がカリスマ性のあるロンメル将軍を革命に担ぎ出そうとする。ロンメルは当初ヒトラーの abdication(退位)を迫るまで考えていなかったが、ヒトラーに敗戦続きの実情を報告すると、降服を避けたい総統は“That's / you, / like always”とヒステリックにがなり立ててロンメルを退ける。
 ロンメルはついに assassination(暗殺)を決意する。ところが、ヒトラーに苦言を呈した約1カ月後、ロンメルが連合軍に打ちのめされた前線へと向かう途上、彼の乗っていた車が飛行機から機銃による攻撃を受けて、生死をさまよう大怪我をする。
 ロンメルがフランスの病院で無意識の状態にあった1944年7月20日、シュタウフェンベルグ(Claus von Stauffenberg)大佐(colonel)が東プロシアの総司令部にヒトラー一味が集合した機会に総統の暗殺を実行するが、失敗に終わる。
 その約3カ月後の10月13日にロンメル将軍はヒトラーの側近のカイテル(Keitel)大将(general)から連絡を受け、ブルグドルフ(Burgdolf)大将がロンメル家を訪問する。書面に罪状が‘treason’(反逆)としたためられ、ロンメルは服毒自殺を強要される。彼が裁判を要求すると、問題を公にすると子息と寡婦の命が保証できないと脅される。家族思いのロンメルは妻子に別れを告げて、車で連行されたあと行方不明になる。
 やがてロンメル将軍の名誉の戦死が公報されるが、“The Nazis were / great liars, / of course.”とヤングはいきまいている。敵味方を問わず、多くの人がロンメル将軍の消息不明をいぶかしがって、戦時中からミステリアスな噂が戦場に漂っていたという。
 ロンメルの悲劇は、ヒトラーやスターリンが君臨した国家で発生しただけではなく、軍部による国家統制は同時代のわが国にもあった。民主主義になっても、国の構造が権力化して、物言えず社会になると、誰もが負け組に入りたくないから、人々は寄らば大樹の陰を決め込もうとする。大衆が現状崩壊を恐れて、見せかけの幻想にすがりつくと、支配体制を支える社会現象が招来して、にっちもさっちもいかなくなった段階で強者が弱者を切り捨てていく。あの賢明なドイツ人たちに生じたと同じ状況が容易に現代にも起こりうるが、ひとたび権力構造ができたら、もはや誰にも止められない。世の中を引っ張っているのは、いつの時代も大衆だが、その力量がいままた問われている。
 ヤングは“In the sombre wars / of modern democracy, / there is / little place / for chivalry.”と現代の陰惨な戦争下では騎士道精神(chivalry)つまりルールの入り込む余地はないと釘を刺すように物語を締めくくっている。
(S・F)
2015.11.19(木)

2015/11/13

単語は語源を知って効率的に覚える

【新・英語屋通信】(57)
【Q】abroad と aboard を混同しがちで困っています。なんとか、きちんと覚えられるコツはありませんか?
(山口県・レノファ…予備校生)

【A】実用英単語は10万語くらいあって、かつ1語1語に多様な意味があるので、英・和の意味を1対1で対応させた単語カードで覚える手段は最悪で、愚の骨頂です。語源を利用して効率的に覚えるべきでしょう。abroad も aboard もゲルマン語系の古英語に由来しますが、接頭辞<a->を取り外すと、素性が見えやすくなります。
 broad(広い)に接尾辞を添えると、broaden(広げる)・broadly(あからさまに)・broadness(寛大さ)などの単語を作ります。別の語を後ろに置く合成語なら、way(道)が Broadway(ブロードウェイ)で、side(側面)なら broadside(一斉攻撃)になり、cast(投ずる)からの broadcast(放送する)に接尾辞を付すと broadcaster(放送者)・broadcasting(放送)などの語を作ります。ハイフンで繋ぐ語には broad-minded(心の広い)があり、ハイフンなしなら broad bean(ソラマメ)や broad jump(幅跳び)のほか、鉄道用語の broad gauge(広軌)もあります。
 board(板)は「会議机」→「委員会」→「食卓」→「食事」、または「船」→「乗り込む」と転じて多様な意味を生んでいます。接尾辞の付いた boarding(板張り)から派生して、boarding pass(搭乗券)・boarding list(搭乗者リスト)・boarding school(寄宿学校)などがあります。
 別の語を後ろに続ける合成語に boardsailing(ボードセーリング)や boardroom(重役室)があり、board game はチェスや将棋などです。board を後ろに繋げる合成語なら cardboard(厚紙)・scoreboard(得点掲示板)・blackboard(黒板)・billboard(掲示板)・signboard(看板)・clipboard(紙挟み付き筆記板)・surfboard(サーフボード)・shipboard(船)・seaboard(沿岸)などのほか、bulletin board(掲示板)は単語を離して書く合成語です。
 そして、「へ」を意味する接頭辞<a->を付けた語が abroad(外国へ)と aboard(船・飛行機に乗って)です。ちなみに、broad の発音は〔b〕〔r〕〔aw〕〔d〕で、board は〔oar〕が〔or〕の別の綴りだから〔b〕〔or〕〔d〕です。
(編集部)
2015.11.13(金)

2015/11/09

大切な内容だけ把握する「チャンク法」

【新・英語屋通信】(56)

【Q】チャンク法って、どんな方法ですか?(兵庫県・大学生H)
【A】chunk の動詞は「切り分けて“塊”にする」という意味だから、「英文をいくつかの塊に分けて、文意を即座に解釈したり、英語ですらすら表現できる手段」として、当社が Bob Godin 氏と諮って、独自に「チャンク法」と名付けた「実用英語のための文型分析法」です。ビフテキはナイフで切り分けて食べやすくしますが、英文は「チャンク」にして理解しやすいように分割します。
 言語において意味を持つ最小単位は「単語」で、8万語の実用英単語は個々に多様な意味を含んでいます。慣用表現を別にすれば、英会話で単語1つを単独に使っても、何十何百もの解釈が可能なため、何を告げているかの理解には及びません。単語は文に入って初めて意味が特定されるのです。
 ある文を耳にして、文意を単語の単位で解釈しようとすると、1語1語に深い内容がありすぎて、単語同士の関係性の把握が間に合わなくなります。じつは、文意は単語自体の意味からではなく、いくつかの語句が塊ごと認識されています。慣れてしまえば、文のままそっくりキャッチできますが、第二言語として英語を学ぶ者は、語句を塊(チャンク)ごと受け取ることを癖にする必要があります。
 “I'd like to / order a cake.”という文は、2つのチャンク(塊)で構成されています。chunk の名詞は「大きな塊」を意味しますが、チャンク法は場面に応じて1語だけの小塊にもします。
 前半の I'd like to は I would like to の4語から成るチャンクです。この4語はいずれも汎用性の高い単語で、英語の辞書にはそれぞれ1ページ前後の解説がなされています。脳コンピューターには1語ずつで処理する機能が足りないので、I'd like to という食べやすい大きさのチャンクで使っているのです。
 I would(=I'd)は「主語(S)の I に気持を表わす法助動詞 would を添えた助動詞文」を作る基本的な「文の要素」です。<S+助動詞>型の I will・you can・ she could・it may などが同種の文型で使われます。
 動詞(like)に動詞が続くと、to 不定詞にして目的語を作り、VO(動詞+目的語)型の<like+(to+動詞)>の形式にします。chain(鎖)の意の動詞を catenative verbs(連鎖動詞)と言いますが、like をはじめ、want、seem、get、go、come、begin、help、happen、expect などはその仲間です。
 後半の order a cake(ケーキを注文する)もVO型のチャンクで、order は動詞だから、like に続けるには、その前に to が必要で、to order a cake とします。ところが、話し言葉ではすでに I'd like to 型が英語話者の脳内でチャンク化されて、使用頻度が高くなっているため、VO型のみをそのあとに連ねる思考癖を持つに至っています。英語話者は無意識に I'd like to と言い、ついで意識的に order a cake を口の端に掛けます。
 そして、a cake は a small pizza や a bottle of wine に替えたりします。a back issue は定期刊行物のバックナンバーです。目的語なしに service とだけ言えば、設備の取り付けや修理をお願いするさいの日常表現です。
 order を take に代えて、take a blood sample と言えば、お医者さんが患者に血液検査を求める決まり文句です。take the rest は中華料理店での食べ残しをパック詰めしてもらうとき言うフレーズです。<take+O>型も多士済々です。
 “I'd like to / apply / for a loan.”は銀行から借入れをするさいの常套句ですが、apply(申し込む)は後ろに副詞類(advervial)の for a loan を続ける種類の動詞だから、チャンクが3つになります。a loan を a mortgage(抵当)と言えば、ほぼ住宅ローンで、a home equity loan と言っても同じです。
 当社は“I'd like to ?.”の文例を掃いて捨てるほど集めていますが、このチャンクには限りなく新表現が出てきます。I'd like to のあとに続く動詞は make、get、open、close、talk、speak、call、cash、change、apply、offer、book、try、buy、rent など何百もあって、その後ろに続くOやAも果てしがありません。人の脳の言語野には、たぶん百万ピース級のジグソーパズルが築かれています。
 “I'd like to ?”をひっくり返した疑問形の“Would you like to??”も高比率で登場します。この種のチャンクを口癖にして、無視できるまで練習して身に付け、自分の頭で考えながら、後ろにVO型やVA型を続けて言うトレーニングをする必要があります。言葉は意識下に据え置かないと、口から瞬時に出てきません。
(S・F)
2015.11.9(月)

2015/11/02

20歳過ぎに学ぶ英語は「質の良い練習を必要なだけ」こなす

【新・英語屋通信】(55)

 人の言語は5000種以上あるが、それぞれが特有の「質」を持ち、どんな方言も何らかの「質」を有している。言語は使われる範囲が異なり、標準語を母語とする者もいれば、特異な訛りを使う僻地で育つ少数の方言話者もいる。言葉は音声・単語・文法に違いがあるだけで、個々の優劣はなく、すべてが正当な理由に支えられて存在している。
 幼児が言語を獲得するとき、音質・文意・語法などの「統計」をとりながら、周囲で使われる言い方を真似て、自らの母語を形成している。母語が獲得される状況は「門前の小僧、習わぬ経を読む」という諺と同じに、習得の過程では学んでいる意識がない。
 ところが、20歳以降になると、ヒトの脳の言語野は、母語の完全占領下に入るため、第二言語の獲得が困難になる。学習対象言語の本質にそぐわない劣等な手段で練習すると、時間ばかりが浪費されて、いっこうに前に進めない。東京大学の野球部が連敗記録を更新し続けて、選手たちが勝てる自信を持てずに、惰性で練習していた状態と似ている。
 プロ野球の巨人で活躍した桑田真澄氏が東大野球部の特別コーチに就任して、まず最初に「練習のあり方」について言及した。要約すると、明確な目的を定めないままに、間違った方法で長い時間をかける練習を改良することにほかならない。桑田コーチは「質の良くない練習を多くやりすぎると、内容が薄くなる」と指摘した。
 日本人の英語もまた、最初から低レベルの学習法を選択している。必然的に学校卒業後も延々と学び続けるが、英語を使える者は少ない。社員が100人以上いて英語を1人も話せない会社がわが国にわんさとあって、外国人が「信じられない」と嬌声を挙げる。
 桑田コーチは個々の選手を効率的な「短時間集中型」の練習に取り組ませた。この「短時間」は「長すぎる」の反意語で、少なすぎる練習量では、物になる技倆は何ひとつ得られない。「質量ともに」と言うが、20歳過ぎからの英語の勉強は、質の高い効率の良い学習法を採用して、身に付くまで可能なかぎり数多く練習する必要がある。
 桑田コーチの退任後になったが、東大は法政大学を6対4で下し、連敗を94でストップさせた。桑田コーチは最高の頭脳を持つ人が「考える野球」をできないわけがないと言って、「グラウンドでは誰も助けてくれないから、まず自分を信じれるように鍛えて、自らが考える野球をしなければならない」と質を重視する指導をして、東大野球部が勝利するきっかけを築いた。一流のプロは、練習も一流なんですねえ。
(編集部)
2015.11.2(月)

2015/10/27

仮名のローマ字表記を習う以前に英語の綴りを教えるべき

【新・英語屋通信】(54)

 世羅洋子氏によるYESの英語教室では、小学生が「仮名の代わりにローマ字を使って書く方法」を学校で教わる以前に、英語の綴り方を書けるように指導しています。世羅氏はそのとき、両者がまったく違うものであることをしっかり伝えています。
 小学2年生の男子に英語で算数を教えながら、“Three and six makes nine.”と世羅氏が言うと、生徒がすかさず“How do you say‘makes’in Japanese?”と聞き返してきました。世羅氏が make は「作る」という意味ですと教えて“Can you write it down?”と尋ねました。
 生徒はすぐさま、〔m〕に続けて〔a e〕と書き、空白部に〔x〕を入れて、‘maxe’と表記しました。その子が box の〔x〕が〔ks〕の音になると知っていたからですが、最後の音が〔s〕であると指摘すると、ただちに‘makes’と書き直しました。
 先に音声を入れて、そのあと書き言葉を綴る手順をとれば、こうした現象が起こる実例を知って、なるほどと驚かされました。英語話者の子供が英語の綴りを覚えるのにさいして、Phonics(フォニックス)の手法を利用する必然性を改めて実感させられました。
 この2年生の子は、5年生のお兄ちゃんが英語で質問されて答える英文をすらすら書いている様子を横で見ながら、自分も早く書きたいと思って、自然に身に付けたようです。英語音を正しく発音できて、アルファベット26文字を覚えれば、PV法のチャートを見ながら、英単語を綴れるのは「当然のおまけ」でしかありません。
 英語の発音と綴りは、PV法で覚えられますが、世羅さんは40年間の英語指導の経験を踏まえたうえで、とにかく話し言葉を優先させるべきと確信しています。何事であれ、学べば必ず「成熟度」をチェックする必要がありますが、英単語の綴りにあっては、PV法の反復練習がそのまま習熟度のガイドになります。
 なお、makes を仮名で「メイクス」と書くので、ローマ字は me・i・ku・su としています。eight(〔-e-〕〔-i-〕〔t〕)があるから、mei の部分は似たように聞こえますが、kusu には日本語特有の母音の「ウ」が〔k〕〔s〕にくっついているので、英語話者が聞き取りにくくなります。仮名のローマ字表記は、英語の綴りとは別物です。2年生君が makes を英語のまま捉えていることは明白です。
(編集部)
2015.10.27(火)

2015/10/23

英語は45の単音を正しく発音できなければ何も始まらない

【新・英語屋通信】(53)

 話し言葉ができれば、書き言葉は少しの勉強ですぐできるようになります。ところが、書き言葉にいくら習熟しても、話し言葉は容易に会得できません。話し言葉は「聞いて話す練習」を繰り返すことでしか身に付きません。
 「聞き流すだけで英語を話せるようになる」と宣伝されていますが、そんな奇跡は99パーセント起こりえません。聞き流すだけで英語が身に付くのなら、いまの時代 YouTube の中に掃いて捨てるほど好材料が転がっています。
 世界のどの言語音であれ、複数の子音(consonants)と母音(vowels)から成り立っています。英語には45種(子音27・母音18)の「単音」があり、その中には日本語にないサウンドがいくつかありますが、そのすべてを正しく発音できないと英単語は言えません。英語の学習者はまず、子音・母音の個々のサウンド習得を最優先すべきなのです。
 英単語は dog や get などの<子音+母音+子音>(CVC)型で並ぶ1音節語が基本形です。日本語は五十音のほぼ全部が母音止めのCV型ですが、子音止めの英単語は安定性が悪く、アクセントを置いた母音のあとでリズムが途切れて、取り残された子音が次の単語の語頭音にくっつきやすく、いわゆるリンキング(連結)の現象を生じます。
 たとえば、CVC|CVC|CVC|と並ぶ3音節語なら、CV|CCV|CCVCという音則を作り、そのうえ隣接する2つの子音間に強弱関係が生じて、片方がしばしば省略されたりします。したがって、英語の話し言葉は、文字と発音の等式関係が崩れるので、音則のあり方を知らないと、英語話者が口にする音声をはっきり聞き取れません。
 「音声」を完全に聞き取れないと、「単語」の意味もわからず、いわんや「文型」の把握に至らず、話されているフレーズの内容の理解に及びません。基礎なくして、ただ漫然と同じことを闇雲に聞くだけでは学習時間が無駄でしょう。
 発声練習では、唇・舌・歯などを使うさいの口の動きを習得する必要がありますが、その学習法として、アメリカの The Primary Day School(保育園と小学校低学年)で実施されている The Phonovisual Method(PV法 =音視法)を私どもは推奨します。
 子供たちは45音のすべてを3日間〜1週間くらいで一応マスターしますが、そのあと単語を言うとき口が滑らかに動いて、文をすらすら言えるようになるまで、徹底的に基礎レッスンを繰り返す必要があります。
(編集部)
2015.10.23(金)

2015/10/20

質疑応答形式のフレーズを楽しむ

【新・英語屋通信】(52)

