2015/11/28

英会話指導の絶好のお手本を見た

【新・英語屋通信】(59)

――“The Search”(山河遥かなり)より
 映画の主人公は、アウシュビッツ(Auschwitz)に収容されていたチェコスロバキア国籍の9歳になるユダヤ系の少年で、終戦後に米軍のスティーブ(Ralph Stevenson)に保護され、彼から英語を教わるシーンが物語の中核を占めている。少年が指導を受ける初期段階のメニューは、おおよそ次のような構成になっている。
1.「No と Yes」で答えるようにする。
2.「人の名前」を言えるようにする。
3.「物の名前」を写真を見ながら言う。
4.「物の名前」を実物で認識する。
5.「物の名前」を擬声語から連想する。
6.「物の名前」を尋ねながら「会話」に入っていく。
(1) まず最初に、嫌なときは横に首を振って“No”と言い、オッケーなら肯いて Yes と言えと教えるが、少年はなかなか口を開かない。Steve が“Have a drink.”と言ってテーブルに酒を置くと、臭いを嗅いだ少年が初めて“No.”と言う。調子に乗った Steve が yes と言わせようとして“Am I a genius / or / am I / not?”と自分が天才か否かを問うと、少年はすかさず“No”と答える。Steve は苦笑いして、チョコレートを出して、欲しければ“Yes.”と言うよう促すと、少年はすんなり“Yes.”と答える。
(2) ついで、Steve が“You / haven't got a name. / What / am I going to / call you?”と呟きながら、少年を Jim と名付けて、“Your name is / Jim. / My name is / Steve. / You, Jim. I, Steve ”と互いを呼び合う名前を教える。少年が反応しないので、“Never / mind. / Yes and no's / enough / for one day.”と、1日目はイエスとノーだけで十分だとひとりごとを言って、出掛ける直前に“Wanna / come?”と誘うと、少年は“Yes, Steve.”と答える。
(3) 少年が“The chair. The house ……”と写真を見ながら、覚えた単語を復習している。間違えると“You / miss that one / every time. / That is / an umbrella.”と Steve が訂正し、少年がいぶかしげに“The umbrella?”と確かめる。チェコ語は知らないが、印欧語の1種だから、冠詞のような言葉があるに違いないが、定冠詞と不定冠詞、それに限定詞の使い分けがまことに興味深い。
(4) 少年が“The bed.”と言うと、Steve が間髪を入れず“Do you / see any other beds?”と尋ねて、少年が“There.”と指し示す。Steve が“What's / that?”と指差しを続けると、少年が“The window.”“The table.”と即答する。模型の橋を“The bridge.”と答えたあと、Steve が“Who build it?”と聞くと、少年が“You.”と返事する。少年は副詞や代名詞を名詞のように把握する段階に達している。
(5) Steve が次に照明灯を指し示すと、少年が“The bell.”と答える。Steve が“No, no. / You're / right, / it / looks / like a bell. / That's / a lamp. / A bell / goes, / ding dong ding. / You kids / here / say / bim bam, bim bam.”と接続詞なしのフレーズで言うと、少年が“Bim bam, bim bam. / Bambi.”と〔b〕の音から連想したバンビを口にする。
 Steve がびっくりして“Bambi? / What / did you / get that?”と尋ねると、少年が雑誌の写真を見せる。Steve が“That's / Bambi. / What / a boy! / Up / on the wall. / Get me / a thumbtack.”と切り取った写真を壁に貼るから押しピンを取ってくれと言うと、少年の反応が鈍いので、もう一度“Thumbtack”と言うと、Steve の動作から類推して押しピンを差し出す。
(6) そのあと、少年が Steve に“What's / that?”と聞いて、Steve が“That's / an ostrich.”と答えると、少年が“In a zoo, / that's / an ostrich.”と前置詞句とか be 動詞文を使い、さらに駝鳥を閉じ込めたフェンスを指して“And that?”と聞くと、Steve が“That's / a fence.”と返す。少年は収容所生活を思い出してか“A fence. / Why / is a fence?”と尋ねて、Steve が“So / the ostrich can't / run away.”と答えるなどしながら、しだいに会話のスタイルに入っていく。
 Steve が‘OK’が は世界じゅうで使えると言って“You can / use English / all over the world. / Not / just America.”と英語の便利さを説明する。Steve は英語を公用語とする国名をいくつか並べたあと、“Even / in England / they / understand English.”と OK の汎用性を言い添えた文型は、日本語話者が苦手とする語順だが、初心者が理解しやすい自然な形になっている。
 私はこの年末から正月にかけて里帰りしてくる7歳と3歳の孫に Steve の指導メニューを試してみたいと考えている。どう反応して、どんな対話が展開するか、楽しみで胸が踊る。
(S・F)
2015.11.28(土)