2015/06/29

合成疑問詞で初期英語の基礎を確立

【新・英語屋通信】(30)

 technical terms(専門用語)はふつう関係者だけしか知らない。たとえば、海外の錦鯉愛好家やバイヤーなら、その品種名はもとより、業界用語の「サシ」に至るまで、日本語をそのまま翻訳せずに使っている。錦鯉は体表が鱗に被われており、サシとは「前方の鱗の下に差し込んだ部分の色が上から透けて見える様子」を指し示す専門語だが、名詞は深い内容を1語だけでほぼ伝えられる。
 当社は錦鯉に限定した月刊誌『鱗光』を50年間以上も刊行しているので、関係者なら正確な意味でサシを使えるし、専用語は特定的に使用される言葉だから、限定された範囲内の英単語や表現を知っておけば、英語によるコミュニケーションが可能になる。しかし、海外の錦鯉品評会での入賞魚の撮影で出張するカメラマンは、英語で数や色などの語を聞き取れることが前提で、そのほか専用の文型をいくつか覚えておく必要がある。
 「この鯉は何歳ですか?」「この鯉は何センチですか?」などと、入賞鯉のデータに関する質問をして、正しく聞き取って記録しなければならないからだ。尋ねる言葉は疑問形になるので、疑問詞の5W1H(who・what・when・where・why・how)を使う例が多いが、とりわけ what と how から作る「合成疑問詞」が活躍する場面は多い。
 “How old / are you?”というフレーズは遅くとも中学校で教わるが、この文型を応用して“How old / is this koi?”とでも言えばいい。特定された目の前の鯉を対象にする場面なら、省略文の“How old?”だけでも通じる。この how old が合成疑問詞である。
 また、体長を問うとき“What size?”と聞くと、5cm刻みか10cm刻みの大雑把なサイズで答えられることが多いので、正確な寸法を知りたければ“How many centimeters?”と聞けば、具体的な数字が返ってくる。what size も合成疑問詞だが、何事も臨機応変が肝心だ。いずれにしても<how+形容詞(+名詞)>型や<what+名詞>型の合成疑問詞の作り方を知っておけば、多くのケースで事が足りる。
 知識と経験を積み重ねた特定分野の「専門英語」は、その範疇の言葉を知っておけば対応できるが、何が出てくるかわからない“雑談”は、話題があちこちに飛び火するので、日常語から常識的な慣用句までの「総合英語」を身に付けておかないと会話の輪には入れない。ビジネス上の交渉事や大学の講義やコメディーは、高水準の「文化英語」だから難しいが、まずは合成疑問詞だけの「用足し英語」で第一歩を踏み出そう。
(編集部)
2015.6.29(月)


2015/06/23

先頭チャンクは音則が先で、文法はあと回し

【新・英語屋通信】(29)

 NHKテレビの英語講座で「先頭チャンク」の does he を do he と言わせて、間違いを訂正するシーンを見て驚いた。ご丁寧に does she と does it も do she と do it と言わせて、仰々しく言い直させて、三人称単数現在形では助動詞 do を魔法で does に変えますと脈絡のない説明をしていた。オリジナル性が皆無で、中学1年で教える二番煎じの内容に受信料を取って、学習者を煙に巻いて、おちょくって、なめきっている。
 do 動詞を人称代名詞と併せて使うさいの肯定形・疑問形での先頭チャンクの下記の語順は、文法上のテーマとするより、音則で把握するほうが身に付きやすい。
  I・you・we・they + do     do   + I・you・we・they?
  he・she・it   + does    does + he she it>
 do は〔d〕〔oo〕の2音から成り、ほかの語といっしょに使うと、母音が弱化して短母音〔-oo-〕になるので、音則上の強弱は I・you・we・they と相性が合う。しかし、do と he・she・it の並びは発音しにくく、必然的に does すなわち〔d〕〔-u-〕〔z〕にならざるをえない。そして does がほかの語と結ばれるとき、母音が弱化して弱母音シュワーに変わるため、he・she・it を強調しやすくなるので、その発音を身に付ければいい。
 言語では音声が先にあって、文法はあと付けの理屈でしかない。助動詞 do は意味の希薄な機能語だが、英語の疑問形は1種の強調文で、肯定形に付け足す do も強調語だから、音則的に大切な役割を担っている。否定形の don't による先頭チャンクも I・you・we・they と似合って、he・she・it は doesn't と結びやすい。なお、先頭チャンクとは別物の“Do it yourself.”の do it は、目的語の it より動詞の do を強く発音する。
 NHKの英語講座は10年1日のごとくではなく、約30年前のマーシャ・クラッカワーさんの講師時代より著しく劣化している。言語習得はスポーツや芸事と同じで、自習が中心になるから、学習者にそれを伝えない番組は無用の長物になる。NHKは大西泰斗氏のような英語をよく知る優秀な人を役立つように起用していない。ちょい役では、宝の持ち腐れだ。電波の無駄遣いならまだしも、本気の勉強家を勘違いさせて迷わせてしまう。
 教育物での娯楽的手法は、束の間の遊びでしかない。当事者は「演出」と言いたいだろうが、教育番組での「やらせ」はうんざりだ。メディアの退化が国民の判断材料を奪って、国家を滅亡へ暴走させる時代を日本人は経験してきた。(S・F)
2015.6.23(火)