――“I Confess”(私は告白する)より
 ヒッチコック映画は、やっぱり怖い。僧衣を着て殺人に及んだ Keller が犯行後の夜中に教会に駆けつけると、人の気配を感じた Father Logan(ローガン神父)が暗闇の中でいぶかしげに“Who's there?”(そこにいるのは誰?)と声をかける。
 “Keller, / why / are you / here / this time / of night?”(ケラー、なぜあんたは夜中のこの時間にここにいるのか?)と神父が尋ねると、殺人犯ケラーがどもりながら“I, I wanted to pray.”(私はお祈りをしたかった)と返事する。
 ケラーの様子が不審なので、ローガン神父が助けを必要とするかどうかを問うと、彼は“No one can / help me. / I have / abused your kindness.”(誰も私を助けられない。私はあなたの親切を悪用した)と答える。
 ケラーは教会の kindness に感謝したあと、“You will / hate me / now.”(あなたは私をいまに嫌うでしょう)と言い、さらに“I must / confess / to you. / I must / tell someone. / I want to / make a confession.”と「告白」を願い出る。
 懺悔室に入ったケラーが“I confess / to almighty God / and to you, / Father, / that / I have / sinned.”(私は全能の神とあなたに告白します。神父さん、罪を犯したことを)と言ったあと、殺人と“I / went / to steal his money.”(私は彼の金を盗みに行った)と動機を告白する。
 懺悔室で罪を告白された神父は、戒律上、告白者から知りえた事実を誰にも打ち明けられない。紳父にとって都合悪いことに、昔の恋人の Ruth が殺された男に脅迫されていたことを相談されていた。神父は殺人現場に先回りして、ルースが冤罪をこうむらないようにと知らせに行くが、その様子を刑事に見咎められた。
 それと併せて、現場近くの道路を僧侶服の男が歩いていたと2人の女学生が証言し、また犯人ケリーが神父の行李に血染めの僧衣を忍び込ませたことから、ローガン神父は犯人に仕立てられる。確実な証拠は何ひとつないのに、刑事は状況だけでローガン神父が星であると断定して法廷に引きずり出す。
 そして、真犯人ケリーは証言台に立って嘘八百を並べ立てる。証言台のルースは、殺人のあった時間に神父と会って、脅迫された内容を相談していたとアリバイ証明すると、夫に内緒だったから不倫関係にあったと刑事は勘ぐり、検事はありもしない架空の筋書きを作って、神父に真実を言えと追いつめる。
 検事は刑事による作り話を前提として、“Otto Keller has / testified / to this court / that / he / followed you / into church. / And that / he / found you / kneeling / before the altar, / in great distress.”(オットー・ケラーは本法廷であなたについて礼拝席に入ったと証言した。そして、彼は祭壇の前に膝まづいて苦悩するあなたを見ている)と犯人の出鱈目な証言を真に受けて神父が犯人であるかのごとく陪審員や法廷の聴衆に印象づけていく。
 人間の行動には、共通のパターンがあるのは確かだが、下手に類型的な解釈をすると、とんでもない間違いを犯しかねない。刑事が作る筋書きは、たいてい過去の事件からの類推にすぎず、狭い範囲の思考に基づいた当てずっぽうの経験則がしばしばある。洋の東西を問わず、警察の頭脳は単純かつ硬直にすぎて、真実を解明する姿勢に乏しく、組織の方針にがんじがらめにされて、一度こうと決めた冤罪物語を頑として守り抜こうとする癖がある。
 陪審は証拠不十分としてローガン神父を不起訴とし、裁判官が釈放するが、こんどは群衆(mob)が騒ぎ出して“Take off that collar.”(襟飾りを外せ)などと叫んで暴行に走ろうとする。法廷で無罪になっても、真実を知らないままミスリードされた大衆の思い込みによる不当な社会的制裁の怖さがこの作品のテーマの1つになっている。
 刑事の軽はずみな判断の結果、殺人犯はさらに自分の妻と民間人を殺し、自らは警察に射殺されて物語は終わる。凡庸な輩が権力の座に就くと、真実を曲げられてしまう恐怖がこの作品の基本テーマになっている。
 舞台がカナダの Quebec(ケベック)のカトリック教会だから、フランス語圏の雰囲気があり、犯人はドイツ人の難民だから、標準英語でないフレーズがいくつかあるが、警察の尋問や法廷で使われる質疑応答の英文はとても参考になる。
(S・F)
2015.10.20(火)

2015/10/15

赤ん坊は「統計処理」をしながら母語話者になる

【新・英語屋通信】(51)

 「赤ちゃんの言語的天分)(The linguistic genius of babies)と題して、パトリシア・クール(Patricia Kuhl)が「第二言語の獲得」について解説した約10分間のトークがTED(Technology Entertainment Design)に収められている。
  https://www.ted.com/talks/patricia_kuhl_the_linguistic_genius_of_babies

 生後6〜8カ月目の赤ん坊は“citizens of the world”(世界市民)だが、10~12カ月間ころになると、早くも“the language-bound listener”(特定言語に拘束された聞き手)になるとして、彼女は次のように述べている。

 They can / discriminate all the sounds / of all languages, / no matter / what country / we're / testing / and / what language / we're / using, / and / that's / remarkable / because / you and I can't / do that. / We're / culture-bound listeners.
 (赤ん坊はあらゆる言語の全音声を識別できる。私たちが実験したどの国であれ、また、どの言語を用いようとも、それは驚くべきことで、大人にはそれができないからだ。私たちは「文化に縛られた聞き手」なのだ)

 すなわち、赤ん坊は身辺で使われる母語の音声を耳にして「統計処理」をしながら、必要なデータだけを吸収していくが、初めての誕生日を迎えるとき、もはや言語面での世界市民ではなくなり、いわゆる母語話者に向かうと報告している。
 その実例として、話者が800人しかいないインドの少数民族であるコロ語において、母親が赤ん坊に話し掛けることで生きた言語として今日に継承されている様子を紹介している。「言語は話し言葉として伝承される」ことの証明である。
 そのほか、英語話者は〔r〕と〔l〕を聞き分けるようになるが、日本語話者はこの両サウンドと似て非なる「ラ行」だけを認識するようになる例を示している。
 また、第二言語の獲得には「臨界期」があり、子供が言語の天才でいられるのは7歳までと言う。その年齢を過ぎると、習得能力が急カーブを描くように下降して、他言語を獲得できなくなる臨界期は、ほぼ思春期に相当すると断定している。母語のデータで満たされた成人の脳は、新たな統計処理に鈍感になるからである。
 さらに、言語上の世界市民から母語話者になる過程において、両親が異なる言語を使う場合は「バイリンガル」になるが、この様子を裏付ける証拠として、英語話者の赤ちゃんに中国語を聞かせる実験をしている。つまり、言語の伝達者は必ず人でなければ効果が得られず、音声や画像からだけでは学べない(no learning)結果を図示している。理由はたぶん、赤ん坊は実際の場面に呼応してのみ言葉をわがものにしていくからであろう。
 クール氏の主張を要約すると、以下のようにまとめれる。
1.赤ん坊は全世界のすべての音声を聞き分ける「世界市民」だが、それが可能な期間は、生後6~8カ月まで。
2.赤ん坊は耳に入る音声を「統計処理」しながら、最初の誕生日を迎えるころには、自らの文化に縛られた限定的な音声だけを聞き取る「母語話者」へと進んでいく。
3.第二言語を習得できる子供の天分は7歳までしかなく、脳内が母語に満たされることに反比例して、他言語の獲得が困難になる。
4.第二言語の習得が困難になる「臨界期」は思春期で、それ以降は意識的に学ばないと、自分のものにできない。
5.バイリンガルになるには、音声の統計処理ができる赤ちゃん時代に2つの言語が両立して近辺で使われていなければならない。
6.言語は人と接触することでのみ身に付く。音声や画像から学んでも成果は出せない。

 クール氏による各種の実験は、思春期以降の英語の獲得がどんなに難しいかを示唆している。成人後の英語学習法は、質に優れて、量をこなせるシステムが必要で、聞き流すだけで英語を使えるようになるなどのマジックはこの世に存在しない。
 とはいうものの、英語は母語話者なら誰もが使える言語だから、自習を積み上げれば、非英語話者でも段階的に話せるようになる。学ぶのは自分以外の誰でもない。
(S・F)
2015.10.15(木)

2015/10/14

英語を教えられる人は、英語を使えて、教え方も知っている

【新・英語屋通信】(50)

 「学校で教わる英語は簡単すぎる」と世羅洋子氏(YES=山口イングリッシュスクール)から指導を受けている生徒たちは口を揃える。世羅氏から教われば、学校英語は勉強しなくても試験に間に合うし、余分な時間を他課目の学習に当てられるため、受験は大きなテーマにならず、だいたい希望する高校に進学できている。
 YESはいま、幼稚園・保育園は3カ所、企業も3カ所、10人弱の小・中学生の英会話教室を4クラス持ち、依頼があれば個人レッスンもこなす。世羅氏は「来る者は拒まず」主義で、生徒が口コミで集まってくるので、多忙になりがちだが、お雇い英語話者と2人だけですべての授業を消化している。
 世羅氏が教える学課は、英語だけではない。英文法と比較するため、国文法を教えたり、学習者の要望に応じて、数学や物理まで指導している。英語が入りにくくなった社会人には、自分で学べる学習法を伝えて、自習を多くすることを促している。英語を身に付けたいのは、あくまでも学習者本人だから、自ら努力を続ける必要がある。
 世羅氏の優先的な目標は、学習者が「英語の音声を完璧に会得する」ことで、幼少期にナマの英語話者が使う英語音を聞いて身に付けておけば、おのずと英語を使えるようになるという過去の実例に基づいて、とくに幼児教育を重視している。
 ところが、せっかく小学校時代に獲得した英語音をそっちのけにして、中学生になると大半の父兄がわが子を学習塾に通わせるようになる。その結果、成人になって、TOEICの得点が足りないからとヘルプを求めてくるが、率直に言って、英文を目で追えなくなっているし、音声はまるっきり聞き取れず、いうなれば英語獲得の臨界期までを無為に過ごしているので、空白の期間を取り戻すためのオタスケマンを務めるしかない。
 じつは世羅氏が英語話者を必ず雇用する理由の1つは、英会話は英語を使う外国人に教わるべきという巷の声を無視できないからだが、外国人講師が交替するたびに、世羅氏は彼らに英語の教え方を吹き込むために多大なエネルギーを浪費している。
 近年、学校の講義を英語で学んだアジア出身の英語話者が多くいて、彼らは英語で考えることができるけれど、英語話者なら絶対に間違えない日常的なエラーを頻繁にする。いうなれば、英語を話せるからと言って、教える方法論を持っているわけではない。英語の指導は、英語を正しく使えて、有効な教え方を知る者でなければならない。
(編集部)
2015.10.14(水)

2015/10/05

英作文は基本形を覚えて応用する

【新・英語屋通信】(49)

 “You're / looking at a woman / who was / publicly / silent / for a decade.”(あなた方の目の前にいる女性は、世間に沈黙し続けて10年を過ごしてきました)というフレーズは、クリントン米大統領と不倫関係に陥ったモニカ・ルインスキー嬢が今年3月にTEDの壇上で自己紹介した冒頭の1節である。彼女は約17年ぶりに公の場に姿を見せて、自分が傷ついた往時の胸中を聴衆に披露した。
 アメリカの次期大統領選にヒラリー・クリントン氏が出馬するので、口さがない連中がそれと結び付けるのは当然だが、彼女は“I'd like to / end / on a personal note.”(個人的事情を述べて終わりたい)と述べて、講演の締めくくりに time がその理由であると告げた。
 In the past nine months, / the question / I've been / asked / the most is / why. / Why / now? / Why / was I / sticking my head / above the parapet? / You can / read / between the lines / in those questions, / and / the answer / has nothing / to do / with politics.
 The top-note answer was, / and is, / because / it's / time ? /
  time / to stop tiptoeing / around my past,
  (爪先立ちで自分の過去をうろつくことをやめる時)
  time / to stop living / a life of opprobrium, / and
  (不面目な人生を引きずるのをやめる時)
  time / to take back my narrative.
  (自らの物語を取り戻す時)

 彼女は若くして“Time files.”(光陰矢のごとし)を体験したせいか、これから歩む自分の人生のキーワードを time と定めて決意を述べている。<time+to 不定詞>型のフレーズはとても応用しやすく、日常英語に数多く出てくる基本表現である。
 慣用句の“Time to go”(そろそろ行かなくては)は“It's time to go.”の it's を省いた省略文で、何かが「始まる時間ですよ」といった場面で使われる。to 不定詞の動詞 go を差し替えて“Time to run.”と言ってもほぼ同じ意味で、“Time to split.”という俗語的表現もある。
 また、move along(どんどん進む)・push off(立ち去る)・shove off(立ち去る)などの句動詞を to と組んで“TIme to move along.”と言うし、hit the road(出掛ける)のVO型(動詞+目的語)も to と組んで使われる。仕事を終えたとき、to に続けて‘call it a day’(仕事を切り上げる)のVOC型(動詞+目的語+補語)を使ったり、夜勤なら‘call it a night’と言う例も可能であろう。
 “Time to eat.”は「ご飯です」という呼び掛けで、<time+to 不定詞>型は便利な言い方として多用されている。モニカ嬢は‘time to stop’の形で使っているが、stop は行為を止める言葉だから、そのあとに続ける目的語が進行中の動作を示すため、動詞は現在分詞(-ing 型)で用いられる。
 “Stop complaining.”は「ぶつくさ言わないで」の意味だが、complain を gripe に代えても同じ内容になる。“Stop sulking.”や“Stop pouting.”なら「ごねるのはやめて」といったニュアンスになる。
 “Stop bothering me.”の stop の後ろはVO型で、「やめてよ」みたいなニュアンスだから、bother を pester に代えても同じ意味になる。“Stop speaking in circles.”や“Stop beating around the bush.”は「回りくどく言わないで」と言うときの慣用表現で、stop のあとはVA型(動詞+副詞類)になっている。また、非常に困っている人には“Stop carrying the weight of the world on your shoulders.”と言って stop のあとをVOA型で表現する決まり文句もある。
 英語のフレーズは無限と言えるほどあって、何百万でも何千万でも作文は可能だから、丸暗記はまったく無理で、基本形の<time + to 不定詞>型や<stop + -ing>型などを部品にして組み合わせて応用するといい。
 モニカ嬢の講話は、原稿を読みながらであったが、間の取り方が絶妙で聞き惚れた。プレゼンの仕方にプロの手が入っているかもしれないが、ジョークを言う場面では笑わせられたし、真剣に聞くべき部分は思わず真顔になった。TEDの中のこの1編は英語教材として宝の山と言えよう。
(S・F)
2015.10.5(月)

2015/10/02

TOEICの攻略法は「目標・計画・実行・確認」で

【新・英語屋通信】(48)

【Q】TOEICでレベルB(730点以上)のスコアをとるには、何を勉強をすればいいのか、参考になるアドバイスはありますか?(山口県・大学生)

【A】TOEICは4択もしくは3択で解答する試験だから、当てずっぽうに答えても、確率的に300点弱は獲得できるはずです。英文法が少しわかって、日常的に英語を見慣れている人には、ほぼ2択に近い感じになるので、500点以上のレベルCを得られる問題です。しかし、その上に載る230点は決して低い壁ではなく、子供の縄跳びからいっきに陸上競技の高跳びになるほどの大差があります。
 試しに、TOEICのHPに出ている 7 parts のサンプル問題をやってみました。過去問を細かく分析しないと、真っ当な報告はできませんが、サンプル問題に限れば、英文を読み慣れている者には、さほど難しくない印象です。語彙力がそこそこで、文法知識があれば、リーディング問題はどうってことないと感じました。リスニング問題も発音が明瞭だから、内容を把握できる英語力があれば、聞き取りは可能と思います。
 聞くところによると、日本の受験者は世界で最下位に近いグループに属するそうです。原因はたぶん学校教育にあって、中途半端にしか英語を理解していない者を進級させ、基礎をなおざりにする無益な授業をしているからだと推測します。ボールをキックする基礎練習を何もせずに、いきなりサッカーの試合に出場するのは無理でしょう。
 「目標」の730点に向けて、基礎からやり直すつもりで1年単位で学習「計画」を立て、「実行」しながら、過去問で実力を「確認」すれば、遅くとも3年以内に到達できます。
 リーディングは1問で約1分間しかないので、英文のまま理解しないと間に合わず、頭から読み下すには「チャンク法」で学ぶといいでしょう。語彙は毎日2つずつの「語源」を学べば、覚えては忘れ、忘れては思い出しながら、完全でなくても目標に達します。
 リスニングは1回しか放送されないので、写真を見ながら答える part1の問題はさておき、part2は耳だけが頼りだから正確に聞き取る「注意力」が必要です。part3はやや長い会話なので、内容を完全把握する「記憶力」が求められます。英語話者の言葉を正しく聞き取るには「PV法」による発音の基礎訓練は欠かせません。
(編集部)
2015.10.2(金)

2015/09/28

〔j〕と〔z〕は〔ch〕と〔s〕の濁音と見なせる

【新・英語屋通信】(47)

