2015/09/28

〔j〕と〔z〕は〔ch〕と〔s〕の濁音と見なせる

【新・英語屋通信】(47)

 現代日本語のサ行では、「ヂ」が「ジ」に、「ヅ」は「ズ」に吸収されています。そして、ヘボン式ローマ字では「ジ」を‘ji’と表記し、「ズ」は‘zu’と書く様子からして、両者が異なる音質であることは明白です。
 一方、英語の〔j〕は〔ch〕の有声音で、〔z〕は〔s〕の有声音だから、〔j〕と〔z〕は明確に区別されています。日本語と比較すると、大まかに次の関係が成り立ちます。
  〔j〕…ジャ行音   〔ch〕…チャ行音
  〔z〕…ザ行音    〔s〕 …サ行音
 ちなみに、アメリカのプライマリイ・デイ・スクールで使われているPV法のキーワードは〔j〕が jar(広口の瓶・壷)で、〔z〕は zebra(シマウマ)です。jar の語頭音を〔z〕で発音すると英語話者に通じないし、zebra の語頭音を〔j〕では言いにくいと知ってください。なお、当社では〔j〕のキーワードを jigsaw(糸のこ)に定めています。
 ヘボン式では「ジ」をザ行の中で扱いながら、‘zi’ではなく、‘ji’と書きますが、「地震」の語頭音は〔z〕の舌の動きと似て、「じいちゃん」の「じ」は〔j〕の舌の動きで発音します。〔z〕は東北方言のズーズー弁に多出するサウンドです。英語と日本語の音声は微妙に違っており、さまざまなケースがあるので、ヘボン式を許容してかまいませんが、英語の〔z〕と〔j〕は発音が異なると早い段階で教えておくべきでしょう。
 jazz(ジャズ)や jeez(おやまあ)の語頭音は〔j〕で、語尾音が〔z〕です。〔j〕は語頭音に多く、〔z〕は語尾音に向いています。〔j〕が語尾音として出る raj(支配)はサンスクリット語由来の稀な例で、〔z〕で始まる単語も少数派です。
 〔z〕と〔j〕の違いを無声音の〔s〕〔ch〕を併せて示すと、下記の関係が見えます。〔s〕は舌先を下の歯茎に当てて発音する「歯茎音」で、〔ch〕は舌の中央を中の天井と摩擦させて出す「破擦音」で、その仲間の〔sh〕は「摩擦音」の1種です。
  〔s〕(無声) …「サ・ス・セ・ソ」から母音を取り除いた音声
  〔z〕(有声) …「ザ・ズ・ゼ・ゾ」から母音を取り除いた音声
  〔ch〕(無声) …「チ・チャ・チュ・チョ」から母音を取り除いた音声
  〔j〕(有声) …「ジ・ジャ・ジュ・ジョ」から母音を取り除いた音声
  〔sh〕(無声) …「シ・シャ・シュ・ショ」から母音を取り除いた音声
  〔sh"〕(有声)…日本語では〔j〕と同等に扱われている。
 大雑把に言えば、〔s〕〔ch〕の日本語で言う清音で、〔z〕〔j〕は濁音に相当します。また、九州方言で「先生」を「シェンシェイ」と言うときの「シェ」は、「黙って」の擬声音「シィーッ」での「シィ」ともども、英語の〔sh〕に近い音と言えます。
 ちなみに、本場アメリカのPV法のキーワードの〔s〕には saw(のこぎり)を当て、〔ch〕は cherries(サクランボ)としています。しかし、子音はそれぞれ語頭・語中・語尾での発音のあり方にデリケートな差があり、すべての音声を練習する必要があるため、当社ではキーワードをあえて sun(太陽)と checker(格子縞)に替えています。
 そしてまた、〔sh〕のキーワードは shovel(スコップ)とし、濁音的な〔sh"〕は語中音として、measure(巻尺)で示しています。アメリカのPV法は幼児・低学年用だから、〔sh〕を ship(大型船)で示すものの、語中音で登場しがちな〔sh"〕のキーサウンドは表に加えていません。日本人が「ジ」と「ヂ」を同じように認識しているのと同様、英語話者の〔sh"〕も生活の中で自然に覚えるサウンドだからでしょう。
2015.9.28(月)

2015/09/25

「音声から文字へ」を実践指導する世羅洋子氏

【新・英語屋通信】(46)

