2015/12/05

ニーズがあれば技術はモノにできる

【新・英語屋通信】(60)

 NHKに「奇跡のレッスン」という番組がある。海外から腕利きコーチを招聘して、十代の十数人の少年少女を束ねて、6日間だけ対象のスポーツを特訓し、7日目の最終日に強敵と試合して成果を確認する仕立てになっている。たった1週間で実績を出す凄腕のお手並みは「お見事!」と称賛するほかない。良質の早期教育は、効率がいいねえ。
 この番組の外国人コーチの共通点は、若者から「やる気」を引き出す指導法で、1人1人に「ニーズ」を注入することに主眼を置いている。指導力に長けたコーチは、自ら実践の経験があって、教える技術を「自分ができて、指導法も身に付けている」から、習う側の気持を十分に察知できて、子供たちからニーズを巧みに導き出せている。指導者が技術の手本を示せないと、教わる側の間違った自己流を正す手立てがないため、目標が定まらない練習がだらだら続くだけで、効果ゼロのマンネリに陥りやすい。
 幼児はふつう自分の「欲求」つまりニーズを満たすためか、3歳までに実用母語をほぼ完璧に覚えてしまう。大人になった日本人は、なんとか日本語だけで過ごせているせいか、英語を話したいという願望はあっても、本気で学ぼうとするニーズは薄い。
 わが国の学校英語の教育からでは、生徒のニーズは決して取り出せない。教師の大半が英語を自在に話せず、技術の模範を示せないからで、生徒が英語を苦手とするのは当然だろう。一方、AETたちの来日目的は、自分の旗を上げることで、英語を話せても、教える技術をきちんと修めていない者ばかりで、お粗末な連中が多い。
 英語はその指導法に熟達した英語話者に教わるのが最善で、人材がいないわけではない。奇跡のレッスンの英語版は、ミュージシャンが適材だから、バブ(Bob Godin)にやらせてみたいと思った。厚切りジェイソン級の優れたカリズマが出現して、英語学習へのニーズを引き出してくれれば、日本人はあっという間にバイリンガルになれると思う。
 問題は処遇で、住居が用意できれば、AETたちの最低の希望は満たせる。わが国には空家が多いので、その利用は行政が市町村単位で手を尽くせばいい。有能な逸材を発掘して、文科省の重要ポストに1人だけ据えれば、英語学習の技術面はいっきに解決する。
 明治初期に高額な給料でお雇い外人を調達し、当時の日本人エリートを指導したおかげで、わが国は鎖国時代の停滞した状況を打破できて、近代化に早く目覚めた。英語教育の維新バージョンで未来を担う子供たちにチャンスを与えたい。
(S・F) 2015.12.5(土)