 現代日本語のサ行では、「ヂ」が「ジ」に、「ヅ」は「ズ」に吸収されています。そして、ヘボン式ローマ字では「ジ」を‘ji’と表記し、「ズ」は‘zu’と書く様子からして、両者が異なる音質であることは明白です。
 一方、英語の〔j〕は〔ch〕の有声音で、〔z〕は〔s〕の有声音だから、〔j〕と〔z〕は明確に区別されています。日本語と比較すると、大まかに次の関係が成り立ちます。
  〔j〕…ジャ行音   〔ch〕…チャ行音
  〔z〕…ザ行音    〔s〕 …サ行音
 ちなみに、アメリカのプライマリイ・デイ・スクールで使われているPV法のキーワードは〔j〕が jar(広口の瓶・壷)で、〔z〕は zebra(シマウマ)です。jar の語頭音を〔z〕で発音すると英語話者に通じないし、zebra の語頭音を〔j〕では言いにくいと知ってください。なお、当社では〔j〕のキーワードを jigsaw(糸のこ)に定めています。
 ヘボン式では「ジ」をザ行の中で扱いながら、‘zi’ではなく、‘ji’と書きますが、「地震」の語頭音は〔z〕の舌の動きと似て、「じいちゃん」の「じ」は〔j〕の舌の動きで発音します。〔z〕は東北方言のズーズー弁に多出するサウンドです。英語と日本語の音声は微妙に違っており、さまざまなケースがあるので、ヘボン式を許容してかまいませんが、英語の〔z〕と〔j〕は発音が異なると早い段階で教えておくべきでしょう。
 jazz(ジャズ)や jeez(おやまあ)の語頭音は〔j〕で、語尾音が〔z〕です。〔j〕は語頭音に多く、〔z〕は語尾音に向いています。〔j〕が語尾音として出る raj(支配)はサンスクリット語由来の稀な例で、〔z〕で始まる単語も少数派です。
 〔z〕と〔j〕の違いを無声音の〔s〕〔ch〕を併せて示すと、下記の関係が見えます。〔s〕は舌先を下の歯茎に当てて発音する「歯茎音」で、〔ch〕は舌の中央を中の天井と摩擦させて出す「破擦音」で、その仲間の〔sh〕は「摩擦音」の1種です。
  〔s〕(無声) …「サ・ス・セ・ソ」から母音を取り除いた音声
  〔z〕(有声) …「ザ・ズ・ゼ・ゾ」から母音を取り除いた音声
  〔ch〕(無声) …「チ・チャ・チュ・チョ」から母音を取り除いた音声
  〔j〕(有声) …「ジ・ジャ・ジュ・ジョ」から母音を取り除いた音声
  〔sh〕(無声) …「シ・シャ・シュ・ショ」から母音を取り除いた音声
  〔sh"〕(有声)…日本語では〔j〕と同等に扱われている。
 大雑把に言えば、〔s〕〔ch〕の日本語で言う清音で、〔z〕〔j〕は濁音に相当します。また、九州方言で「先生」を「シェンシェイ」と言うときの「シェ」は、「黙って」の擬声音「シィーッ」での「シィ」ともども、英語の〔sh〕に近い音と言えます。
 ちなみに、本場アメリカのPV法のキーワードの〔s〕には saw(のこぎり)を当て、〔ch〕は cherries(サクランボ)としています。しかし、子音はそれぞれ語頭・語中・語尾での発音のあり方にデリケートな差があり、すべての音声を練習する必要があるため、当社ではキーワードをあえて sun(太陽)と checker(格子縞)に替えています。
 そしてまた、〔sh〕のキーワードは shovel(スコップ)とし、濁音的な〔sh"〕は語中音として、measure(巻尺)で示しています。アメリカのPV法は幼児・低学年用だから、〔sh〕を ship(大型船)で示すものの、語中音で登場しがちな〔sh"〕のキーサウンドは表に加えていません。日本人が「ジ」と「ヂ」を同じように認識しているのと同様、英語話者の〔sh"〕も生活の中で自然に覚えるサウンドだからでしょう。
2015.9.28(月)

2015/09/25

「音声から文字へ」を実践指導する世羅洋子氏

【新・英語屋通信】(46)

「新・英語屋通信」拝読しました。ハンドルネームでしたが、私は誰であるかを特定して思い出せます。私は1980年代当時から30年間以上もほぼ同じ方法で幼稚園児・小学生に教えてきましたが、誰かに役立っていると知って嬉しく感じています。
 私が経営するYES(山口イングリッシュスクール)の生徒は、PV法を活用して、実際に発音しながら、文字と音声の関係を学びます。小学校の中・高学年になると、毎回のレッスンで必ず問われる“How are you?”に対して、誰でもが使う“I'm fine.”だけでなく、自分がそのとき感じている“I'm happy.”などと答えるのが普通です。“Why?”と聞くと、「騎馬戦の練習で騎馬に乗れたから」と答えたあと、“How do you say 騎馬 in English?”と自分の知らない英単語を尋ねてきます。そのとき、発音時の舌や唇の動きや位置を意識させて指導する関係上、すぐさま英語で書くことができます。
 たとえば、生徒が「のどが痛い」と言って、「誰の?」と聞かれたとき、“My right arm hurts.”の my(ぼくの)を思い出しますが、さらに「のどがどうなってるの?」と問うと、「ひりひりする」などと返答します。これまでに習ったことだけで対応できない語彙や構文が出てくるわけですが、そこで「どう言えばいいの?」と追い打ちをかけると、“How do you say のど and ひりひりして in English?”と自分の知らない英単語を聞いてきます。その答が‘throat’と‘sore’であると知ったら、“My throat is sore.”と答えたあと、PV法チャートに対応させて“My throte is sore.”と書きます。そのさい throte の〔o-e〕に注意させて、「音は正解だけど、違う書き方は?」と問うと、別の綴りの〔oa〕を使って throat と書き直します。
 また、毎回いつも当日の曜日だけでなく、昨日と明日、昨日の前の日と明日の次の日、そして曜日・日付や天気を聞くので、いつしか英語話者なみの過去や未来についての感覚が身に付くようです。懐かしい便りがあったら、またお知らせください。
(世羅洋子)

 山口県宇部市に在住の幼児園児・小学生には、英語はYESで教わることを強く推奨します。指導の「方法」が確立され、優れた内容の「テキスト」(生徒には見せない)に基づきながら、しかも「インストラクター」が経験豊富だから、受験英語のみならず、社会人になって役立つ実用英語を身に付けられます。電話は0836-32-7660です。
2015.9.25(金)

2015/09/18

文字を見ると音が聞こえてくる

【新・英語屋通信】(45)

 僕は現在、周囲に英語話者が見当たらない大分県に住んでいるので、日常的に英語を使う機会は皆無です。たまに家内のメル友のカナダ人が来日したとき、僕が出迎えたりして、しばし相手をさせられて、拙い英語を使う程度の環境です。
 彼に会って、僕が“How have you been?”を言い終わらないうちに、“Coul|d_be better.”などと彼が挨拶をかぶせてきます。そして彼が“an|d_you?”と言い終えてから、僕が“So-so.”とか“Same as usual.”などと返しています。実際の英会話では、自分が言い終える前に、相手が言葉を重ねてくるので、いつもおたおたさせられます。普段から口の筋肉と反射脳を鍛えておく必要があると思うのですが、実行を怠っています。
 僕は保育園の年中組から英会話を始めました。レッスンはいつも“Hello!”から始まりましたが、語頭部の‘he’が「ヘ」になるので、何度も何度も〔h〕だけを言い直させられました。大人になってから〔h〕に続く‘e’が「弱母音」であると知りました。
 〔h〕を単独に言えたら、次は“How are you?”の how つまり〔h〕〔ow〕の2音をやはり何度か言わされました。その当時は〔h〕と〔ow〕が別々と音と知りませんでしたが、僕が使うトイレの壁に母がPV法の子音・母音の表を貼り付けていたので、そのおかげで英単語の綴りを無意識にそのルールで読むようになりました。文字はPV法の表以外いっさい見た記憶がありません。いま「文字を見たら音が聞こえてくる」ので、発音を徹底的に叩き込んでくれたクレイグ・ゴールズベリイと世羅洋子の両先生に感謝しています。
 また、小学校1年生までにまったく同じメニューのレッスンを3回受け、毎回の授業で“What day is today?”と聞かれ、その日は月曜日だったから、いつも“It's Monday.”と答えていました。続いて“What day was yesterday?”に対して、“It was Sunday.”と答えていましたが、“What day will it be tomorrow?”は聞き取れず、“It will be Tuesday.”になる理屈がわからなかったけれど、it will be は口癖になりました。
 僕は理数系のタイプだから、中学以降に教わる日本式英語は、パズルを解くような気分で接しました。読む技術はどうってことありませんが、会話をする機会がほとんどなかったため、英語話者に猛烈なスピードで話されるとついていけません。英語話者と交流するとき、自分の言いたいことを言える「スピーキングの訓練」をするべきと思いつつも、直前の目標がないと、人はなかなか準備しないものですね。
(ヤブレカブレ)
2015.9.18(金)

2015/09/14

綴りの‘g’は〔j〕か〔g〕で、〔z〕ではない

【新・英語屋通信】(44)

 NHK教育テレビに『サイエンスZERO』という最新の科学情報を知る手掛かりになる恰好の番組がある。当社のスタッフも1週30分間の科学授業を受けるつもりで、とても重宝に視聴させていただいている。
 昨夜の番組テーマは autophagy であった。接頭辞<auto->(自らの)はさておいて、冒頭に男性ナビゲーターから「ファジーって何でしょう?」みたいな問いかけがあり、相方の女性ナビが「fuzzy なら“曖昧な”だけど……」と答えたら、男性ナビが「fuzzy と<- phagy>は発音が同じで……」というやりとりがあった。
 fuzzy(毛羽立った)を派生させた fuzz(縮毛)の語尾音は〔z〕で、これを無声音の〔s〕に代えると、fussy(小うるさい)が fuss(大騒ぎ)から派生している関係が認識できる。言うまでもなく〔s〕と〔z〕は発音時の口の使い方がまったく同じになる。
 <-phagy>(食べること)は接尾辞で、異形に<-phagia>があり、綴りの‘g’のアルファベット名は〔j・ee〕だから〔j〕と発音する。〔j〕は無声音〔ch〕の有声音だから、〔g〕サウンドではない。〔ch〕と〔j〕もまた口の使い方がまったく同じになる。
 最近の日本語は「ズ」と「ヅ」の関係と同様、同音の「ヂ」を「ジ」で書くので、カタカナ表記の fuzzy と<-phagy>が同一になるのは致し方ないかもしれないが、できれば両者の英語音は「微妙に違っている」と言ってほしかった。
 ちなみに、接尾辞<-phage>(むさぼり食うこと)は macrophage(マクロファージ=大食細胞)で知られるが、やはり綴りの‘g’は〔j〕の域を出ていない。
 ところが、形容詞を作る接尾辞<-phagous>(を食べる)の‘g’は〔g〕と発音して、phagocyte(食細胞)に見る接頭辞<phago->(食べる)も同じく〔g〕で発音する。
 したがって、autophagous(自食作用の)の‘g’は〔g〕で、autophagia(自食)のそれは〔j〕になる。autophagous の意味は「体内組織を自己消化して、栄養状態を維持する生体の現象」で、内容が大切なのは当然だが、発音や接頭辞・接尾辞の知識があると、単語力が労せず百倍になる。
(編集部)
2015.9.14(月)

2015/09/07

辞書の例文を学んで単語力を増強!

【新・英語屋通信】(43)

 アメリカで“The sink is backed up.”というフレーズに出会ったことがあります。観光ホテルの調理用の sink(流し)が詰まった場面でした。
 back up は少年時代から野球用語の「バックアップ」が頭の中にすり込まれていて、またフロッピィディスクなどを「コピーする」ときにカタカナ語で使うので、「補完する」「後援する」みたいな意味と思い込んでいましたが、そのシーンでは何のことだかわかりませんでした。
 このフレーズの文型は“状態”を示す<be 動詞文>なのに、カタカナ語の「バックアップ」をずっと“動作”を表わす状況で使ってきたせいで矛盾を感じたのです。まあ、知らない言葉に出会くわしたら、ひとまず辞書で実例を搜すのがいちばんです。
 すると“The stalled car backed up traffic for miles.”(立ち往生した車が数マイルにわたって交通を渋滞させた)という例文を見つけました。その後、友人の英語話者に確認したら“The sink is clogged.”と言う人もいると教えてくれました。
 clog a drain(排水溝を詰まらせる)という clog の動詞の使用例を見たことがありましたが、名詞としての用例に“Clogs to clogs is only three generations.”という格言を見つけました。clog は「木靴」とか「コルク」の意味だから、「木靴から木靴へは、たったの3代」つまり「3代で貧乏に元戻り」するという戒めの教えです。
 非英語話者は言語の獲得が容易な幼少期を英語の中で暮らしていないのだから、単語を覚えたいなら、ちょっと面倒と思うかもしれませんが、丹念に辞書を引く必要があります。単語の調べ方にはコツがありますが、この稿では2種類を紹介しました。
<コツ1>動詞・句動詞は、意味が敷衍されて多様化しているので、すべて読むこと。
<コツ2>動詞化される以前の名詞の意味を調べること。
 そして、例文を1つか2つノートにでも書いておきます。そのうち忘れるでしょうが、頭の隅に残っていて、次にお目にかかれば、自分のものになるでしょう。
(S・F)
2015.9.7

2015/09/01

言葉には俗語・新語・略語が数多く登場する

【新・英語屋通信】(42)

 モニカ・ルインスキー嬢によるTEDの講話は、一言一句を明確に発声する公式スピーチの範とも言うべき話し方で、しかも最適の語句を厳選して見事な内容を構成している。高校の英語教科書に推薦できる格好の学習材料と言ってもいい。
 彼女は20分強の講演時間に約2400語を話しているから、1秒間に2語弱の速度で喋った計算になる。日常会話に頻出する“What are you doing?”(何をしているんですか?)のようなフレーズは、平均的に1秒前後の長さで4語程度になるが、モニカ嬢のトークの単語数は、その半分程度しかない。音節の長い単語を多めに使っているせいでもあるが、ニュースの読み上げのような早口ではなく、オーディエンスがはっきり聞き取れるようにと、間を取りながら1語ずつ明瞭に発音している。
 だからと言って、一般の日本人がTEDの会場で彼女の話を聞いて、すんなり理解できるほど簡単な英語ではない。聞き取りにくい原因の何たるかを検討したところ、使用頻度の低い単語が多く、併せて俗語・新語・略語を多めに混在させた現代的な特徴を持つ英文で、要するに目新しいマイナーな聞き慣れない用語や表現が多いとわかった。
 字幕入りの画面で見れば、馴染の少ない maelstrom(大渦巻き)や reverberate(鳴り響く)や surreptitiously(内輪の)などの単語も、前後の文脈と「語源法」でぼんやりと意味の見当がつくが、単語の概念が脳内に薄っぺらにしか入っていないため、耳で聞くだけでは同時的に消化できないと認識した。
 “I was / branded / as a tramp, tart, slut, whore, bimbo, / and, of course, that woman.”は「私は烙印を押された」のあとの as(として)に続く語は「身持ちの悪い札付きのふしだらな女性」を指すと推測できるが、聞くだけでは瞬時に捕捉できない。文字を見れば、それぞれの語に相当させる「尻軽女」「あばずれ女」「淫売」「売女」「ずべ公」などの訳語を思い付くし、一括して「売春婦」と訳せばいいと判断できるが、俗語の在庫量が足りないことを痛感させられる。
 ‘that woman’という表現は、『美女ありき』という映画でスペインの無敵艦隊を撃破したネルソン提督と恋に落ちて夜の女に身を落とすハミントン夫人を特定していたが、欧米の歴史や文化を知らないと、言葉の背景が見えてこない。the Sword of Damocles もまた、玉座の頭上に吊るした剣の糸がいつ切れるかわからないという王位の危うさを物語る古代ギリシアの説話に基づくし、mobs of virtual stone-throwers(石を投げる仮想の群衆)という表現はキリスト教の道徳観念に関連している。教養が足りないと、モニカ嬢が告げる主張の理解に及ばない。
 新語が多い点も厄介だ。近年のニュースに頻繁に登場する cyberbullying(ネットいじめ)はまだしも、webcamera に由来する webcam が過去分詞の webcammed で使われた場面は聞き取れなかった。meta-analysis や shut-shaming は英和辞典に出ていないので、調べるのに時間が掛かる情報過多のネット辞書に手を焼かされた。未知の固有名詞にも戸惑うし、略語のLGBTQのQ(genderqueer)もすぐにはぴんとこない。
 単語の99%がわかったとしても、聞いて把握できない単語が1%あれば、2400語で24語になるから、見当がつかない下りも出てくる。非英語話者は俗語に慣れていないし、新語に触れる機会も少ないから、耳から聞き取るのは容易でない。縁の薄い単語が1語でも出てくると、理解に努めている間に話の流れに遅れてしまう。ありていに言いと、一般の日本人がモニカ嬢の話を1回か2回くらい聞いて完璧に理解できるはずがない。
 彼女が使用した俗語・新語・略語は英語話者には日常語で、固有名詞も常識の範囲を越えていない。全文が当たり前の言葉だから、たとえ知らない言葉があっても、話の筋道が明瞭なので、英米人が内容の本質を間違えて聞くことはない。
 音声をキャッチできない語句もある。短母音入りの1音節語や子音が1つしかない短い単語はとくに聞き取りにくい。英単語はまた、途中で切れたり、後ろの語にくっついてリンキングするので、hit_on(しつこく言い寄る)などの句は単語と取り違えてしまう。
 音声が認識できたとしても、使い慣れない用語は、瞬時に意味を把握できないため、置いてきぼりにされてしまう。単語を半端にしか理解できない状況であれば、せめて日常的な機能語の部分は「チャンク法」で繰り返し練習して完全掌握しておく必要がある。そのためには「PV法」で音声の発音基礎を完璧にモノにしておかなければならない。
 聞き取れなかった部分を学習して完全に理解すれば、野球のピッチャーが時速150Kmで投げるボールの縫い目がバッターに見えるように、1語ずつ止まって聞こえるようになる。私の場合は文字まで見えるので困っている。母語であれば、会話中の文字が見えることなど決してない。(S・F)
2015.9.1(火)

2015/08/27

海外市場は英語で取引きされている

【新・英語屋通信】(41)