2015/06/18

バブ・ゴーデン氏の「話す・聞く・書く・読む」日本語力

【新・英語屋通信】(28)

 「Bob Godin 氏の新作『英語の発音とリスニングの音則』は、日本語なれした感じの文体ですが、本当に彼自身が書いた本ですか?」という類の質問が複数ありました。
 バブさんが日本語で話すときのぺらぺらぶりからすると、「聞く」能力も「話す」のと同じくらいあると思いがちですが、じつは妻君が使う日本語ですらよく勘違いします。話すほうは自分の言葉の在庫だけで発信できても、聞くほうは初出の単語や表現が際限なく出てくるので、頻繁に“Once more.”が返ってきます。
 「書く」能力はまあまあですが、文学に出てくる日本語の表現は多彩すぎるため、辞書を引きながらになるので、「読む」能力は十分とは申せません。書くのは自分の持ち言葉でこなせても、読む場合は受身になるからです。
 バブさんは細かい表現にこだわり、日本語を書く能力もある程度あります。しかし、この種の本は曖昧さがまったく許されないので、本書はバブさんに話してもらった内容をテープから起こして、私どもが編集しました。それをバブさんと数回にわたって読み合わせをして、訂正を重ねながら、数年かかって完成させました。
 バブさんが日本語でレコーディングするとき、あらかじめ話す内容を日英両語を混じえて、私どものアドバイスを受けて、納得のいくまで時間を掛けて整理します。そのあと、日本文を作って読むわけですが、そのとき口調がやや固くなりがちです。バブさんがリラックスして話す日頃の日本語は、聞く者が耳をそば立てるほど面白くて、そのままを使いたくなりますが、話し言葉には重複や無駄が多いので、エキスだけを抜き取ってダビングすると、全体のリズムが壊れます。痛し痒しといったところですね。
 当社がホームページにアップロードした英語音声は、学習者が利用して「役に立つ」ことに主眼を置いています。音質の統合性より臨場感を持たせることを第一義とするため、他所行きと普段着がいっしょになって、竹に木をついだ印象があるかもしれません。
 ともあれ、過去の経験から推して、CDは利用が低いようです。スタジオ録音はナマモノでなくなるからでしょう。乗物の中でリスニングする学習法なら、ホームページから無料で小型レコーダーにダウンロードしていただければいいと判断して、電車通勤の人をターゲットにしたしだいです。よろしく。
(編集部)
2015.6.18(木)

2015/06/15

Tom の母音に見る米音と英音の違い

【新・英語屋通信】(27)

【Q】Tom という名前は「トム」と書きますが、アメリカ人が Tom Cruise と言うとき、「タム」のように聞こえます。その周辺事情を教えてください。
(宮崎県O・R)

【A】トムは英国式で、タムは米国式の発音です。所変われば、音も変わるで、英米人は互いに多少の違和感を覚えますが、問題が起きるほど大きな差はありません。
 イギリス音の Tom の母音は、唇をすぼめて小さな円形を作って発音するので、日本語の「オ」と似ています。アメリカ音の Tom のそれは、口を大きく開けるので、日本語の「ア」と同じ音質になります。
 Tom の本来のサウンドは、もちろん「オ」に似た英音のほうですが、アメリカに渡って各地の音が混じり合ううちに変質して、短母音〔-o-〕は「ア」に似てきたわけです。米音には「オ」と比較される短母音は存在しませんが、類似音の周辺事情は複雑です。
 音声学は一般に father(父)の最初の母音を〔-o-〕の長母音と見なしますが、これは Tom の母音と同じ音質です。〔-o-〕の長母音は saw(のこぎり)の〔aw〕と言えますが、このサウンドは「オー」でも「アー」でもありません。
 ただし、rose(バラ)の二重母音〔o-e〕の最初の音は、口を円形にして唇をすぼめて発音するので「オ」と似ています。そして toy(おもちゃ)の〔oy〕や corn(トウモロコシ)のr型母音〔or〕は、いずれも二重母音で、最初の音は〔o-e〕と同じ種類です。
 また、car(車)に見るr型母音の〔ar〕も二重母音です。このサウンドは〔-o-〕または〔aw〕の口の形から発声されるので、「ア」を長く伸ばしたように響きます。
 〔-o-〕〔aw〕および〔o-e〕〔oy〕〔or〕そして〔ar〕の関係は上記のとおりです。英語の母音において、英音は日本語のサウンドに似た面があって学びやすいけれど、米音を身に付けたほうが汎用性が高くなります。英語の本家本元は英国であっても、昨今は世界的にアメリカ英語が圧倒的に優勢です。Tom は米音で〔t〕〔-o-〕〔m〕と言い、Bob も〔b〕〔-o-〕〔b〕だから、ボブでなく、バブのように言ってください。
 ちなみに、語頭の‘o’について言うと、office(事務所)は〔-o-〕で、offer(申し込む)は〔aw〕と発音します。アクセントのない offend(攻撃する)は弱母音のシュワーになります。
2015.6.15(月)