「新・英語屋通信」拝読しました。ハンドルネームでしたが、私は誰であるかを特定して思い出せます。私は1980年代当時から30年間以上もほぼ同じ方法で幼稚園児・小学生に教えてきましたが、誰かに役立っていると知って嬉しく感じています。
 私が経営するYES(山口イングリッシュスクール)の生徒は、PV法を活用して、実際に発音しながら、文字と音声の関係を学びます。小学校の中・高学年になると、毎回のレッスンで必ず問われる“How are you?”に対して、誰でもが使う“I'm fine.”だけでなく、自分がそのとき感じている“I'm happy.”などと答えるのが普通です。“Why?”と聞くと、「騎馬戦の練習で騎馬に乗れたから」と答えたあと、“How do you say 騎馬 in English?”と自分の知らない英単語を尋ねてきます。そのとき、発音時の舌や唇の動きや位置を意識させて指導する関係上、すぐさま英語で書くことができます。
 たとえば、生徒が「のどが痛い」と言って、「誰の?」と聞かれたとき、“My right arm hurts.”の my(ぼくの)を思い出しますが、さらに「のどがどうなってるの?」と問うと、「ひりひりする」などと返答します。これまでに習ったことだけで対応できない語彙や構文が出てくるわけですが、そこで「どう言えばいいの?」と追い打ちをかけると、“How do you say のど and ひりひりして in English?”と自分の知らない英単語を聞いてきます。その答が‘throat’と‘sore’であると知ったら、“My throat is sore.”と答えたあと、PV法チャートに対応させて“My throte is sore.”と書きます。そのさい throte の〔o-e〕に注意させて、「音は正解だけど、違う書き方は?」と問うと、別の綴りの〔oa〕を使って throat と書き直します。
 また、毎回いつも当日の曜日だけでなく、昨日と明日、昨日の前の日と明日の次の日、そして曜日・日付や天気を聞くので、いつしか英語話者なみの過去や未来についての感覚が身に付くようです。懐かしい便りがあったら、またお知らせください。
(世羅洋子)

 山口県宇部市に在住の幼児園児・小学生には、英語はYESで教わることを強く推奨します。指導の「方法」が確立され、優れた内容の「テキスト」(生徒には見せない)に基づきながら、しかも「インストラクター」が経験豊富だから、受験英語のみならず、社会人になって役立つ実用英語を身に付けられます。電話は0836-32-7660です。
2015.9.25(金)

2015/09/18

文字を見ると音が聞こえてくる

【新・英語屋通信】(45)

 僕は現在、周囲に英語話者が見当たらない大分県に住んでいるので、日常的に英語を使う機会は皆無です。たまに家内のメル友のカナダ人が来日したとき、僕が出迎えたりして、しばし相手をさせられて、拙い英語を使う程度の環境です。
 彼に会って、僕が“How have you been?”を言い終わらないうちに、“Coul|d_be better.”などと彼が挨拶をかぶせてきます。そして彼が“an|d_you?”と言い終えてから、僕が“So-so.”とか“Same as usual.”などと返しています。実際の英会話では、自分が言い終える前に、相手が言葉を重ねてくるので、いつもおたおたさせられます。普段から口の筋肉と反射脳を鍛えておく必要があると思うのですが、実行を怠っています。
 僕は保育園の年中組から英会話を始めました。レッスンはいつも“Hello!”から始まりましたが、語頭部の‘he’が「ヘ」になるので、何度も何度も〔h〕だけを言い直させられました。大人になってから〔h〕に続く‘e’が「弱母音」であると知りました。
 〔h〕を単独に言えたら、次は“How are you?”の how つまり〔h〕〔ow〕の2音をやはり何度か言わされました。その当時は〔h〕と〔ow〕が別々と音と知りませんでしたが、僕が使うトイレの壁に母がPV法の子音・母音の表を貼り付けていたので、そのおかげで英単語の綴りを無意識にそのルールで読むようになりました。文字はPV法の表以外いっさい見た記憶がありません。いま「文字を見たら音が聞こえてくる」ので、発音を徹底的に叩き込んでくれたクレイグ・ゴールズベリイと世羅洋子の両先生に感謝しています。
 また、小学校1年生までにまったく同じメニューのレッスンを3回受け、毎回の授業で“What day is today?”と聞かれ、その日は月曜日だったから、いつも“It's Monday.”と答えていました。続いて“What day was yesterday?”に対して、“It was Sunday.”と答えていましたが、“What day will it be tomorrow?”は聞き取れず、“It will be Tuesday.”になる理屈がわからなかったけれど、it will be は口癖になりました。
 僕は理数系のタイプだから、中学以降に教わる日本式英語は、パズルを解くような気分で接しました。読む技術はどうってことありませんが、会話をする機会がほとんどなかったため、英語話者に猛烈なスピードで話されるとついていけません。英語話者と交流するとき、自分の言いたいことを言える「スピーキングの訓練」をするべきと思いつつも、直前の目標がないと、人はなかなか準備しないものですね。
(ヤブレカブレ)
2015.9.18(金)

2015/09/14

綴りの‘g’は〔j〕か〔g〕で、〔z〕ではない

【新・英語屋通信】(44)