 わが社は出版を生業としているが、約30年前に3年間だけ英語塾を実践したことがある。その折、宇部市にある山口イングリッシュスクールがアメリカから音楽家志望のクレイグ・ゴールズベリイ氏を招いて、経営者の世羅洋子氏ともども講師を勤めてくれた。
 1時間の授業を週1回の月4回、1年間48レッスンのメニューを用意して、4?10歳の12人の同じ生徒に同じ内容を3回繰り返す実験をした。発音の基準とする「PV法」のキーサウンド以外の文字はいっさい見せなかったが、3年間通い続けた子供は、中学・高校を通して塾に通う必要がなくなり、高校入学と大学入試センター試験は満点か、それに近い成績を収めた。私どもは「言語では話し言葉が書き言葉に優先する」と確信した。
 その10数年後の1997年だったと記憶しているが、某テレビ局が九州・山口でオンエアされる『黒潮電撃隊』と題する番組で世羅氏と私どもの活動を取り上げてくれた。同局は韓国にも赴いて、教育長に英語教育政策についてインタビューした。韓国は当時、英語を使えない国に未来はないという切迫感を背負っていた。住民が10人ぽっちの僻地では、どんなビジネスも専業では成り立たないが、国内市場の規模が小さい韓国の企業は、いきおい外国に売り先を求めざるをえない。海外市場に打って出るには、相手国の言葉が必携具になるから、韓国は小学生に万国共通の英語を教えることを20年近く前に決断した。
 韓国は世界一の受験社会で、TOEICの成績を重視する点でわが国の英語事情と似ている。難関校の合格者のほぼ全員が「Non-Native として十分なコミュニケーションができる860点以上」と聞くから、英語で交流できる「レベルA」に達している。また、韓流の看板を掲げる芸能人はアジア諸国に足を伸ばし、スポーツ選手は賞金を稼げる国で活躍する流れを築いている。韓国訛りが耳障りな英語もあるが、実用的に交流できているから、小学校からの英語導入政策は大成功だったと言えよう。
 また、同番組は明治期の東京外国語学校で英語教育に尽力した徳山市出身の浅田栄次による英語の発音の重要性を説いた様子を紹介した。当社は英語の発音練習のPV法を世間に広める機会をいただいたものの、巷に英語を話したいとする願望はあっても、生活面でのニーズが低かったせいか、パフォーマンスは世間の関心を十分に得るに至らず、線香花火的な一時的現象に終わった。わが国の国内市場はいま急速に縮小しつつあるが、海外に打って出るには、小学校からの「本格的な英語指導」が必要であろう。(編集部)

2015.8.27(木)

2015/08/14

<the+比較級?, the+比較級?>の構文を攻略できて

【新・英語屋通信】(40)

 英語を学びたい者にとって、いまほど好都合な社会状況はかつてなかった。なかでもTEDの公式サイトは最高学舎の1つで、陳列台に「生きた英語」を山積みしている。
 “The Price of Shame”(恥の代償)と題したモニカ・ルインスキー嬢による講演は、彼女が自ら蒙った屈辱と同種の現象が被害者の許可なしにインターネット上で華々しく展開され、この「humiliation(恥辱)の文化」は人々から思いやりの気持を奪っているという内容であった。公に晒された恥の値には、犠牲者の損傷を考慮することなく、これを餌食にする者の利益にのみ値札を付けているとモニカ嬢は指摘する。
 すなわち、他者への侵害が素材になり、これを手際よく、遠慮会釈なしに、加工して、包装し、利益を得るために売り捌いている。その市場は活況を呈し、弱者を公然と辱めることが商品化され、恥辱が産業になっていると彼女は糾弾する。
 モニカ嬢は“How is the money made? Clicks”(その財はどのように生み出されるのか?多数のクリックで)と問いかける。その直後に<the+比較級?, the+比較級?>の構文が連続して登場するが、この部分は受験生のこのうえない教材になる。

 The more shame, / the more clicks.
 The more clicks, / the more advertising dollars.
 The more we click / on this kind of gossip,
  the more numb / we get to the human lives behind it, and
  the more numb / we get,
  the more we click.(中略)
 The more we saturate our culture / with public shaming,
  the more accepted / it is,
  the more we will see behavior / like cyberbullying,(後略)

 (恥が多いと、クリックは増加する。クリックが増えるごとに、宣伝費の増収になる。この種のゴシップにクリックし続けると、人々の背後にある暮らしぶりに無頓着になり、ますます感覚が麻痺して、私たちはさらなるクリックを重ねる。われらが文化に公然と侮辱することが溢れるにつれて、しだいに受け入れられて、ネットいじめのごとき行為を数多く目にするようになる)

 <the more ?, the more ?.>という構文は、学校英語で「?すればするほど、ますます?する」と訳せばいいと私たちは教えられてきた。ところが、モニカ嬢はシンプルに「?が多いと、?も多い」と表現している。
 また、この構文は「倒置形」を潜在させているが、the more のすぐ後ろに強調語の numb や accepted を位置させて、倒置文にならざるをえない必然的な形を示している。the more の直後に単独で使われる shame と clicks と advertising dollars は、まさしくその強調部で、文体を簡明にするため省略文にしている。
 なお、2度にわたる‘the more numb’の使い方は、現代人が大切な問題に鈍感になっていくことへの警告を含んでいる。文体ともども、このまま高校の教科書に掲載できる道徳的な教材として推奨したい内容と言える。TEDの閲覧は無料だから、虜になるのもよし、ナマの英語をみっちり勉強していただきたい。
 ちなみに、慣用句の“The sooner, the better.”(早ければ早いほどいい)の場合、sooner と better 自体を強調語にして、この構文の究極な形に到達している。
 30歳代の2人の東大出身者にこのTEDを見せたら、「the more ?, the more ?. の対句はよく使われるんですね」「なるほど、こんなふうに<the+比較級>の構文を使うと、相手に伝わりやすくなるのか」とコメントしてくれた。さっそく論文にでも利用するつもりだろうか?
(S・F)
2015.8.14(金)

2015/08/07

「完了時制」の攻略はコメディーを利用して

【新・英語屋通信】(39)

 TEDの公式サイトにゼイ・フランク(Ze Frank)による“Are you human?”と題したコメディーがある。「これからあなた方が人間かどうかをテストするが、当てはまる点があったら挙手してください」という聞き手を参加させる手法のお笑い芸である。
 “Have you ever / eaten a booger / long past your childhood?”(あなたは遠い昔の子供時代に鼻くそを食べたことありますか?)という設問から始めると、会場からどっと笑いが巻き起こる。
 “Have you ever eaten a booger?”は「現在完了形」という文型で、この短い漫談に同じ時制を表わす文が24回も出てくる。なんと23回が疑問形で、そのうち主語が三人称になる“Has your phone ever ??”が1度、be 動詞文系の“Have you ever been ??”が1度となっている。
 英文法書には現在完了形が“Have you ever / eaten raw fish?”(あなたは生の魚を食べたことがありますか?)などの例文で「いままでにしたことがある」という“経験”を語る文として、ever は専用の副詞の1つで、完了形には“完了・結果・経験・継続”の4種があると説明している。
 そこで、当社が複数の英語話者に日本人が英語学習で頭を痛めるテーマになっている4種の完了文の違いを説明すると、その誰からも「もう1回、言って」と要請されて、同じことを何度言っても、「何よ、それ?」という返事しか戻ってこない。英語話者は「完了の状態は完了形」で表現しているだけのことで、まったく無意識に使っているという。
 “Have you??”は“Do you??”“Did you??”“Will you??”“Would you??”などと同じく、疑問形の冒頭が<助動詞+主語>型だから、have が完了形専用の助動詞であるとわかる。ただし、後続の要素の動詞に「過去分詞形」を使うという決まりがあるので、英語を習い始めた初期段階で eat・ate・eaten・eating(現在形・過去形・過去分詞形・現在分詞形)の4種を丸暗記しておかなければならない。
 要するに、“Have you ever??”の言い方に慣れてしまえば、聞き手は残りの内容にだけ聞き耳を立てればいいのである。むしろ be 動詞文系であるか、動詞文系であるかの形式が問題で、そのすべてのパターンを口癖にしておくことが大切であると Bob Godin 氏は指摘する。
 単なる be 動詞文と be 動詞文系の完了文との違いを how を用いた wh 疑問文で見ておこう。
  How / are you?
  How / have you been?
 be 動詞の‘are’は単に“状態”を示すだけだが、‘have been’では完了形用の助動詞‘have’を使ったために、be 動詞もそれに伴って、過去分詞形の‘been’になる例である。この2つの wh 疑問文のうち、上が be 動詞文系の一般的な挨拶の慣用句で、下は「久し振りに出会った」ときの挨拶で、「過去から現在までの時間の幅」を示すため、完了文が用いられるのである。
 実際の会話では“How've you been?”とか“How you been?”となって、have を 've に短縮させたり、取り除いたりするが、‘been’があることで完了の状態とわかるのである。現在完了形はつまり、英語に特有の「過去から現在に至る期間を示す」表現で、日常的に4?5%くらいの割合で出てくるので、身に付けておくに越したことはない。「完了形には1種類しかない」と心得ていただき、理屈抜きでパターンを口癖にしてしまえば、なんてことはない。
 このコメディーは5分間弱だから、丸暗記できない量ではない。ゼイ・フランクの物真似をすれば勉強になるけど、発音が正しくないと mimicry は難しい。
2015.8.7(金)

2015/07/28

1つの語根から100の単語を覚える「語源法」

【新・英語屋通信】(38)
pose に由来する単語群
 名詞の pose は「姿勢」「ポーズ」「気取った態度」「見せかけ」などの意味を表わし、動詞は「ポーズを取る」「態度を示す」「ふりをする」などの意で使います。カタカナ語の「ポーズ」は pose とほぼ同じ範囲で使いますが、pause(休止、間)も「ポーズ」と書くので、紛らわしい点があります。
 pose は〔p〕〔o-e〕〔z〕の3音が並ぶCVC型の1音節の単語です。母音はアルファベットOの名前と同音で、語尾に黙字化したマジックeが添えられています。
 英語の「語根」(radix)は、漢字の扁傍冠脚に喩えられますが、むしろ漢字そのものに近い印象です。語根は「接頭辞」(prefix)や「接尾辞」(suffix)を従えて、新しい単語を派生させます。ラテン語に由来する語根<pose>は、漢字の「置」に近い感じですが、これを利用した<接頭辞+語根>型の単語には次の例があります。
  compose[com(共)+pose]【動】構成する、作曲する、落ち着かせる
  depose[de(降)+pose]【動】退位させる
  dispose[dis(分)+pose]【動】配列する、したいと思わせる
  expose[ex(外)+pose]【動】晒す、露出する、暴露する
  impose[im(内)+pose]【動】課す、負わせる、押しつける
  interpose[inter(間)+pose]【動】間に置く、言葉を差し挟む
  oppose[op(反)+pose]【動】反対する、対抗する、対比させる
  propose[pro(先)+pose]【動】提案する、申し込む、企てる、推薦する
  suppose[sup(下)+pose]【動】ではないかと思う、推定する、仮定する
  purpose[pur(前)+pose]【名】目的、意図、計画、用途、決心
 接頭辞に含まれる概念に呼応して、さまざまな意味を発生させています。ラテン語由来の単語は、語根の意味を知るだけで単語力を10倍くらい増強してくれます。

pose から派生した post の発展ぶり
 <pose>から派生した post は、ラテン語の「置かれた」という意に由来して、名詞には「地位」「職」「部署」「持ち場」「駐屯所」「交易所」などの幅広い意味が生じて、動詞は「持ち場に配置する」といった意味で使います。
 post はラテン語の「置かれた」の意味に端を発して「据えられた柱」となり、それが「柱」「杭」「標識柱」を指し示し、動詞は「掲示する」「張り紙をする」「貼る」「公表する」の意で使います。
 post はまた、イタリア語の「宿場」に転じています。宿場には替え馬や交替要員が用意されますが、フランス語を経由して、英語の外来語は「早馬」「早飛脚」から発展して「郵便」「郵便物」「郵便局」の意を含みます。したがって、動詞は「郵便を出す」「郵送する」という意味で使います。
 post の音声は〔p〕〔o-e〕〔s〕〔t〕の4音で、二重母音〔o-e〕は pose と同じ発音ですが、語尾音はブレンド化して〔st〕になります。日本語の「ポスト」は訛った言い方だから、英語話者には通じないと心得てください。
 post は postcard(葉書)や postmark(消印)などの合成語を作っています。イギリス英語は postbox(ポスト)や postman(郵便配達人)のように post 好きですが、アメリカ英語は mailbox や mailman のように mail のほうを好みます。
 <post>を語根とする派生語には、poster(ポスター)、postal(郵便の)、postage(郵便料金)があり、post の母音もやはり〔o-e〕で、アクセントはそこに置かれます。「ポスター」はもはや日本語ですが、カタカナ語は発音の違いを直しさえすれば、そのまま自分が使える英単語にできて、その種の外来語は優に数千はあるはずです。
 posture の名詞は「姿勢」「ポーズ」「心構え」「態度」「見方」で、動詞は「ポーズを取る」「気取る」だから、pose とほぼ同じ意味を持ちます。ただし、posture は‘o’にアクセントを置いて、短母音〔-o-〕(god(神)と同じ)と発音します。

postive と position の違い
 語根<pos>から派生する<語根+接尾辞>型には、次の2語がお馴染みです。
  positive[pos+itive]【形】積極的な、確信した、肯定的な
  position[pos+ition]【名】位置、姿勢、立場、職、地位
 <-itive>は<-ite+-ive>から成り、<-ition>は<-it(e)+-ion>から成る合成接尾群です。いずれも2種類の接尾辞が合体した語形だから2音節で、したがって2つの要素が合体した positive と position の両語は3音節になります。
 positive と position の語根は<pos>型ですから、短母音は〔-o-〕になります。そのうえで positive は最初の母音にアクセントを置いて発音します。しかし、position は2音節目の母音にアクセントを置いて、1音節目の‘o’は弱母音にします。この両語は<pos>部が同じでも、異なるリズムを作っています。
 カタカナ語の「ポジティブ」と「ポジション」の場合、後者は英語とほぼ同じ位置にアクセントを置きますが、前者をそれと同じ調子で発音する人がいます。英単語の一部の意味を拝借して使うカタカナ語は、しばしば発音が狂っているので、英語話者には変に聞こえます。機会あるごとに正しい音声を調べておくことをお勧めします。
 アクセントの位置には一定の決まりがあって、英語圏で育った者にはなんてことない規則です。非英語話者であっても、英語の音則に慣れてしまえば、アクセントを正しい位置に置くようになれます。
 余談になりますが、<post->には「後ろの」「後部の」「あとの」「次の」を意味する接頭辞があって、postpone(遅らせる)や posterior(あとの)などの派生語を作っています。語源の<post>との混同は避けてください。
(編集部)
2015.7.28(火)

2015/07/24

“You're welcome.”をすんなり言えるように

【新・英語屋通信】(37)

 “welcome”と「ウエルカム」の発音は等しくない。welcome は2音節で、ウエルカムは5音節だから、音律的に著しく違っている。
 で始まる2音節語は、welfare(社会福祉事業)と welder(溶接工)くらいしか知らない。welfare は2音節目が〔f〕で始まり、そのうえ母音に第二アクセントが置かれるので、welcome と取り違えることはなかろう。welder は日常的な単語でないし、第2音節中の母音が〔r〕型だから、welcome と聞き違えることはありえない。
 また、well(よく)に派生する合成語は、well-known(よく知られている)や well-done(よく火が通った)など数多くあるが、2音節目が〔k〕で始まる単語は見当たらないし、〔d〕で始める単語も少ない。要するに、welcome に似た音素・音節・音律を持つ単語がないから、ウエルカムで間に合っているしだいだが、その安易さに甘えたままだと、英語の発音の進歩が停滞して、不自由な気分から永久に免れられなくなる。
 welcome は〔w〕〔-e-〕〔l〕〔k〕〔弱〕〔m〕と発音されるCVCCVC型の2音節語になる。1音節目の〔w〕で唇を前に突き出しておちょぼ口を作り、〔-e-〕で口を横に開きぎみにして舌を浮かし、〔l〕で舌先を歯茎の後ろに押しつける。2音節目は〔k〕で舌の後方を盛り上げ、唇を固く閉鎖する語尾音〔m〕の直前に口を小さく開けて弱母音を入れ込む。welcome を丁寧に発音すると、そんなに簡単ではない。
 英語は母音にアクセントを置いて、その強弱でリズムを形成する言語だが、welcome では2音節目の<come>の母音〔-u-〕が弱母音「シュワー」に弱化するので、〔-e-〕を強調するのが発音のコツになる。
 相手に何かを手渡すとき、“Here you are.”(これをあなたに)と言って、“Thank you.”と返されたとき、“You're welcome.”(どういたしまして)と答えるタイミングはけっこう難しい。友達と2人でこのやりとりを日常的に正しい発音で何度も練習しておけば、実戦でうまく言えたとき、気持が晴れやかになって、もっと数多くのシチュエーションを練習したくなる。
(編集部)
2015.7.24(金)

2015/07/21

AETの英語音声指導に具体的な統一性を

【新・英語屋通信】(36)

 外国人が日本で職を得て働くには、日本語という巨大な壁が立ちはだかっている。英語話者の採用が大量に見込める唯一の職業は、AET(英語補助教員)にほかならないが、採用手段は市町村ごとに著しく異なっている。そもそも、基準がないのでは?
 AETの導入は、英語の音声教育に主眼を置くものの、何を教えるべきかが曖昧だから、全国的に統一された教授法は確立されていない。文科省は教科書検定で重箱の隅を突つくような細かい指示を出すのに、AET連のばらばらな活動ぶりは見ないふりして野放しにしている。言語は使うための道具だから、慣れるだけでは目的にならない!
 私どもが知るAETには it is の短縮形 it's と it の所有格 its の両方とも its と書く者がいた。there と their を逆に綴る者もいた。英語は話せても、読み書きの学力が足りないAETが全国にごろごろいる時代があった。現在はどうだろう?
 約70年前の終戦直後、日本人が英語を学びたがる動機は、実生活と密接に関係していた。漫画の『ブロンディ』に見る当時のアメリカの平均的家庭は、育パパのダグウッドがいて、自動車や電気冷蔵庫のある裕福さで、ミュージカル映画に胸をときめかせたが……。
 そんな日本人の憧れの的をフランスの哲学者ポール・サルトルが無個性の「画一主義」と評した。巨大資本に基づく大量生産のせいで、アメリカ社会は間違いなくワンパターン化していた。当社刊行の『アメリカの高校生』を編集したとき、教育システムまで形骸化していると知った。ファーストフード店のあり方やスポーツに興じるアメリカ人の様子は、いまなお類型化が色濃い。只今「ジャパン」は追随中か?
 わが国の英語教育は、アメリカの凋落で単なる学力判定用の受験英語と化した。国際化のもと、私どもは音声教育の重要性を鑑みて、AET向けに“How to Teach English to Japanese Students”を制作して、日本人教師が日本版の『英語ゲームの教科書』を併用すれば、格差のない効率の高い英語授業になると判断したが、大誤算だった。甘いね!
 日本をぶらりと訪れる昨今の英語の使い手は、個を掲げる「個人主義」の目立ちたがり屋だから、規制にとらわれず、やりたい放題を好む勝手主義の輩が多い。AET職は好きにやりなさいという放置主義だから、明確な目的を求めない方向がぴったり合致して、無秩序なAET授業になっている。日本人の英語力を育てる明確な目標を定めて、強いリーダーシップのもとでAETの活用を具体的に検討する時機が訪れている。(S・F)
2015.7.21(火)