2015/06/11

shall の気分に見る法助動詞の立ち位置

【新・英語屋通信】(26)

――“Gone With the Wind”(風と共に去りぬ)より
 第二次世界大戦後、敗戦国の日本を統治したGHQ(general head quarters=総司令部)のトップを務めたダグラス・マッカーサー元帥がフィリピンで日本軍に破れてオーストラリアに退却するとき、“I shall / return.”(私は戻ってくるだろう)と言い放った有名な言葉が今日に語り継がれている。この shall には「必ず」とか「絶対に」という話し手の強い意志が込められていた。
 70年以上も昔の名言だが、言葉は時代とともに変遷して、昨今の日常英語では shall を使う場面が少なくなっているようだ。アメリカで編纂された everyday expressions の1万フレーズ級の資料の中にも shall は数例しか見当たらない。
 “Gone With the Wind”という1939年製作の上映時間が4時間近い映画がある。そのラストシーンの少し前に主役のスカーレット・オハラが最初の夫のレット・バトラーと撚りを戻そうとして“I only / know that / I / love you.”(私にはあなたを愛していることだけがわかっている)と言うシーンがある。レットが“That's / your misfortune.”(そいつは災難だったね)と言い返すと、スカーレットが“If / you / go, / where / shall I / go? / What / shall I / do?”(あなたがいなくなったら、私はどこに行けばいいのよ。何をすればいいのよ)と訴えるが、この shall を will に代えると、彼女の茫然自失の心境をぴったり表現できない。
 レットが“Frankly, / my dear, / I don't / give a damn.”(率直に言うと、お前さんには、俺は“糞くらえ”すらやりたくない)と吐き捨てる。ちなみに、本作品は damn を使った(意図的にか?)ために、上演阻止運動を呼び起こしている。
 スカーレットは“Oh, / I can't / let him / go! / I can't! / There must be / some way / to bring him back. / I can't / think about it / now. / I'll / go crazy / if / I / do! / I'll / think about it / tomorrow. / But / I must / think about it...”(ああ、私は彼を行かせることなんてできない。行かせられない。彼を取り戻す手が何かあるはず。今はそのことを考えられない。明日それを考えよう。でも、考えなくては……)とひとりごつが、このセリフに can't と 'll(=will), と must が立て続けに出てくる。いずれも動詞といっしょに用いる法助動詞だが、話し手の気持を表わす言葉だから、英語話者は主語に従わせて使っている。
 レットが使った助動詞の don't も法助動詞と同じ使い方で、動詞に補佐させながら、話者の態度を表明している。法助動詞が適切に使えないと、ちゃんとした英語にならないことを教えてくれる場面であった。
 shall は昨今、隅のほうに追いやられているが、死語になったわけではない。ミュージカルの“King and I”(王様と私)の主題歌に“Shall we dance?”(踊りましょう)という曲があった。ちなみに、その王様役を現在ブロードウェイで渡辺謙が演じている。
 耳に心地良いこのフレーズが日本映画の題名に利用されて、そのテーマがハリウッド映画になってリメークされた。shall はパワーのある単語だから、名文句になるように使えば、常に流行語になる性格を秘めている。
2015.6.11(木)

2015/06/09

英語の歌を楽しむ発音のノウハウ

【新・英語屋通信】(25)

 英語の歌が正しく歌えると、とても楽しくなる。歌うコツの1つは「単音の音質」を正確に発音することで、もう1つの要領は母音上の「アクセントの強弱」を間違えないことに尽きる。「音質」と「強弱」の2つを意識して歌えば、おのずと英語の「リズム」が生じて、どんな曲でも歌えるようになる。
 しかし、最初から速いテンポの曲に取り組むと基礎が疎かになるので、ひとまず童謡の“Where is Thumbkins?”などで練習するのがいい。この曲の tune(節)は“Are you Sleeping?”から拝借した指遊びだから、アメリカ人なら誰でも知っている。

  Where is Thumbkin? Where is Thumbkin?
  Here I am, here I am, How are you today, sir?
   Very well I thank you, Run away, run away.