 NHK教育テレビに『サイエンスZERO』という最新の科学情報を知る手掛かりになる恰好の番組がある。当社のスタッフも1週30分間の科学授業を受けるつもりで、とても重宝に視聴させていただいている。
 昨夜の番組テーマは autophagy であった。接頭辞<auto->(自らの)はさておいて、冒頭に男性ナビゲーターから「ファジーって何でしょう?」みたいな問いかけがあり、相方の女性ナビが「fuzzy なら“曖昧な”だけど……」と答えたら、男性ナビが「fuzzy と<- phagy>は発音が同じで……」というやりとりがあった。
 fuzzy(毛羽立った)を派生させた fuzz(縮毛)の語尾音は〔z〕で、これを無声音の〔s〕に代えると、fussy(小うるさい)が fuss(大騒ぎ)から派生している関係が認識できる。言うまでもなく〔s〕と〔z〕は発音時の口の使い方がまったく同じになる。
 <-phagy>(食べること)は接尾辞で、異形に<-phagia>があり、綴りの‘g’のアルファベット名は〔j・ee〕だから〔j〕と発音する。〔j〕は無声音〔ch〕の有声音だから、〔g〕サウンドではない。〔ch〕と〔j〕もまた口の使い方がまったく同じになる。
 最近の日本語は「ズ」と「ヅ」の関係と同様、同音の「ヂ」を「ジ」で書くので、カタカナ表記の fuzzy と<-phagy>が同一になるのは致し方ないかもしれないが、できれば両者の英語音は「微妙に違っている」と言ってほしかった。
 ちなみに、接尾辞<-phage>(むさぼり食うこと)は macrophage(マクロファージ=大食細胞)で知られるが、やはり綴りの‘g’は〔j〕の域を出ていない。
 ところが、形容詞を作る接尾辞<-phagous>(を食べる)の‘g’は〔g〕と発音して、phagocyte(食細胞)に見る接頭辞<phago->(食べる)も同じく〔g〕で発音する。
 したがって、autophagous(自食作用の)の‘g’は〔g〕で、autophagia(自食)のそれは〔j〕になる。autophagous の意味は「体内組織を自己消化して、栄養状態を維持する生体の現象」で、内容が大切なのは当然だが、発音や接頭辞・接尾辞の知識があると、単語力が労せず百倍になる。
(編集部)
2015.9.14(月)

2015/09/07

辞書の例文を学んで単語力を増強!

【新・英語屋通信】(43)

 アメリカで“The sink is backed up.”というフレーズに出会ったことがあります。観光ホテルの調理用の sink(流し)が詰まった場面でした。
 back up は少年時代から野球用語の「バックアップ」が頭の中にすり込まれていて、またフロッピィディスクなどを「コピーする」ときにカタカナ語で使うので、「補完する」「後援する」みたいな意味と思い込んでいましたが、そのシーンでは何のことだかわかりませんでした。
 このフレーズの文型は“状態”を示す<be 動詞文>なのに、カタカナ語の「バックアップ」をずっと“動作”を表わす状況で使ってきたせいで矛盾を感じたのです。まあ、知らない言葉に出会くわしたら、ひとまず辞書で実例を搜すのがいちばんです。
 すると“The stalled car backed up traffic for miles.”(立ち往生した車が数マイルにわたって交通を渋滞させた)という例文を見つけました。その後、友人の英語話者に確認したら“The sink is clogged.”と言う人もいると教えてくれました。
 clog a drain(排水溝を詰まらせる)という clog の動詞の使用例を見たことがありましたが、名詞としての用例に“Clogs to clogs is only three generations.”という格言を見つけました。clog は「木靴」とか「コルク」の意味だから、「木靴から木靴へは、たったの3代」つまり「3代で貧乏に元戻り」するという戒めの教えです。
 非英語話者は言語の獲得が容易な幼少期を英語の中で暮らしていないのだから、単語を覚えたいなら、ちょっと面倒と思うかもしれませんが、丹念に辞書を引く必要があります。単語の調べ方にはコツがありますが、この稿では2種類を紹介しました。
<コツ1>動詞・句動詞は、意味が敷衍されて多様化しているので、すべて読むこと。
<コツ2>動詞化される以前の名詞の意味を調べること。
 そして、例文を1つか2つノートにでも書いておきます。そのうち忘れるでしょうが、頭の隅に残っていて、次にお目にかかれば、自分のものになるでしょう。
(S・F)
2015.9.7

2015/09/01

言葉には俗語・新語・略語が数多く登場する

【新・英語屋通信】(42)