2015/07/16

口の形を示した映像が見たいのですが……

【新・英語屋通信】(35)

【Q】『英語の発音とリスニングの音則』を購入して、音声をダウンロードしたら、単語の発音が入っているだけかと思っていたら、著者のバブ・ゴーデンさんが日本語で要点を説明してくれている音声もあって、びっくりしました!でも、発音の本なので、DVDや動画配信など、口の形が映像で見られたら、もっといいなあと思いました。お話がおもしろかったので、動くバブさんの姿が余計に見てみたくなりました(笑)。現在は書籍に掲載されているボイスプリントや口の形のイラストなどを参考にしながら、音声を聞きつつ、がんばって独習しています。(東京都・OL)

【A】言語の獲得では、独習以外に良策はありません。著名なスポーツ選手や芸術家に秘訣を聞いても、彼らはただ「近道はない。ただ丹念に、こつこつやるだけ」と答えます。とくに「友達(ライバル)と競争しながらの独習」はとても効果的です。
 口の形の映像は、市場でいろいろ散見できるので、私どもが同類のものを提供しても仕方ないと思って、いまのところ控えています。当社は約20年前にPV法の本家本元である The Primary Day School と連絡を取りながら、『英語のアイウエオ』と題して、単音などをVHS(ビデオテープ)に収めて紹介したことがあります。
 この映像をそのまま当社のホームページにアップしてもかまいませんが、まだPV法そのものの重要性が理解されていない段階にあり、十把一からげに扱われて、屑として埋没する可能性が高いため、もったいないので封印しています。また、コストを掛けて遊び的なツールを新しく作ったとしても、似たような低視聴率しか出ないでしょう。混乱を避ける意味もあるし、効果的でない面にやたら手をつけても、学習者の時間の無駄になるケースが多いと判断しての映像未公開です。悪しからず。
 なにはともあれ、45の単音の発声を独習しておけば、TEDなどの映像を見たとき、どんな人がどの音をどう発音するかがわかってきます。突き放すようですが、自分でも研究してください。発音研究は面白くて、ホビーになるし、自分が自発的に関わった体験は必ず身に付きます。技術の習得におまじないやマジックは通用しません。(編集部)
2015.7.16(木)

2015/07/15

grateful は grate に由来する語ではない

【新・英語屋通信】(34)

 「grateful(感謝に満ちた)と grate(こすれる)の語源の関連性」についての質問にお答えします。一口で言うと、この grate と grateful の語源は関係ありません。
 英語圏の子供であれば、台所用具の grater(おろし金)は知る機会のあるワードで、幼少期に覚えたら忘れません。“He grates on my nerves.”(彼は私を苛立たせる)は女性同士の会話に出てくるフレーズです。この grate は「軋る→擦れる→擦る→擦り潰す→触れる→触れる→引っ掻く→害する」などと幅広く意味が発展しています。目的語が nerves(神経)なら、訳語は「触る」が適切でしょう。
‘grate on my nerves’はつまり‘annoys me’だから、この a bothersome person に対する表現はいろいろあって、“He gets on my nerves.”が最も多く使われています。get は汎用性の高い動詞だから、grate の代用ができるのです。
 単に“He grates on me.”と言ってもいいし、“He rubs me the wrong way.”とか、“He pushes my buttons.”という表い方もあります。子供が喧嘩して、相手に“You're a pain in the ass.”とか、“You're a royal pain”といったフレーズを映画かTVで聞いたことがあります。
 grateful の語根[grate(快い)]は廃語になったので、からの展開と見なせますが、この語根は漢字の「謝」に相当して、派生語には grace(優美)や gratify(喜ばす)のほか、「おめでとう」すなわち congratulations[con+gratul+ation+s]などの語が数多くあります。当社刊行の『英単語マニア3』(p.114?116)を読んでいただければ、たぶん agree[a<ad(へ)+gree(好意)]していただけるでしょう。
 なお、grate には fireplace(暖炉)を囲む枠の部分の「火格子」の意もあり、この語は crate(木枠)に由来しています。grate のような1音節語には、語源違いの同音同綴異義語が多々あります。
 単語学習は奥が深く、お金の掛からないサイコーの趣味になります。英語学習は自習が中心だから、大金を消費する必要はなく、「知りたい!」という欲望が次から次へと湧いてきて、それが一生続いて終わりはありません。
(J・J)
2015.7.15(水)

2015/07/10

チャンク学習は名詞チャンクから始める

【新・英語屋通信】(33)

 「チャンクという言葉をたまに英語関係の本で見掛けるけど、英語の文型とどう関係するのか?」という類の質問にまとめてお答えします。
 日本語・英語を問わず、どんな言語も必ず“構造”を有しています。言語学の巨人ノーム・チョムスキー(Noam Chomsky)の指摘によると、人の言葉は似たり寄ったりの構造で、相違点より類似点が多いとのことですが、当社は彼の主張に同意しています。
 しかしながら、言語は日常的に用いる“道具”だから、使い慣れていないと利用できません。英語と日本語の構造は、大局的に同一種と言えても、実用品としては大きく異なります。そのじつ、日本人にとって、英語には使い勝手の悪い面が目立ちます。
 大まかに言うと、英文は「主語・動詞・目的語・補語・副詞類」の5種の「文の要素」で成り立っています。学校で教わるS・V・O・C以外にA(advervial)を加えればいいだけで、古典的文法の考え方から大きく外れるものではありません。
 文の要素はさておき、意味を含む最小単位は「単語」ですが、実用ではいくつかの単語を並べた「句」で利用します。この使用単位の句を「チャンク」と称しています。
 日本語の「本」はさしたる使用上の制約を受けない「名詞」です。英語の book(本)は「加算名詞」(数えられる名詞)だから、my book(私の本)・a book(ある種の本)・this book(この本)となり、複数は books(何冊もの本)・three books(3冊の本)・some books(いくつかの本)のように、限定詞(決定詞=determiner)を伴わせて「名詞句」で用います。また、some book なら「ある本」で、the book は「特定の本」だから「電話帳」にも使い、the Book と書けば「聖書」です。さらに、a book of tickets(回数券の1綴り)などの「名詞句」に展開していきます。
 数多くの合成語を作る面では、book は本と似ていても、動詞では「予約する」の意味になり、派生語の booking(予約)や bookable(予約できる)が生じるなどして、発展しやすいけれど、概念的な言葉ゆえに、使い方は簡単ではありません。
 使用上の特別な決まりがチャンクごとにあり、名詞句はつまり、文中でS・O・Cを務めたり、Aの一部に使われる「名詞チャンク」です。名詞チャンクは形が多様だから、慣れないと正しく使えません。話し言葉は会話の道具だから、脳内に完全定着させないと口から出てこないので、チャンク学習はまず名詞チャンクから始めます。
(編集部)
2015.7.10(金)

2015/07/06

〔r〕の発音の取り扱い方、そしてコツの伝播

【新・英語屋通信】(32)

【Q】日本人が最大の苦手とする[r]音を意識しすぎるあまり、入らなくてもいい場所にまで[r]を入れてしまいがちです。自分も含めて、米国に留学経験がある人に多いような。英国人と話したとき、その[r]の舌の巻きの無さに驚いていたら、「あなた、アメリカで勉強したでしょ?ちょっと[r]意識しすぎ」みたいに言われて、かえってそれからすごく気になるようになりました。意識しすぎても過剰になるし、気を抜くと全然舌が巻けない(日本語にない動きですから)、もうお手上げです。「巻きすぎず、巻く」には、ひたすら口の形の練習あるのみですか?
(東京都・OL)

【A】〔r〕と〔l〕はセットで練習します。比較対照するためです。〔l〕は口蓋に舌をべったり接触させないと出せないサウンドですが、〔r〕は舌がどこにも触れません。両者の発声法は大きく違いますが、日本人の耳には同じように聞こえます。
 日本語の「ラ行」はどっちつかずの音声で、この類のサウンドを日本人が1種類で間に合わせたため、〔r〕と〔l〕の区別ができなくなりました。ラ行は舌先を上歯の歯茎に当てて出す「弾音」ですから、あえて言えば〔l〕のほうに似ています。
 〔r〕を発音するコツは、ライオンになった気分で“grrr”と吼えてください。日本語の「グ」から母音を抜いた〔g〕を出したらすぐ、舌を巻きながら〔r〕を続けます。そして grass と green の順で練習し、ついで green grass と言ってみてください。英国人が言うとおり、舌を巻きすぎたら発音が間に合いません。
 〔l〕は「♪ランララ、ランララ」と歌うように語頭音〔l-〕の発声練習をします。そのあと、real の語尾音〔-l〕では舌先が口の天井から離れず、舌の両側から「側音」として出す様子を確かめてください。real は筋肉が無意識に動くまで訓練します。
 ちなみに、英国人の多数は real を〔r〕〔-i-〕〔弱〕〔l〕と言い、米国人の多くは〔r〕〔ee〕〔l〕と言いますが、「渡り音」(glide)の弱母音「シュワー」(schwa)を割り込ませて〔r〕〔ee〕〔弱〕〔l〕と発音する人もいます。米国のボストン地区は英国ふうで、英国人にも米国ふうに言う人はいます。練習メニューのお薦めは、渡り音を入れた“Really?”(ほんと?)です。難は易を兼ねるって感じかなあ。英語話者は一般に自分たちが簡単にできているので、このテーマを軽視しすぎています。
(編集部)
2015.7.6(月)

2015/07/02

「わかる」と「できる」と「できてわかる」の違い

【新・英語屋通信】(31)

 portfolio[port(運ぶ)+folio(葉)=1枚の紙]は「紙挟み」や「書類かばん」を意味する英単語です。そのほか「2つの項を設定して、この対立概念(イエスとノー)を組み込むと4つの局面が生じますが、その図式の形状が木の葉の葉脈を連想させることから、この図表も「ポートフォリオ」と呼んでいます。
 publish or perish(発表するか、さもなくば死)という言葉があって、近年の学者とりわけ理系の研究者は、海外の知識を導入する必要上、英語で書かれた研究論文を読まなければならず、実際すらすら読める人は多くいます。書ける人もいて、限定的ながらも、仕事英語が「わかる」人はけっこうな数にのぼります。しかし、彼らが英語を自由自在に話したり聞けたり「できる」人たちであるとは限りません。
 また、親の赴任先が英語圏であったために、幼年期から英語話者の中で育った者が少なからずいて、彼らは日常英語を難なく話したり聞いたり「できる」人たちです。しかし、専門的な知識や経験が足りなければ、通訳的な仕事に就くことは可能であっても、文化英語が「わかる」人たちとは言えません。
 英語が「できて、わかる」人は、ざらにはいません。いても超少数派だから、その主張を世の中に浸透させるのは難事業です。わが国のメディアは、英語が「わかるだけで、できない」人や「できるけれど、わからない」人たちが色メガネで見た尤もらしい情報に占拠されています。とはいうものの、英語情報は質量ともに手に負えない状況です。
 国民の大多数は、どこかの時点で挫折して、英語が「わからないし、できなくなった」者たちだから、加工された中途半端な情報に振り回されています。今後は世界からもたらされる本物の英語情報を自ら分析できる国民層を分厚くする必要があるでしょう。
 英語がわからないし、できないのは、国の方針と学習法と指導者が駄目だったからにほかなりません。日本語が使えれば、脳の言語野は正常なわけで、英語だって使えないはずはないでしょう。ただし、英語は日本人の母語ではないから、限られた時間内で効率良く学ぶしかないのです。英語話者が母語を身に付けたのと同じように学ぶには、学習時間の短さを補うために「質の良い」学習法で「できるだけ多く」トレーニングすることです。
 英語はまず「PV法」で話し言葉の音声の基本をモノにし、「語源法」でネズミ算式に語句を覚え、「チャンク法」で文型が口から無意識に出てくるよう学びます。(編集部)
2015.7.2(木)

2015/06/29

合成疑問詞で初期英語の基礎を確立

【新・英語屋通信】(30)

 technical terms(専門用語)はふつう関係者だけしか知らない。たとえば、海外の錦鯉愛好家やバイヤーなら、その品種名はもとより、業界用語の「サシ」に至るまで、日本語をそのまま翻訳せずに使っている。錦鯉は体表が鱗に被われており、サシとは「前方の鱗の下に差し込んだ部分の色が上から透けて見える様子」を指し示す専門語だが、名詞は深い内容を1語だけでほぼ伝えられる。
 当社は錦鯉に限定した月刊誌『鱗光』を50年間以上も刊行しているので、関係者なら正確な意味でサシを使えるし、専用語は特定的に使用される言葉だから、限定された範囲内の英単語や表現を知っておけば、英語によるコミュニケーションが可能になる。しかし、海外の錦鯉品評会での入賞魚の撮影で出張するカメラマンは、英語で数や色などの語を聞き取れることが前提で、そのほか専用の文型をいくつか覚えておく必要がある。
 「この鯉は何歳ですか?」「この鯉は何センチですか?」などと、入賞鯉のデータに関する質問をして、正しく聞き取って記録しなければならないからだ。尋ねる言葉は疑問形になるので、疑問詞の5W1H(who・what・when・where・why・how)を使う例が多いが、とりわけ what と how から作る「合成疑問詞」が活躍する場面は多い。
 “How old / are you?”というフレーズは遅くとも中学校で教わるが、この文型を応用して“How old / is this koi?”とでも言えばいい。特定された目の前の鯉を対象にする場面なら、省略文の“How old?”だけでも通じる。この how old が合成疑問詞である。
 また、体長を問うとき“What size?”と聞くと、5cm刻みか10cm刻みの大雑把なサイズで答えられることが多いので、正確な寸法を知りたければ“How many centimeters?”と聞けば、具体的な数字が返ってくる。what size も合成疑問詞だが、何事も臨機応変が肝心だ。いずれにしても<how+形容詞(+名詞)>型や<what+名詞>型の合成疑問詞の作り方を知っておけば、多くのケースで事が足りる。
 知識と経験を積み重ねた特定分野の「専門英語」は、その範疇の言葉を知っておけば対応できるが、何が出てくるかわからない“雑談”は、話題があちこちに飛び火するので、日常語から常識的な慣用句までの「総合英語」を身に付けておかないと会話の輪には入れない。ビジネス上の交渉事や大学の講義やコメディーは、高水準の「文化英語」だから難しいが、まずは合成疑問詞だけの「用足し英語」で第一歩を踏み出そう。
(編集部)
2015.6.29(月)


2015/06/23

先頭チャンクは音則が先で、文法はあと回し

【新・英語屋通信】(29)

 NHKテレビの英語講座で「先頭チャンク」の does he を do he と言わせて、間違いを訂正するシーンを見て驚いた。ご丁寧に does she と does it も do she と do it と言わせて、仰々しく言い直させて、三人称単数現在形では助動詞 do を魔法で does に変えますと脈絡のない説明をしていた。オリジナル性が皆無で、中学1年で教える二番煎じの内容に受信料を取って、学習者を煙に巻いて、おちょくって、なめきっている。
 do 動詞を人称代名詞と併せて使うさいの肯定形・疑問形での先頭チャンクの下記の語順は、文法上のテーマとするより、音則で把握するほうが身に付きやすい。
  I・you・we・they + do     do   + I・you・we・they?
  he・she・it   + does    does + he she it>
 do は〔d〕〔oo〕の2音から成り、ほかの語といっしょに使うと、母音が弱化して短母音〔-oo-〕になるので、音則上の強弱は I・you・we・they と相性が合う。しかし、do と he・she・it の並びは発音しにくく、必然的に does すなわち〔d〕〔-u-〕〔z〕にならざるをえない。そして does がほかの語と結ばれるとき、母音が弱化して弱母音シュワーに変わるため、he・she・it を強調しやすくなるので、その発音を身に付ければいい。
 言語では音声が先にあって、文法はあと付けの理屈でしかない。助動詞 do は意味の希薄な機能語だが、英語の疑問形は1種の強調文で、肯定形に付け足す do も強調語だから、音則的に大切な役割を担っている。否定形の don't による先頭チャンクも I・you・we・they と似合って、he・she・it は doesn't と結びやすい。なお、先頭チャンクとは別物の“Do it yourself.”の do it は、目的語の it より動詞の do を強く発音する。
 NHKの英語講座は10年1日のごとくではなく、約30年前のマーシャ・クラッカワーさんの講師時代より著しく劣化している。言語習得はスポーツや芸事と同じで、自習が中心になるから、学習者にそれを伝えない番組は無用の長物になる。NHKは大西泰斗氏のような英語をよく知る優秀な人を役立つように起用していない。ちょい役では、宝の持ち腐れだ。電波の無駄遣いならまだしも、本気の勉強家を勘違いさせて迷わせてしまう。
 教育物での娯楽的手法は、束の間の遊びでしかない。当事者は「演出」と言いたいだろうが、教育番組での「やらせ」はうんざりだ。メディアの退化が国民の判断材料を奪って、国家を滅亡へ暴走させる時代を日本人は経験してきた。(S・F)
2015.6.23(火)

