2015/08/27

海外市場は英語で取引きされている

【新・英語屋通信】(41)

 わが社は出版を生業としているが、約30年前に3年間だけ英語塾を実践したことがある。その折、宇部市にある山口イングリッシュスクールがアメリカから音楽家志望のクレイグ・ゴールズベリイ氏を招いて、経営者の世羅洋子氏ともども講師を勤めてくれた。
 1時間の授業を週1回の月4回、1年間48レッスンのメニューを用意して、4?10歳の12人の同じ生徒に同じ内容を3回繰り返す実験をした。発音の基準とする「PV法」のキーサウンド以外の文字はいっさい見せなかったが、3年間通い続けた子供は、中学・高校を通して塾に通う必要がなくなり、高校入学と大学入試センター試験は満点か、それに近い成績を収めた。私どもは「言語では話し言葉が書き言葉に優先する」と確信した。
 その10数年後の1997年だったと記憶しているが、某テレビ局が九州・山口でオンエアされる『黒潮電撃隊』と題する番組で世羅氏と私どもの活動を取り上げてくれた。同局は韓国にも赴いて、教育長に英語教育政策についてインタビューした。韓国は当時、英語を使えない国に未来はないという切迫感を背負っていた。住民が10人ぽっちの僻地では、どんなビジネスも専業では成り立たないが、国内市場の規模が小さい韓国の企業は、いきおい外国に売り先を求めざるをえない。海外市場に打って出るには、相手国の言葉が必携具になるから、韓国は小学生に万国共通の英語を教えることを20年近く前に決断した。
 韓国は世界一の受験社会で、TOEICの成績を重視する点でわが国の英語事情と似ている。難関校の合格者のほぼ全員が「Non-Native として十分なコミュニケーションができる860点以上」と聞くから、英語で交流できる「レベルA」に達している。また、韓流の看板を掲げる芸能人はアジア諸国に足を伸ばし、スポーツ選手は賞金を稼げる国で活躍する流れを築いている。韓国訛りが耳障りな英語もあるが、実用的に交流できているから、小学校からの英語導入政策は大成功だったと言えよう。
 また、同番組は明治期の東京外国語学校で英語教育に尽力した徳山市出身の浅田栄次による英語の発音の重要性を説いた様子を紹介した。当社は英語の発音練習のPV法を世間に広める機会をいただいたものの、巷に英語を話したいとする願望はあっても、生活面でのニーズが低かったせいか、パフォーマンスは世間の関心を十分に得るに至らず、線香花火的な一時的現象に終わった。わが国の国内市場はいま急速に縮小しつつあるが、海外に打って出るには、小学校からの「本格的な英語指導」が必要であろう。(編集部)

2015.8.27(木)

2015/08/14

<the+比較級?, the+比較級?>の構文を攻略できて

【新・英語屋通信】(40)

 英語を学びたい者にとって、いまほど好都合な社会状況はかつてなかった。なかでもTEDの公式サイトは最高学舎の1つで、陳列台に「生きた英語」を山積みしている。
 “The Price of Shame”(恥の代償)と題したモニカ・ルインスキー嬢による講演は、彼女が自ら蒙った屈辱と同種の現象が被害者の許可なしにインターネット上で華々しく展開され、この「humiliation(恥辱)の文化」は人々から思いやりの気持を奪っているという内容であった。公に晒された恥の値には、犠牲者の損傷を考慮することなく、これを餌食にする者の利益にのみ値札を付けているとモニカ嬢は指摘する。
 すなわち、他者への侵害が素材になり、これを手際よく、遠慮会釈なしに、加工して、包装し、利益を得るために売り捌いている。その市場は活況を呈し、弱者を公然と辱めることが商品化され、恥辱が産業になっていると彼女は糾弾する。
 モニカ嬢は“How is the money made? Clicks”(その財はどのように生み出されるのか?多数のクリックで)と問いかける。その直後に<the+比較級?, the+比較級?>の構文が連続して登場するが、この部分は受験生のこのうえない教材になる。

 The more shame, / the more clicks.
 The more clicks, / the more advertising dollars.
 The more we click / on this kind of gossip,
  the more numb / we get to the human lives behind it, and
  the more numb / we get,
  the more we click.(中略)
 The more we saturate our culture / with public shaming,
  the more accepted / it is,
  the more we will see behavior / like cyberbullying,(後略)

 (恥が多いと、クリックは増加する。クリックが増えるごとに、宣伝費の増収になる。この種のゴシップにクリックし続けると、人々の背後にある暮らしぶりに無頓着になり、ますます感覚が麻痺して、私たちはさらなるクリックを重ねる。われらが文化に公然と侮辱することが溢れるにつれて、しだいに受け入れられて、ネットいじめのごとき行為を数多く目にするようになる)