 モニカ・ルインスキー嬢によるTEDの講話は、一言一句を明確に発声する公式スピーチの範とも言うべき話し方で、しかも最適の語句を厳選して見事な内容を構成している。高校の英語教科書に推薦できる格好の学習材料と言ってもいい。
 彼女は20分強の講演時間に約2400語を話しているから、1秒間に2語弱の速度で喋った計算になる。日常会話に頻出する“What are you doing?”(何をしているんですか?)のようなフレーズは、平均的に1秒前後の長さで4語程度になるが、モニカ嬢のトークの単語数は、その半分程度しかない。音節の長い単語を多めに使っているせいでもあるが、ニュースの読み上げのような早口ではなく、オーディエンスがはっきり聞き取れるようにと、間を取りながら1語ずつ明瞭に発音している。
 だからと言って、一般の日本人がTEDの会場で彼女の話を聞いて、すんなり理解できるほど簡単な英語ではない。聞き取りにくい原因の何たるかを検討したところ、使用頻度の低い単語が多く、併せて俗語・新語・略語を多めに混在させた現代的な特徴を持つ英文で、要するに目新しいマイナーな聞き慣れない用語や表現が多いとわかった。
 字幕入りの画面で見れば、馴染の少ない maelstrom(大渦巻き)や reverberate(鳴り響く)や surreptitiously(内輪の)などの単語も、前後の文脈と「語源法」でぼんやりと意味の見当がつくが、単語の概念が脳内に薄っぺらにしか入っていないため、耳で聞くだけでは同時的に消化できないと認識した。
 “I was / branded / as a tramp, tart, slut, whore, bimbo, / and, of course, that woman.”は「私は烙印を押された」のあとの as(として)に続く語は「身持ちの悪い札付きのふしだらな女性」を指すと推測できるが、聞くだけでは瞬時に捕捉できない。文字を見れば、それぞれの語に相当させる「尻軽女」「あばずれ女」「淫売」「売女」「ずべ公」などの訳語を思い付くし、一括して「売春婦」と訳せばいいと判断できるが、俗語の在庫量が足りないことを痛感させられる。
 ‘that woman’という表現は、『美女ありき』という映画でスペインの無敵艦隊を撃破したネルソン提督と恋に落ちて夜の女に身を落とすハミントン夫人を特定していたが、欧米の歴史や文化を知らないと、言葉の背景が見えてこない。the Sword of Damocles もまた、玉座の頭上に吊るした剣の糸がいつ切れるかわからないという王位の危うさを物語る古代ギリシアの説話に基づくし、mobs of virtual stone-throwers(石を投げる仮想の群衆)という表現はキリスト教の道徳観念に関連している。教養が足りないと、モニカ嬢が告げる主張の理解に及ばない。
 新語が多い点も厄介だ。近年のニュースに頻繁に登場する cyberbullying(ネットいじめ)はまだしも、webcamera に由来する webcam が過去分詞の webcammed で使われた場面は聞き取れなかった。meta-analysis や shut-shaming は英和辞典に出ていないので、調べるのに時間が掛かる情報過多のネット辞書に手を焼かされた。未知の固有名詞にも戸惑うし、略語のLGBTQのQ(genderqueer)もすぐにはぴんとこない。
 単語の99%がわかったとしても、聞いて把握できない単語が1%あれば、2400語で24語になるから、見当がつかない下りも出てくる。非英語話者は俗語に慣れていないし、新語に触れる機会も少ないから、耳から聞き取るのは容易でない。縁の薄い単語が1語でも出てくると、理解に努めている間に話の流れに遅れてしまう。ありていに言いと、一般の日本人がモニカ嬢の話を1回か2回くらい聞いて完璧に理解できるはずがない。
 彼女が使用した俗語・新語・略語は英語話者には日常語で、固有名詞も常識の範囲を越えていない。全文が当たり前の言葉だから、たとえ知らない言葉があっても、話の筋道が明瞭なので、英米人が内容の本質を間違えて聞くことはない。
 音声をキャッチできない語句もある。短母音入りの1音節語や子音が1つしかない短い単語はとくに聞き取りにくい。英単語はまた、途中で切れたり、後ろの語にくっついてリンキングするので、hit_on(しつこく言い寄る)などの句は単語と取り違えてしまう。
 音声が認識できたとしても、使い慣れない用語は、瞬時に意味を把握できないため、置いてきぼりにされてしまう。単語を半端にしか理解できない状況であれば、せめて日常的な機能語の部分は「チャンク法」で繰り返し練習して完全掌握しておく必要がある。そのためには「PV法」で音声の発音基礎を完璧にモノにしておかなければならない。
 聞き取れなかった部分を学習して完全に理解すれば、野球のピッチャーが時速150Kmで投げるボールの縫い目がバッターに見えるように、1語ずつ止まって聞こえるようになる。私の場合は文字まで見えるので困っている。母語であれば、会話中の文字が見えることなど決してない。(S・F)
2015.9.1(火)