2015/06/18

バブ・ゴーデン氏の「話す・聞く・書く・読む」日本語力

【新・英語屋通信】(28)

 「Bob Godin 氏の新作『英語の発音とリスニングの音則』は、日本語なれした感じの文体ですが、本当に彼自身が書いた本ですか?」という類の質問が複数ありました。
 バブさんが日本語で話すときのぺらぺらぶりからすると、「聞く」能力も「話す」のと同じくらいあると思いがちですが、じつは妻君が使う日本語ですらよく勘違いします。話すほうは自分の言葉の在庫だけで発信できても、聞くほうは初出の単語や表現が際限なく出てくるので、頻繁に“Once more.”が返ってきます。
 「書く」能力はまあまあですが、文学に出てくる日本語の表現は多彩すぎるため、辞書を引きながらになるので、「読む」能力は十分とは申せません。書くのは自分の持ち言葉でこなせても、読む場合は受身になるからです。
 バブさんは細かい表現にこだわり、日本語を書く能力もある程度あります。しかし、この種の本は曖昧さがまったく許されないので、本書はバブさんに話してもらった内容をテープから起こして、私どもが編集しました。それをバブさんと数回にわたって読み合わせをして、訂正を重ねながら、数年かかって完成させました。
 バブさんが日本語でレコーディングするとき、あらかじめ話す内容を日英両語を混じえて、私どものアドバイスを受けて、納得のいくまで時間を掛けて整理します。そのあと、日本文を作って読むわけですが、そのとき口調がやや固くなりがちです。バブさんがリラックスして話す日頃の日本語は、聞く者が耳をそば立てるほど面白くて、そのままを使いたくなりますが、話し言葉には重複や無駄が多いので、エキスだけを抜き取ってダビングすると、全体のリズムが壊れます。痛し痒しといったところですね。
 当社がホームページにアップロードした英語音声は、学習者が利用して「役に立つ」ことに主眼を置いています。音質の統合性より臨場感を持たせることを第一義とするため、他所行きと普段着がいっしょになって、竹に木をついだ印象があるかもしれません。
 ともあれ、過去の経験から推して、CDは利用が低いようです。スタジオ録音はナマモノでなくなるからでしょう。乗物の中でリスニングする学習法なら、ホームページから無料で小型レコーダーにダウンロードしていただければいいと判断して、電車通勤の人をターゲットにしたしだいです。よろしく。
(編集部)
2015.6.18(木)

2015/06/15

Tom の母音に見る米音と英音の違い

【新・英語屋通信】(27)

【Q】Tom という名前は「トム」と書きますが、アメリカ人が Tom Cruise と言うとき、「タム」のように聞こえます。その周辺事情を教えてください。
(宮崎県O・R)

【A】トムは英国式で、タムは米国式の発音です。所変われば、音も変わるで、英米人は互いに多少の違和感を覚えますが、問題が起きるほど大きな差はありません。
 イギリス音の Tom の母音は、唇をすぼめて小さな円形を作って発音するので、日本語の「オ」と似ています。アメリカ音の Tom のそれは、口を大きく開けるので、日本語の「ア」と同じ音質になります。
 Tom の本来のサウンドは、もちろん「オ」に似た英音のほうですが、アメリカに渡って各地の音が混じり合ううちに変質して、短母音〔-o-〕は「ア」に似てきたわけです。米音には「オ」と比較される短母音は存在しませんが、類似音の周辺事情は複雑です。
 音声学は一般に father(父)の最初の母音を〔-o-〕の長母音と見なしますが、これは Tom の母音と同じ音質です。〔-o-〕の長母音は saw(のこぎり)の〔aw〕と言えますが、このサウンドは「オー」でも「アー」でもありません。
 ただし、rose(バラ)の二重母音〔o-e〕の最初の音は、口を円形にして唇をすぼめて発音するので「オ」と似ています。そして toy(おもちゃ)の〔oy〕や corn(トウモロコシ)のr型母音〔or〕は、いずれも二重母音で、最初の音は〔o-e〕と同じ種類です。
 また、car(車)に見るr型母音の〔ar〕も二重母音です。このサウンドは〔-o-〕または〔aw〕の口の形から発声されるので、「ア」を長く伸ばしたように響きます。
 〔-o-〕〔aw〕および〔o-e〕〔oy〕〔or〕そして〔ar〕の関係は上記のとおりです。英語の母音において、英音は日本語のサウンドに似た面があって学びやすいけれど、米音を身に付けたほうが汎用性が高くなります。英語の本家本元は英国であっても、昨今は世界的にアメリカ英語が圧倒的に優勢です。Tom は米音で〔t〕〔-o-〕〔m〕と言い、Bob も〔b〕〔-o-〕〔b〕だから、ボブでなく、バブのように言ってください。
 ちなみに、語頭の‘o’について言うと、office(事務所)は〔-o-〕で、offer(申し込む)は〔aw〕と発音します。アクセントのない offend(攻撃する)は弱母音のシュワーになります。
2015.6.15(月)

2015/06/11

shall の気分に見る法助動詞の立ち位置

【新・英語屋通信】(26)

――“Gone With the Wind”(風と共に去りぬ)より
 第二次世界大戦後、敗戦国の日本を統治したGHQ(general head quarters=総司令部)のトップを務めたダグラス・マッカーサー元帥がフィリピンで日本軍に破れてオーストラリアに退却するとき、“I shall / return.”(私は戻ってくるだろう)と言い放った有名な言葉が今日に語り継がれている。この shall には「必ず」とか「絶対に」という話し手の強い意志が込められていた。
 70年以上も昔の名言だが、言葉は時代とともに変遷して、昨今の日常英語では shall を使う場面が少なくなっているようだ。アメリカで編纂された everyday expressions の1万フレーズ級の資料の中にも shall は数例しか見当たらない。
 “Gone With the Wind”という1939年製作の上映時間が4時間近い映画がある。そのラストシーンの少し前に主役のスカーレット・オハラが最初の夫のレット・バトラーと撚りを戻そうとして“I only / know that / I / love you.”(私にはあなたを愛していることだけがわかっている)と言うシーンがある。レットが“That's / your misfortune.”(そいつは災難だったね)と言い返すと、スカーレットが“If / you / go, / where / shall I / go? / What / shall I / do?”(あなたがいなくなったら、私はどこに行けばいいのよ。何をすればいいのよ)と訴えるが、この shall を will に代えると、彼女の茫然自失の心境をぴったり表現できない。
 レットが“Frankly, / my dear, / I don't / give a damn.”(率直に言うと、お前さんには、俺は“糞くらえ”すらやりたくない)と吐き捨てる。ちなみに、本作品は damn を使った(意図的にか?)ために、上演阻止運動を呼び起こしている。
 スカーレットは“Oh, / I can't / let him / go! / I can't! / There must be / some way / to bring him back. / I can't / think about it / now. / I'll / go crazy / if / I / do! / I'll / think about it / tomorrow. / But / I must / think about it...”(ああ、私は彼を行かせることなんてできない。行かせられない。彼を取り戻す手が何かあるはず。今はそのことを考えられない。明日それを考えよう。でも、考えなくては……)とひとりごつが、このセリフに can't と 'll(=will), と must が立て続けに出てくる。いずれも動詞といっしょに用いる法助動詞だが、話し手の気持を表わす言葉だから、英語話者は主語に従わせて使っている。
 レットが使った助動詞の don't も法助動詞と同じ使い方で、動詞に補佐させながら、話者の態度を表明している。法助動詞が適切に使えないと、ちゃんとした英語にならないことを教えてくれる場面であった。
 shall は昨今、隅のほうに追いやられているが、死語になったわけではない。ミュージカルの“King and I”(王様と私)の主題歌に“Shall we dance?”(踊りましょう)という曲があった。ちなみに、その王様役を現在ブロードウェイで渡辺謙が演じている。
 耳に心地良いこのフレーズが日本映画の題名に利用されて、そのテーマがハリウッド映画になってリメークされた。shall はパワーのある単語だから、名文句になるように使えば、常に流行語になる性格を秘めている。
2015.6.11(木)

2015/06/09

英語の歌を楽しむ発音のノウハウ

【新・英語屋通信】(25)

 英語の歌が正しく歌えると、とても楽しくなる。歌うコツの1つは「単音の音質」を正確に発音することで、もう1つの要領は母音上の「アクセントの強弱」を間違えないことに尽きる。「音質」と「強弱」の2つを意識して歌えば、おのずと英語の「リズム」が生じて、どんな曲でも歌えるようになる。
 しかし、最初から速いテンポの曲に取り組むと基礎が疎かになるので、ひとまず童謡の“Where is Thumbkins?”などで練習するのがいい。この曲の tune(節)は“Are you Sleeping?”から拝借した指遊びだから、アメリカ人なら誰でも知っている。

  Where is Thumbkin? Where is Thumbkin?
  Here I am, here I am, How are you today, sir?
   Very well I thank you, Run away, run away.

音声1(mp3) 音声2(mp3)

 使用単語は16語しかないが、単音は25種(子音15・母音10)もある。簡単に歌えそうだが、なめては事を仕損じる。基本だから、少し詳しく説明しておこう。
・where…〔wh〕は唇をすぼめて前に突き出し、〔-e-〕系のr型母音の〔ere〕では舌を口の奥に軽く巻き込む。1音節語だが、2つの音を明確に発音しなければならない。
・is…短母音〔-i-〕と摩擦音系の有声音〔z〕から成る。
・thumbkin…子音は〔th〕〔m〕〔k〕〔n〕の4音で、短母音の〔-u-〕と〔-i-〕を挟んで2音節になる。bomb(爆弾)などと同様、〔mb〕の‘b’は黙字化が起きる語形。
・here…〔h〕は肺から空気がストレートに出てくる無声音で、これに〔-i-〕系のr型母音が続くので、where よりは易しいが、安易に発音すると英語話者の耳に届かない。
・I…二重母音の〔i-e〕で、I am の言い方には慣れていても、well I での〔l〕に続く〔i-e〕では発音が甘くなりやすい。
・am…短母音〔-a-〕は日本語にはないサウンドだから、口の開け方と舌の位置の止めどころが難しい。また、鼻音の〔m〕に母音を加えて「ム」としないように。
・how…〔h〕の息を出すと同時に、日本語の「アウ」を短くした〔ow〕を続ける。
・are…r型母音を代表する長母音〔ur〕そのもので、子音の〔r〕の母音バージョンだから、舌の巻き込みをはっきり意識する必要がある。
・you…二重母音の〔u-e〕そのものだから、〔ee〕と〔oo〕の2つの長母音を併せた音になる。唇をゆっくりとすぼめていく気分で発音する。
・today…〔t〕と〔d〕は同系の閉鎖音で、両音の間に短母音〔-oo-〕を挟み、2音節目の〔ay〕は二重母音〔a-e〕の別の綴り。
・sir…無声音〔s〕は〔z〕と同系の摩擦音で、〔ir〕は〔ur〕の別の綴り。
・very…〔v〕は上歯で下唇を噛む〔f〕の有声音で、短母音〔-e-〕を添えたあと、巻舌音の〔r〕を続けて、最後はアクセントのない〔-i-〕系の弱母音になる。
・well…〔w〕は〔wh〕の有声音で、短母音〔-e-〕のあとを側音〔l〕で締める。
・thank…〔th〕〔-a-〕〔ng〕〔k〕の4音から成るが、語尾に子音が2つ続くため、後続の音が次の単語に連結されやすく、ここでは母音〔u-e〕つまり you をリンキングさせて than|k_you のようにCVC|CV(子音+母音+子音|子音+母音)で言う。
・run…語頭子音〔r〕と語尾子音〔n〕に挟まれた〔-u-〕は最も中立的な短母音。
・away…way は〔w〕と〔a-e〕の2音で、語頭の‘a’は弱母音のシュワーで添える。
 この歌に出ない子音は、摩擦音〔sh〕系と破裂音〔ch〕系だが、類似音の〔s〕〔z〕で代用されている。〔qu〕は〔wh〕と共通するし、〔y〕は you の中に似た音がある。
 歌詞の2番で thumbkin が pointer(人差指)に替わるので、母音〔oy〕が出てきて、3番の tall man(中指)には長母音〔aw〕がある。この歌には弱母音もあるし、where と here では〔-e-〕系と〔-i-〕系の二重母音の後半がr型母音の〔弱r〕になる。
 登場しない母音は、米音特有の〔-o-〕だけだが、5番の baby(小指)を Bobby(バブさん)に替えれば、短い譜面ながら子音の閉鎖音〔p〕〔b〕も加わり、単音がほぼ勢揃いして「選択して網羅」されている。
 要点は very well I thank you の1節で、〔v〕〔r〕〔w〕〔l〕〔th〕〔ng〕〔k〕の7つの子音の並びでは、口と舌を素早く移動させるトレーニングになる。正しい発音で歌えば、その技術が次のステップに結び付く。
(Bob Godin)
2015.6.9(火)

2015/06/06

発音記号が音を出すわけではない

【新・英語屋通信】(24)

【Q】発音を学ぶとき、発音記号を見るのに辞書を引いたりする時間が惜しいけれど、何とかならないでしょうか?(T・O)

【A】「発音記号」は文字の1種だから、音を出してくれません。言葉はまず音声ありきで、母語話者は幼児期に音声の出し方を自然に身に付けます。外国語を学ぶ場合、なにはさておき、その話し言葉を構成するサウンドの「発声法」から始めなければなりません。すべての音声を正確に発音できて初めて、発音記号との照合が可能になります。
 日本人はとかく、カタカナ音を英語音に当てはめがちですが、両者はまったく異質なものと承知してください。カタカナと発音記号を一致させたところで、何の意味もないどころか、間違ったサウンドが身に付くと、むしろ英語学習の大きな障害になります。
 英語のサウンドはPV法で学んで、「45種の単音」および「アクセントのあり方」による「リズム」を会得すれば、単語の大半を自力で正しく発音できるようになります。あらかじめ音声のあり方を知っておけば、誤差的な語の発音記号だけを確かめれば済みます。
 英単語には外来語が多く、例外的な綴りが多々ありますが、発声法を知っておけば、発音記号は役立つガイドになります。ちなみに、英語話者で発音記号を知る者は皆無に近いでしょう。英語の辞書類は、綴りを読むための独自の記号を定めていますが、統一された共通記号になっていません。
2015.6.6(土)

2015/06/05

チャンク法が身に付くと「分かると忘れる」

【新・英語屋通信】(23)

 アメリカのTV番組には“I shoulda been here this morning.”といった「完了助動詞文」のセリフがよく出てきます。この文の原点は<S+beV>(主語+be 動詞)型の構造を持つ「be 動詞文」で、過去や完了または話し手の気分を告げるときなど、次のような重層的な発展を見せます。
  I'm / here / for the party.(私はパーティのためにここにいる)
  I was / here / 'til ten.(私は10時までここにいた)
  I have been / here / all day long.(私は1日中ずっとここにいた)
  I should be / there / now.(私はいまそこにいるべきだ)
  I should have been / here / this morning.(私は今朝ここにいるべきだった)
 be 動詞文は状態を表わしますが、<have+been>型の「完了文」はその延長線上にあって、I have been は I've been のように短縮されます。そして、話し手の気持を添える場面は「助動詞文」にして、その完了形は should have の部分を短縮させて shouda と言います。
 チャンク法とは、フレーズをいくつかの単位に分解して、口に出してチャンク(塊)ごとを個別に音則どおり練習し、最終的に言いたい内容の文を組み立てる無意識脳を作る手法です。上記の例では、3つに区切った冒頭の固定した形を脳内に叩き込むように練習しておけば、言葉の塊が潜在意識下に住みつく状態になって、そのうち考えずに口からフレーズが出てきます。真ん中の here と there の部分は状況しだいで変わってくるし、最後の時間や目的も変化する要素で、この両方にメッセージの内容が含まれています。
 英語は論理的な構造を持つ言語だから、理屈がわかれば、積み木遊びのように、文を無限に発展させられます。最初は「分ければ分かる」という考え方で練習し、最後に「分かれば忘れる」ことを目指して言葉を身に付けていきます。
 母語の話し言葉は意図せず「身に付く」もので、書き言葉は「身に付ける」学習対象です。そのじつ、文字がなかった時代は語り部が口承で物語を伝えてきたし、流暢に話せても、読み書きできない者がついこの間まで世界中に溢れていました。幼児期に使わなかった外国語は、書き言葉なみに学んで身に付けるしかありません。
(Bob Godin 監修)
2015.6.5(金)

2015/06/03

単語の意味はどんどん広がっている

【新・英語屋通信】(22)

 近年、数えきれない種類の“○○○ for dummies”と題した本が出版されている。この dummies は入門者たちのことで、crocheting(クロッシュ編み)に至るまで、何でもありのハウツー本で、人を馬鹿にしたような dummy の使い方は俗語と言えよう。
 手元にある Children's Thesaurus(児童用類義語辞典)の見出しには dummy がないから、idiot で引くと、a stupid person とあり、dummy, moron, dunce, fool, dope といった類義語が見える。そこで、“Macmillan Dictionary for Children”の dummy の項を引くと、2種類の説明がなされている。
1.A figure / that is / made / to look like a person.(人に見えるように作られた姿)とある。そして、ウェディングドレスを着て店舗の飾り窓の中に飾られる dummy を例示しているから、要するにマネキンにほかならない。
2.Something / that is / made / to look like something else / that is / real.(本物のように作られた何か)とある。この例には俳優が用いるガンを挙げている。
 つまり、子供たちには dummy を人形や贋作物と教えているが、世間では dummy を「でくの棒」転じて「ぼんくら」のニュアンスで使っているわけだ。
 英語ニュースに出てくる新語や新表現は、すべて既存の単語を基にしているから、英語話者なみの想像力がないとついていけない。言葉は実生活の中でどんどん広がっているのである。
 したがって、単語が内包する意味の範囲は、辞書ではとても把握しきれない。言葉は日常生活の中で掴み取れればいいが、それができない環境下であれば、いくつかの辞書を併用しながら、人間が考えつきそうな連想力を応用的にトレースする訓練を重ねていくと、そのうち単語の全容が掌握しやすくなる。
(編集部)
2015.6.3(水)