 <the more ?, the more ?.>という構文は、学校英語で「?すればするほど、ますます?する」と訳せばいいと私たちは教えられてきた。ところが、モニカ嬢はシンプルに「?が多いと、?も多い」と表現している。
 また、この構文は「倒置形」を潜在させているが、the more のすぐ後ろに強調語の numb や accepted を位置させて、倒置文にならざるをえない必然的な形を示している。the more の直後に単独で使われる shame と clicks と advertising dollars は、まさしくその強調部で、文体を簡明にするため省略文にしている。
 なお、2度にわたる‘the more numb’の使い方は、現代人が大切な問題に鈍感になっていくことへの警告を含んでいる。文体ともども、このまま高校の教科書に掲載できる道徳的な教材として推奨したい内容と言える。TEDの閲覧は無料だから、虜になるのもよし、ナマの英語をみっちり勉強していただきたい。
 ちなみに、慣用句の“The sooner, the better.”(早ければ早いほどいい)の場合、sooner と better 自体を強調語にして、この構文の究極な形に到達している。
 30歳代の2人の東大出身者にこのTEDを見せたら、「the more ?, the more ?. の対句はよく使われるんですね」「なるほど、こんなふうに<the+比較級>の構文を使うと、相手に伝わりやすくなるのか」とコメントしてくれた。さっそく論文にでも利用するつもりだろうか?
(S・F)
2015.8.14(金)

2015/08/07

「完了時制」の攻略はコメディーを利用して

【新・英語屋通信】(39)

 TEDの公式サイトにゼイ・フランク(Ze Frank)による“Are you human?”と題したコメディーがある。「これからあなた方が人間かどうかをテストするが、当てはまる点があったら挙手してください」という聞き手を参加させる手法のお笑い芸である。
 “Have you ever / eaten a booger / long past your childhood?”(あなたは遠い昔の子供時代に鼻くそを食べたことありますか?)という設問から始めると、会場からどっと笑いが巻き起こる。
 “Have you ever eaten a booger?”は「現在完了形」という文型で、この短い漫談に同じ時制を表わす文が24回も出てくる。なんと23回が疑問形で、そのうち主語が三人称になる“Has your phone ever ??”が1度、be 動詞文系の“Have you ever been ??”が1度となっている。
 英文法書には現在完了形が“Have you ever / eaten raw fish?”(あなたは生の魚を食べたことがありますか?)などの例文で「いままでにしたことがある」という“経験”を語る文として、ever は専用の副詞の1つで、完了形には“完了・結果・経験・継続”の4種があると説明している。
 そこで、当社が複数の英語話者に日本人が英語学習で頭を痛めるテーマになっている4種の完了文の違いを説明すると、その誰からも「もう1回、言って」と要請されて、同じことを何度言っても、「何よ、それ?」という返事しか戻ってこない。英語話者は「完了の状態は完了形」で表現しているだけのことで、まったく無意識に使っているという。
 “Have you??”は“Do you??”“Did you??”“Will you??”“Would you??”などと同じく、疑問形の冒頭が<助動詞+主語>型だから、have が完了形専用の助動詞であるとわかる。ただし、後続の要素の動詞に「過去分詞形」を使うという決まりがあるので、英語を習い始めた初期段階で eat・ate・eaten・eating(現在形・過去形・過去分詞形・現在分詞形)の4種を丸暗記しておかなければならない。
 要するに、“Have you ever??”の言い方に慣れてしまえば、聞き手は残りの内容にだけ聞き耳を立てればいいのである。むしろ be 動詞文系であるか、動詞文系であるかの形式が問題で、そのすべてのパターンを口癖にしておくことが大切であると Bob Godin 氏は指摘する。
 単なる be 動詞文と be 動詞文系の完了文との違いを how を用いた wh 疑問文で見ておこう。
  How / are you?
  How / have you been?
 be 動詞の‘are’は単に“状態”を示すだけだが、‘have been’では完了形用の助動詞‘have’を使ったために、be 動詞もそれに伴って、過去分詞形の‘been’になる例である。この2つの wh 疑問文のうち、上が be 動詞文系の一般的な挨拶の慣用句で、下は「久し振りに出会った」ときの挨拶で、「過去から現在までの時間の幅」を示すため、完了文が用いられるのである。
 実際の会話では“How've you been?”とか“How you been?”となって、have を 've に短縮させたり、取り除いたりするが、‘been’があることで完了の状態とわかるのである。現在完了形はつまり、英語に特有の「過去から現在に至る期間を示す」表現で、日常的に4?5%くらいの割合で出てくるので、身に付けておくに越したことはない。「完了形には1種類しかない」と心得ていただき、理屈抜きでパターンを口癖にしてしまえば、なんてことはない。
 このコメディーは5分間弱だから、丸暗記できない量ではない。ゼイ・フランクの物真似をすれば勉強になるけど、発音が正しくないと mimicry は難しい。
2015.8.7(金)