2015/06/01

語尾の‘-ten’と‘-sten’でサイレント字が生じる音則

【新・英語屋通信】(21)

 ホームページにアップロードした音声を校正担当者が「often(しばしば)がアーフンではなく、アーフトゥンと発音していますが、ぼくたちは学校で‘t’がサイレントされると教わりました。調べてみると、最近は‘t’も発音するケースが多いようだから、このままでいいんでしょうね」と報告してきました。
 語尾を‘-tn’と綴る英単語はありません。しかし、発音が〔tn〕と子音続きになる単語は少なからずあって、語尾に見られる‘-ten’や‘-ton’のように、子音の間に母音字を挟んでいます。そして、この〔tn〕は母音がなくても1音節をなしています。
 語尾の‘-ten’には、lighten(明るくする)などの動詞がいくつか見られます。また、‘-tten’と綴る語なら、written(書いた)などの動詞の過去分詞形が多数派で、名詞なら kitten(子猫)などがあります。語尾を‘-tton’と綴る語形も、cotton(木綿)などの数個の名詞は〔tn〕と発音します。
 ただし、1音節語にはアクセントがあるので、母音字がサイレントされず、ten(10)では〔-e-〕があり、ton(トン)の語中母音〔-u-〕(〔-o-〕と違うから例外)もそのままです。
 なお、tan(日焼け)・tin(ブリキ)・stun(気絶させる)も1音節語だから、その母音はもちろん〔-a-〕〔-i-〕〔-u-〕です。この種の母音はサイレントしにくいサウンドだから、2音節以上の語にアクセントがなくても、弱母音のシュワーが残ります。
 さて、often について言うと、語頭の‘of-’の部分は off(から離れて)と同じ発音の〔aw〕〔f〕です。〔t〕と〔n〕は舌先が同じ位置に来るので、素早く言うと、前にある音が消えやすくなり、soften(柔らかくする)も同じく、ゆっくり発音すると〔t〕が表面に出てきます。この音則は語頭の‘o’が長母音〔aw〕であることと関係があります。英語はアクセントの強弱でリズムが形成されるからです。
 また、listen(聞く)・fasten(結ぶ)・hasten(急がせる)・glisten(きらきら光る)・chasten(懲らしめる)・christen(洗礼を施す)・moisten(湿らす)などの動詞の語尾部‘-sten’は、舌先を〔s〕から〔tn〕に移すさい、〔t〕が脱落して〔sn〕になります。子音が3つ続くと、発音しにくい場面があるのです。
(編集部)
2015.6.1(月)

2015/05/20

「実用英語」における5段階の実力

【新・英語屋通信】(15)

 一口に「実用英語」といっても、ピンは英語の native speaker(母語話者)なみから、キリは命令された用事を理解できるだけの Janitor English(掃除夫英語)まで、多層なレベルに広がっている。流暢でなくても、相手と意思の交流ができれば、役に立つ「使える英語」と言えるし、自分が置かれた状況下の用件がこなせれば、ひとまず実用英語の使い手と見なして構わない。
 単語1つだけで伝える初級者が使う「1語英語」は、いわば「断片英語」と呼ぶべきカタコトだが、握手を求めて“Friend!”と言い添えれば、聞き手は親しくしてもらいたいのであろうと推察してくれる。ごくごく初級の入門英語だけど、話が通じたのであれば、初歩的ながらも実用英語と認めてよかろう。
 ついで、挨拶をしたり、交通機関を使ったり、ショッピングができたりと、旅行者が使う程度の英語は、ほとんど1秒以内のフレーズで用が足りる。中級レベルの「1秒英語」は、いうなれば「用足し英語」でしかないが、実用英語になっている。
 しかし、英語圏で生活すると、日常品を買い求めるときなど、正確な数値のやりとりをしたり、物品の用途を教わったりする。公私両面での人間関係が発生するので、Q&A的会話が多くなり、理由を述べるとき複文を使う場面も生じる。毎日的なフレーズはほぼ「2秒英語」になるが、この種の「生活英語」は上級者の英語と言ってもいい。
 つまるところ、言葉は手段でしかなく、社会活動のための道具でしかないから、それぞれの業務分野で流通する「範囲内英語」では、専門用語や特殊表現が多くなる。職種ごとに難易度が大きく違うものの、この種の「仕事英語」は有段者の英語と言えよう。
 そして、英語の講演を聞いても理解できるし、ディスカッションにも参加できるし、コメディーを観劇して笑えて、英語話者と対等に渡り合えれば最上級の英語力を身に付けたと見なせる。高段者が用いるこの「総合英語」は、いうなれば「文化英語」にほかならない。ここまで到達すれば、もはや英語の達人と言って差し支えない。
 人口の減少が続くわが国では、何をどうしたところで今後は国内需要が激減していく。売り手すなわち供給側は、いきおい海外のマーケットに踏み込まざるをえないが、そのためには世界共通語である実用英語の習得は避けて通れない。(S・F)
2015.5.20(水)

2015/05/19

“Hop on Pop” by Dr. Seuss

【新・英語屋通信】(14)

子供たちは絵本でファミリー語を学ぶ
 「同音同綴の母音」を含む単語のグループを「ファミリー語」と言います。そのファミリー語の何たるかを説明するとき、たいてい1音節語が例に使われます。
 kid・zip・thin・this・whip・rich・limp などでは、語中音〔-i-〕がファミリーを形成しています。pig・pin・pick・pitch・pill などでは、語頭・語中の〔pi-〕をファミリーと見なします。hit・fit・quit・wit・sit・shit などでは、語中・語尾の〔-it〕がファミリーを作っています。
 昔のアメリカの家庭で子供に文字の読み方を教えるとき、1単語だけの音声と綴りの関係を単独に教えるのではなく、同じサウンドを含むファミリー語をまとめて教えていました。ファミリー語はいわば、フォニックスの前身に相当する存在です。
 “Hop on Pop”は1963年制作のDr.スースの名著です。hop は“hop, step, jump”の hop で、ビールに苦味や香りを添える hop ではありません。pop にも「ポンと言う音」の意の pop や popular の短縮語がありますが、ここでは「おやじ」類を指します。
 hop も pop も軽快な響きを持つファミリー語として、HOP POP のページに父熊の腹の上で2匹の子熊が hop する挿し絵を添えて“We like to hop on top of Pop.”とあります。その右のページは STOP と題して、おやじ熊が“You must not hop on Pop!”と子熊を叱りつけるイラストが描かれています。
 最終章は“What does this say?”とあり、囲みの中に“seehemewe, patpuppop...”などと書かれています。綴りの読み方を覚えさせるための全編これファミリー語の絵本で、子供に読んで聞かせる最高の教材として永遠のロングセラーになっています。
 当社の蔵書には$3.95のラベルが貼られています。本の値段はたかだか知れていますが、カセットテープはアマゾンに12,491円と見えています。「べらぼう!」と言いたくなりますが、PV法の45種の単音の正しい発音をマスターすればカセットは買わずに済ませます。ちなみに、アクセントは1音節語の母音を強く発音すればいいだけですが、文ではやはりリズムが生じます。PV法を確実に身に付けてから読んでください。
(編集部)

http://www.amazon.co.jp/Hop-Pop-Beginner-Books-R/dp/039480029X
2015.5.19(火)


2015/05/18

“Random House English-Japanese Dictionary”

【新・英語屋通信】(13)

英文の用例が身に付くアイテム
 書名から推察できるとおり、本辞典は翻訳物だから、英文の用例が実用的なのは当然としても、その日本語訳もほぼ完璧と称賛できる。この種の「英和辞典」のわが国の編纂力は凄すぎて、何の努力も挟まずに利用できるので、日本人の英語下手をかえって助長するのではないかと懸念したりもする。
 英単語の綴りさえわかれば、日本語ですべて教えてくれるので、知識がすらすらと頭に入ってくる。その反面、英語の使い方は撫でるように薄っぺらにしか入らない。
 自国語による教育があまり進んでいない一部のアジア・アフリカ諸国の場合、英語(フランス語などもある)に頼らざるを得ないため、学習者は英語話者になってしまう。方言話者に似て、標準英語を使えないだけで、発音が米音や英音から大きくずれていても、全教科を英語で学ぶおかげで、英語話者であることに違いはない。
 フィリピンの人が訛りの強い発音で英語を使う様子を見て、日本人も「日本語訛りの英語で十分」などとほざく意見があるが、その考え方は間違っている。日本語で教育を受けて、学科の1つとして英語を学ぶだけの日本人が英語話者になれるはずはない。
 明治期のわが国の高等教育では、一部で英語話者が英語で講義していた。また、海外で実戦的な英語を身に付けた輩は、見事な英語の使い手になった。松岡洋右が国際連盟を脱退するときの演説の迫力には思わず聞き惚れてしまう。日本人が英語話者なみに考えるようになれるには、大学で全教科を英語で教えなければならないだろう。
 それはさておき、本辞書の利用法は、用例をしっかり読み込むことに尽きる。急がば回れで、時間のある者は用例ノートを作るといい。言葉は繰り返し使わないとすぐに忘れるが、用例の書き抜きを続けていると、実用英語の構造がそのうち身に付いてくる。
 本辞書の長所の1つは、語源考に優れて(初版は翻訳が不十分)いることで、印欧語の歴史的考証はとくに興味深い。わが社が刊行中の『英単語マニア』(全3巻)と併せて読み込めば、そのうち英単語博士になれることを保証してもいい。
 近年はパソコンから辞典の呼び出しが可能だが、GIGO(garbage in, garbage out=ガイゴー)の言葉どおり、屑入れからは屑が多く出てくる。英語学習者なら手元に置いておきたい辞典と推薦したい。辞書なら、やっぱり小学館なんですねえ。
(編集部)
2015.5.18(月)


「あっと言う間に」と“Ants in pants”

【新・英語屋通信】(12)

 日本語を少し使えるようになって以来、私は10年間以上も「あっと言う間に」という表現を聞き取れなかった。意味がわからないので、辞書を引くんだが、見出しに「あっというまに」の項目がないし、言葉を正確に把握していなかったため、それらしき表現が出てきたとき、大勢に影響はないだろうと無視して聞き流していた。
 私がサウジアラビアで働いた数年間、同行した妻がのんびり屋の気質だったからか、滞在中にこの表現を一度も聞いたことがなかった。息子も無口な性格で、そもそもヨーロッパに留学させていたし、彼からもこの文言を聞いたことがない。
 沖縄に舞い戻ったある日、この句をふと本の中で見つけた。そこで、辞書で「あっ」を引くと、「驚いたり、感心したり、思わず何かに気付いて出す声」と解説されていて、派生句の「と言う間」を見つけた。おまけに「と言わせる」も出ていた。
 それからというもの、その日のうちに「あっと言う間に」が3回も4回も耳に響いて、自分でもすぐに使えるようになった。日本語のネイティブ・スピーカーは私のような経験はしないだろう。母語では bootstrap(コンピューターが稼働できるまでの一連の処理プログラム)が知らない間に身に付くからである。
 言葉は早いうちに覚えてしまうほうが何かと便利だ。知っている語句なら、何度も使ううちに、自分の所有物にできるからだ。日本語は発音が簡単だけど、英語は複数の単語が並ぶ文になると、音則がいっきに難しくなるから、基礎を学ばないと子供が話す言葉も理解できないと思う。
 “Ants in pants”は蟻がパンツの中に入った状況だから、「むずむず・もぞもぞする落ち着かない気分」の表現で、ants と in がリンキングして「アンチン」のように言うが、このフレーズを初めて聞く日本人は、たいてい「はっ?」という顔をする。英語の話し言葉は草書体のように言わないと、英語話者には通じにくい。
(Bob Godin)
2015.5.18(月)

2015/05/12

歌はイミテートできても、言葉は真似られない

【新・英語屋通信】(11)

 沖縄のバーで英語の歌を上手に歌うフィリピン人の女性がいて、姿を見なかったら英語話者と勘違いするほど抜群に発音がいいのよ。
 彼女はホステスだから、お客のテーブルに来て、酒を注いだりするが、英語を話すと、アキサミヨー、フィリピン語なまりのとんでもない発音で英語を話すわけよ。
 歌は音声だけだからイミテートできるけど、会話は自分の頭から出てくる言葉だから、真似はできないね。
(Bob Godin)
2015.5.12(火)

英語の Children Dictionary に見る発音用記号

【新・英語屋通信】(10)

英語話者はほぼ3歳までに話し言葉を獲得します。文字が読めるようになる時期は、平均的に就学のちょっと前ころでしょう。そのとき、自分が言ったり聞いたりする音声と文字の綴りを一致させる手段として「フォニックス」が活用されています。ただし、フォニックスには特定された方式がありません。
 日本人の子供が仮名の五十音表に示される文字を丸覚えするのと同様、フォニックスでもやはり、音声と一致する基準の語形は丸暗記です。大半の Children Dictionary において、フォニックスに準じる綴りの一覧表がすべての見開きページの角っこに示されている様子からして、その種の事情が汲み取れます。
 どの辞書も25種前後の綴りの読み方を記号的に掲げていますが、辞書ごとにそれぞれ異なる数を紹介しています。ウェブスター(Webster)が最も多くて26種を掲げており、その内訳は母音が19種(弱母音のシュワー1種を含む)で、子音は7種だけです。
 子音では、bath の〔th〕と区別するため、綴りが同じ feather の〔th〕を斜体で示しています。ring の〔ng〕、church の〔ch〕と shade の〔sh〕のほか、実際の綴りと異なる記号を用いて wheat の〔wh〕は〔hw〕とし、measure の〔s〕は〔zh〕で表わしています。マクミラン(Macmillan)やホートン(Houghton)では、2種の〔th〕の違いを指示するだけです。私どものPV法が feather で〔th"〕を使い、measure では〔sh"〕として、2種の有声音に濁点を付けて記号化した理由も区分が目的です。
 母音については、ウェブスターが18種と弱母音を掲げた状況からして、母音重視の姿勢がよくわかります。英語では子音の発音はさほど問題ではなく、多様な母音の違いを判別することが大切であると一目瞭然で理解できます。
 わが国のテレビ講座での発音学習では、母音を軽視して、子音の違いだけを大袈裟に騒ぎ立てていますが、その姿勢は噴飯物というしかありません。英語は母音に強中弱のアクセントを置いてリズムを形成する言語だから、弱母音のあり方を知ることがいかに大切であるかを肝に銘じてください。
(編集部)
2015.5.12(火)

ギリシア・ラテン語系の英単語は漢字に似て

【新・英語屋通信】(9)

 NHKに「白熱教室」と題した海外の大学の授業を要約した番組(毎週金曜日午後11時より55分間)があります。その中で放送された「ハリウッド白熱教室」は、南カリフォルニア大学(University of Southern California)の映画芸術学部の Drew Casper(ドリュー・キャスパー)教授による講義でした。
 授業中、教授が受講者に「ギリシア語由来の photography(写真撮影術)という言葉はとても響きがいいけど、その語源を知って私はいっそう嬉しくなってね」と興奮ぎみに語り、黒板にギリシア文字で「フォト」と「グラフィン」と書いて、その原義を知っている者は誰かいるかいと尋ねるシーンがありました。
 挙手したアンナという生徒に「驚いた、知っているのかい?」と教授が迫ると、彼女が「私、ギリシア人なんです」と答えて、教室の中が笑いに包まれるシーンがありました。教授が「ギリシア人なの?本当に。こんな偶然ってあるのかい?仕込みじゃないの?」と言うほどだから、アメリカで英単語の語源考がないがしろにされていることが想定できます。アンナは「フォト」が「光」で、「グラフィン」が「書く」と答えましたが、英単語の語源については、日本人の英語学習者のほうが深い関心を寄せていると感じました。
 たいていの英和辞書が photograph[photo+graph(記録)]はギリシア語で「光で書いたもの」と説明しています。派生語の photography[photo+graphy(表現法)]をはじめとして、photographic[photo+graphic(graph の形容詞語尾)]は「写真の」で、photographer[photo+grapher(記録する人)]は「カメラマン」の意と覚えてきましたし、photograph に付ける接尾辞の<-y><-ic><-er>の語形も知っています。
 一方、英語話者はラテン語やギリシア語の語源を知らなくても、幼少期から使ってきた単語なら、音声と意味を耳で聞いて一致できるのです。日本人が漢字の偏旁冠脚について曖昧にぼんやり知っている状態に似ているようです。
(K)
2015.5.12(火)

2015/05/11

PV法は英語の発音を攻略する唯一無二の手段

【新・英語屋通信】(8)

 英語の文字は英字アルファベット(26字)を利用した「表音文字」です。音声(45音)の数が文字数より多いため、不足を補う手段として、2字以上を組み合わせて、特定の音声を表わす「ダイグラフ」(digraph=連字)を作りました。
 この表記法をいつ誰が作ったのかは別にして、英語の綴りのシステムは、じつに合理的にできています。ただし、「綴り=音声」の関係を知らないと、読むことは叶いません。じつのところ、シェークスピアによる演劇が盛んに上演されていた1600年前後の観客の大半は、文字の読めない人たちでした。
 近代を迎えて、教育が一般人に普及されるにつれて、英単語の綴りを読む工夫の指導法が試行錯誤されました。現在はほぼ「フォニックス」(Phonics)だけに定着していると言えるでしょう。
 英語話者は英語の発音を知るための「発音記号」を使わないし、そもそも記号の存在すら知らない人が大勢います。一方、日本人は英語音を耳から覚えたのではないから、目安として発音記号に頼らざるをえないのかもしれません。
 しかし、記号が音を出すわけではありません。個々の発音用記号が表わす音を知るには、実際の音声を用いた教育法が必要になります。PV法(Phonovisual Method=音視法)は45種の音声を表わす「キーサウンド」の綴り(語形)を特定して、その発音を覚える手段だから、すでに英語を話せる英語話者にとってはフォニックス同様の手段ですが、音声学を下敷きしている点がPV法と特徴です。
 PV法は英語音を聞いて育たなかった非英語話者にとっては、英語の綴りを正しく読むための唯一無二の方策です。英語の綴りを読むための発音記号は、そもそも英米で異なるし、英語話者には無用の長物ですが、非英語話者は発音記号の代わりに、PV法が定めたキーサウンドを発音の手掛かりとすればいいでしょう。
(Bob Godin)
2015.5.11(月)

2015/05/07

uncle と ankle はともに「アンクル」

【新・英語屋通信】(7)

 「カタカナ語」を収録した「外来語辞典」は、日本語辞典の1種であって、外国語辞典ではありません。日本語への浸透度の深さによって、カタカナ語(外来語)か否かが決定されています。
 uncle(おじ)と ankle(足首)は、いずれも「アンクル」と書きますが、不思議なことに、後者は2万語を掲載したカタカナ辞典に出ていません。原語(大多数が英語)の側からすれば、カタカナ辞典は片手落ちと言うか、掲載されてなくて「えっ!」と驚かされる反面、こんな言葉まで出ているのかとびっくりさせられます。
 uncle の「アンクル」には、派生語が United States の頭文字をもじった「アンクル・サム」(Uncle Sam(アメリカ人もしくはアメリカ合衆国)くらいしか見当たりません。ところが、姿の見えない ankle の派生語は目白押しの印象です。
 「アンクル・レングス」(ankle length=くるぶし丈)に関連する「アンクル・ソックス」(ankle socks=くるぶしまでの短い靴下)や「アンクル・ブーツ」(ankle boots=足首までのブーツ)は服飾用語です。「アンクレット」(anklet=足首を飾るバンド鎖)は装飾品として知られますが、接尾辞の<-et>が指小辞だからか、足首までしかない短いソックスを指し示す例もあります。
 「アンクル・サポーター」(ankle supporter=足首用サポーター)や「アンクル・ウォーマー」(ankle warmer=足首を暖めるすね袋)はスポーツ用語です。ちなみに、後者は「レッグ・ウォーマー」(leg warmer)とも言います。自転車競技は「アンクリング」(ankling=足首の関節を使うペダルの踏み方)という用語を使っています。
 カタカナ語が増える理由は、適切な訳語を見つけにくいからですが、ankle warmer は脚絆でもゲートルでもなく、野球の捕手が着ける leg-guard(レガーズ=すね当て)とも違うし、実際のところ訳語の設定に困りました。各分野で使用されるカタカナ語を網羅すると、おそらく5万語は超えるでしょう。
 uncle と ankle の発音の違いは、最初の母音の〔-u-〕と〔-a-〕だけですが、日本語に「ア」が1つしかないため、異なるサウンドが同じ表記になるのです。なお、〔n〕は両語とも〔ng〕の別の綴りで、〔c〕と〔k〕は同じです。〔-le〕は音節主音になる子音の〔l〕だから、語尾の‘e’はサイレントされます。
(K)
2015.5.7(木)

woman と言って「馬」に間違えられる

【新・英語屋通信】(6)

 単語1つだけが相手に通じなくて困ることがある。ロサンゼルスに駐在していたとき、私がいくら woman(女性)を繰り返しても、英語話者にはまったく通じなかった。日系人から「馬」に聞こえるとからかわれたが、日本人には woman の発音はとても難しい。
 では、どう発音すればいいのか、皆目わからなかった。H・M教授がUSC(南カリフォルニア大学)にいた関係上、そのもとで音声学を研究中の英語話者から週1回45分間ずつ米語音の発音レッスンを3カ月ほど受けたことがある。
 夜間教室からの帰路に Hollywood を通って、山の上の見慣れた大きな看板を目にするたびに、この語を何度も口にして、なんとか〔w〕の「口と唇の使い方」を覚えるに至った。しかし、woman はうまく言えなかった。woman の正しい発音は、メリーランド州にあるプライマリイ・デイ・スクールの校長先生から教えてもらった。
 問題点は語頭の〔w〕音ではなく、綴りの‘o’にアクセントを置いて〔-u-〕と発音して、アクセントの消えた‘man’の母音を「弱母音」(シュワー)に代えて、強弱のリズムを刻むのがコツだった。また、複数形の women の‘o’は例外的に〔-i-〕と発音して、‘men’の母音は〔-i-〕系の「弱母音」に変化すると指導された。
 1音節語の man は〔m〕〔-a-〕〔n〕で、men は〔m〕〔-e-〕〔n〕だが、多音節の中でアクセントを失ったとき、短母音が弱化すると教わった。woman や women は study word(勉強する単語)だから、「丸暗記する単語ですよ」と校長先生は言い添えた。
 〔w〕は「口を前方に突き出して、舌を平らに伸ばしたまま発声する子音で、接触する調音器官がないため「半母音」でもある。日本語の「憂い」(うい)や「上」(うえ)での母音は続けやすいが、同音が続く「うう」はやや言いにくい。woman や women の語頭は、母音が2つ続くみたいで、発音しにくい理由をなるほどと納得できた。
 理屈を知った私は break through(突破する)できて、英語音の音質の違いを一気呵成に会得できた。その後の私は、やはり依然として間違えることが多いけれど、一度ブレークスルーしているせいか、すぐに正しい音則と取り替えることが可能になっている。
 出版業は書籍を商って口に糊する職業だから、発行物を読者に買っていただくために、英語の習得がさも簡単であるかのような宣伝文句を並べ立てがちだが、正直に言うと、日本語と大きく違う英語音の習得は容易でない。
(S・F)
2015.5.7(木)

2015/05/02

“The Macmillan Guide of English Grammer”

【新・英語屋通信】(5)

目から鱗の生涯の友とすべき英文法書
 本書は英語学習者の「目から鱗が落ちる」英文法のガイド本と評して過言ではない。紹介するにあたって、当社の蔵書を取り出したら、背の無線綴じが外れて、本がバラバラに壊れた。中身は赤のアンダーラインと蛍光ペンでカラー印刷のようになっている。
 本書には「あとがき」がなく、「序」らしきものが Introduction の冒頭に Aims(目的)と題して、わずか5行だけある。曰く「本書は伝統的な英文法を学ばなかったり、勉強したが忘れたという英語のネイティブ・スピーカーたちが英語をうまく使いこなすための案内書で、外国語として英語を学習する人たちの興味もそそるであろう」と。
 紹介するにあたって本を開いたところ、コメントを書く以前に、思わず読みふけってしまった。本書の序章に10数ページの「索引」があって、掲載項目のページも示されているので、知りたい内容にすぐに行き着ける。そのあと「文法とは何ぞや?」の章で本書の構成が簡単に解説され、次の章で「文型」について触れている。
 わが国の学校で教える5文型は、英文がS・V・O・C(主語・動詞・目的語・補語)の4種の構成要素から成ると説明している。一方、本書はA(副詞類)を一人前に扱って、英文型のエレメントはS・V・O・C・Aの5つと定めている。
 じつはわが国の英文法学者の中にもAの存在に手を焼いて、ひそかにM(modifier=修飾語句)と名付けて、実質的に副詞類を認めた文法書がいくつかある。ところが、同じ著者が学校英語の参考書類では「4要素・5文型方式」で英語の文型を解説している。
 Aの要素を欠く英文型は、耐震構造にならないのに、約100年前に確立された5文型方式に従わないと文部科学省の検定に合格しないのだろうかとの疑念が湧く。もしそうであるとしたら、日本人の英語オンチを文科省が大量生産していることになる。
 本書はまた「品詞」の働きを明解に説明している。わが国の文法学で隅っこに追いやられた determiners(決定詞=限定詞)の機能を強調した点はとくに有益と感じる。
 著者の Rosalind Fergusson と Martin Mauser は、ともに Oxford など多数の辞書に関わる lexicographer(辞書編集者)と紹介されている。本書を生涯の友とすることを薦めたい。手の届く場所に置いておきたい1冊ではある。
(編集部)
2015.5.2(土)

<No+名詞>型の省略文を使いこなす

【新・英語屋通信】(4)

“No onions.”と“Hold the onions.”
 当社では海外出張に出掛ける担当者に向けて、渡航直前に英作文の俄講習をする場面があります。そのおり、受講者にまず自分の言いたい表現を10個ほど提出させて、それをテーマに基本文型とその応用を説明しています。内容は業務より生活に関する everyday expressions(日常表現)が多くなりがちです。

 「タマネギを抜いていただけますか?」

 このフレーズの最も簡明な英文は“No onions.”(タマネギなし)ですが、丁寧に言いたければ、前後どちらかに please を付ければいいと伝えています。<No+名詞>型は代表的な省エネ文ですが、省略前の英文の構造には触れないほうがいいでしょう。
 ちなみに、英語話者は“Hold the onions.”をよく使います。hold の基本義は「保持する」ことで、「保つ」→「維持する」→「状態が続く」と発展して、“Hold it!”と言うと、写真を写すときなら「動かないで!」となり、電話なら「切らないで!」となることから、「待って!」→「やめて!」という意味で使います。“Hold the onions.”は、ゆえに「タマネギを入れないで」という表現になるのです。

<No+名詞>型の日常フレーズ
 日本人が最近よく使う“No problem.”は「問題なし」の意味だから、「いいとも」とか「どういたしまして」という用法に転じています。“No trouble.”は trouble(困難、迷惑、心配事)のない状態だから、“No problem.”と同じ状況で使うことがあります。
 “No sweat.”は「汗いらず」だから、やはり「問題ないね」→「簡単だよ」→「平ちゃらだ」といった感じで使います。
 “No way.”は「方法なし」だから、万事休す的に“No way!”と叫ぶと、「無理だ!」→「駄目だ!」さらに「とんでもない!」となります。“No chance.”も似たような表現ですが、将来に希望がない局面のフレーズです。
 “No kidding!”の kid は、動詞の「冗談を言う」とか「からかう」から出ているので、「冗談じゃない」→「嘘じゃない」となります。“No kidding?”と尻上がりに言うと「嘘でしょう?」→「まさか!」というニュアンスになります。

<No+名詞>型の場面は広がる
 “No sirree!”は「とんでもない!」という拒絶表現です。“No, sir.”のもじりと見なして、フレンドリイな場面で使う例を数名の英語話者から教わりました。sirree が載っていない辞書は多いけれど、英語話者ならこの表現をたいてい知っています。音の並びは〔s〕〔弱〕〔r〕〔ee〕で、アクセントを第2音節の長母音に置いて発音しないと英語話者には通じません。“Yes sirree!”は“Yes, sir.”のもじりで、「いいとも」といった感じで使われます。
 “No tresspassing.”は「通行止め」で、“No admittance.”なら「入場禁止」です。“No pain, no gain.”は「苦は楽の種」と訳されていますが、encouraging someone to try someone(誰かが何かにトライするときに力づける)言葉で、「虎穴に入らずんば虎児を得ず」(If one doesn't enter the tiger's den, one can't get cubs.)といった状況で使う人もいます。
 “No ketchup.”や“No mayo.”は、軽食堂で「ケチャップはなしで」とか「マヨネーズは付けないで」という要求ですから、“No onions.”と同様のニュアンスで使います。<No+名詞>型のフレーズは、ほかにいくらでもあるし、新しい表現がいくらでも作れます。
(K)
2015.5.2(土)

技術はひたすら“反復練習”で身に付ける

【新・英語屋通信】(3)

 出席者の大半が英語話者だけの記念行事に招かれて、図々しくも私は英語で挨拶した経験があります。場所はハワイで、参列者は水産関係者と観賞魚の愛好家でした。10分間に満たない短いスピーチだったので、原稿を読むのではなく、一字一句を丸覚えして、自分の言葉でしゃべると決めました。
 母語であっても、よそいきの儀礼文は、とかく不自然になりがちだし、聞き手に視線を向けて話すほうが親しみが湧くであろうと考えたからです。そこで、私が書いた草稿を英語話者にリライトしていただき、声を出して読んで、発音上の細かい点をチェックしてもらいながら、利用する単語や言い回しの訂正を重ねました。
 完成した挨拶文は、毎日の犬の散歩時に口に出して何度も何度も反復練習して、話の変わり目のチャプタリングでは指を折る仕草を目印にして、完全に暗で言えるようになりました。ミーティングのある早朝、原稿なしで読もうとする私を家内が心配して、宿泊したホテルの部屋で模擬テストさせられ、すらすら言えたのでOKが出ました。
 結論を言うと、大失策をやらかしました。ハワイ州の副知事と水産関係の大学教授が述べる言葉を聞いているうちに、余計な雑念が湧いて「よし、この表現を使って始めてみよう」と頭の中で冒頭部を書き直しました。
 出だしはほぼ無事にこなせましたが、チャプタリングでの指折りの動作に齟齬が生じて、丸暗記していたはずの原文との繋ぎがもたついて、モノにしたつもりの作品を台無しにしてしまいました。かっこよく、と欲を出したのがミステークでした。
 私の失敗など誰も気にしないはずですが、自分の英語が付け焼き刃であることを忘れたのは大失態でした。チャレンジ精神は間違っていないと思うものの、英語話者が聞くに耐えない拙い英語は、公式の場で使うべきでないと反省しています。
 母語は赤ちゃん時代に形成されます。外国語で丁々発止の交流ができる言語力の獲得は、二十歳くらいが最終年齢の限度ではないでしょうか。日本人が英語をモノにするには、ひとまず日本語と異なる音声を反復練習して自家薬籠中のものにすることから始まります。
 アスリートたちの誰もが技術を上げるには反復練習しかないと言います。カーネギーホールに出演するには繰り返し練習するしかないという名言もあります。“反復練習”は技術を身に付けるためのキーワードなのです。
(S・F)
2015.5.2(土)

2015/05/01

restaurant と restroom の音節数の違い

【新・英語屋通信】(2)

 ある日本人が“Where is the restaurant?”と尋ねたら、restroom を案内されたという話を聞いたが、英語話者の会話でこの両語を取り違えることはないと思うよ。
 なぜなら restaurant(飲食店)は res|tau|rant という3音節語で、restroom(お手洗い)は rest|room の2音節語だからね。「フン、フン、フン」というリズムと「フン、フン」はずいぶん違うだろう。
 日本語は restaurant を「レストラン」と5つの音に区切って、「レスト、ラン」のようなリズムで言うから、それを聞いた英語話者は脳の中で無意識に2音節の単語を探して restroom を引き出したんだろうと想像するね。
 英語は音節(syllable)の区切り(syncopation)がとっても大切で、1音節の中に必ず1つのアクセント(accent)があるのが特徴の言語だからね。2音節以上になると、強勢同士の強弱関係が生じて、音楽的に豊かな響きを作るから、親しい人の間では「フン、フン、フン、フン?」と聞いて、「フン、フン、フン」(この返事は「イエス」ではないよね)などと答えるリズムだけの会話をよくするのよ。
(Bob Godin)
2015.5.1(金)

英語は英語話者から教わるべき

【新・英語屋通信】(1)

新刊の『英語の発音とリスニングの音則』の著者バブ・ゴーデン(Bob Godin)氏の言語背景を簡単に紹介しておきます。彼はアメリカ人で、出身地はフロリダ州です。
 フロリダは引退者たちが集う地域で、そのせいかアメリカ各地の訛りが混じり合って、現在は最も癖のない「標準米語」が話されています。平均的という意味から、この種の米語をアイスクリームの基本の味に因んで「バニラ・イングリッシュ」と呼んでいます。
 バブの父親はフランス系カナダ人です。ニューヨークに移住したとき、そこがユダヤ人の多い職場だったため、ドイツ語から派生したイディッシュ語(Yiddish)を介して英語を理解するようになったものの、フランス語が母語だから、家庭では強い仏語訛りの英語も使っていたそうです。母親はオーストリアからの移民ゆえに、ドイツ語訛りが強烈に響く英語を使用していたとのことです。
 バブがまだ高校生のころ、コリアン食堂でアルバイトをした関係で、彼はいみじくも韓国語を少しかじりました。バブはスペイン語を使う中南米系の人が多く住む隣接地を生活圏とし、家庭では外国語訛りの強い英語を耳にしながら、韓国語の音声まで覚えて、幾種類もの言語音声が入り混じる環境下で標準米語を身に付けました。
 日本語は沖縄に赴任してから学び、独学でモノにしています。1日8時間のペースで日本語学習にどっぷり浸った時期もあり、本からも学ぶが、一般社会で使う日常語を重点的に身に付けたそうです。そのため、バブとの会話では、しばしば沖縄方言が飛び出して、聞き手を面食らわせます。披露したい面白いエピソードがふんだんにあります。
 バブは俗に言う「日本語ペラペラ外人」ですが、率直に言って、話し言葉は活用語の語形変化がいまいち不十分です。接続詞の使い方はワンパターンですが、日本人が知らない自作漢語を使ったりもします。リスニングは拗音を正確に聞き取れず、初対面の人の言葉に慣れるまで多少の時間が掛かります。100%とは言えませんが、聞き慣れた人の言葉やテレビで使われる話し言葉なら問題なく聞き取ります。
 ピアノはそれを弾ける者から教わるのが常道で、サッカー選手を目指す子供は経験者から指導を受けます。英語もまた、これを母語とする話者から習うのが王道です。当社が発行する英語教材の執筆陣が英語話者である理由は簡単で、彼らの母語が英語だからにほかなりません。
(S・F)
2015.5.1(金)