音声1(mp3) 音声2(mp3)

 使用単語は16語しかないが、単音は25種(子音15・母音10)もある。簡単に歌えそうだが、なめては事を仕損じる。基本だから、少し詳しく説明しておこう。
・where…〔wh〕は唇をすぼめて前に突き出し、〔-e-〕系のr型母音の〔ere〕では舌を口の奥に軽く巻き込む。1音節語だが、2つの音を明確に発音しなければならない。
・is…短母音〔-i-〕と摩擦音系の有声音〔z〕から成る。
・thumbkin…子音は〔th〕〔m〕〔k〕〔n〕の4音で、短母音の〔-u-〕と〔-i-〕を挟んで2音節になる。bomb(爆弾)などと同様、〔mb〕の‘b’は黙字化が起きる語形。
・here…〔h〕は肺から空気がストレートに出てくる無声音で、これに〔-i-〕系のr型母音が続くので、where よりは易しいが、安易に発音すると英語話者の耳に届かない。
・I…二重母音の〔i-e〕で、I am の言い方には慣れていても、well I での〔l〕に続く〔i-e〕では発音が甘くなりやすい。
・am…短母音〔-a-〕は日本語にはないサウンドだから、口の開け方と舌の位置の止めどころが難しい。また、鼻音の〔m〕に母音を加えて「ム」としないように。
・how…〔h〕の息を出すと同時に、日本語の「アウ」を短くした〔ow〕を続ける。
・are…r型母音を代表する長母音〔ur〕そのもので、子音の〔r〕の母音バージョンだから、舌の巻き込みをはっきり意識する必要がある。
・you…二重母音の〔u-e〕そのものだから、〔ee〕と〔oo〕の2つの長母音を併せた音になる。唇をゆっくりとすぼめていく気分で発音する。
・today…〔t〕と〔d〕は同系の閉鎖音で、両音の間に短母音〔-oo-〕を挟み、2音節目の〔ay〕は二重母音〔a-e〕の別の綴り。
・sir…無声音〔s〕は〔z〕と同系の摩擦音で、〔ir〕は〔ur〕の別の綴り。
・very…〔v〕は上歯で下唇を噛む〔f〕の有声音で、短母音〔-e-〕を添えたあと、巻舌音の〔r〕を続けて、最後はアクセントのない〔-i-〕系の弱母音になる。
・well…〔w〕は〔wh〕の有声音で、短母音〔-e-〕のあとを側音〔l〕で締める。
・thank…〔th〕〔-a-〕〔ng〕〔k〕の4音から成るが、語尾に子音が2つ続くため、後続の音が次の単語に連結されやすく、ここでは母音〔u-e〕つまり you をリンキングさせて than|k_you のようにCVC|CV(子音+母音+子音|子音+母音)で言う。
・run…語頭子音〔r〕と語尾子音〔n〕に挟まれた〔-u-〕は最も中立的な短母音。
・away…way は〔w〕と〔a-e〕の2音で、語頭の‘a’は弱母音のシュワーで添える。
 この歌に出ない子音は、摩擦音〔sh〕系と破裂音〔ch〕系だが、類似音の〔s〕〔z〕で代用されている。〔qu〕は〔wh〕と共通するし、〔y〕は you の中に似た音がある。
 歌詞の2番で thumbkin が pointer(人差指)に替わるので、母音〔oy〕が出てきて、3番の tall man(中指)には長母音〔aw〕がある。この歌には弱母音もあるし、where と here では〔-e-〕系と〔-i-〕系の二重母音の後半がr型母音の〔弱r〕になる。
 登場しない母音は、米音特有の〔-o-〕だけだが、5番の baby(小指)を Bobby(バブさん)に替えれば、短い譜面ながら子音の閉鎖音〔p〕〔b〕も加わり、単音がほぼ勢揃いして「選択して網羅」されている。
 要点は very well I thank you の1節で、〔v〕〔r〕〔w〕〔l〕〔th〕〔ng〕〔k〕の7つの子音の並びでは、口と舌を素早く移動させるトレーニングになる。正しい発音で歌えば、その技術が次のステップに結び付く。
(Bob Godin)
2015.6.9(火)

2015/06/06

発音記号が音を出すわけではない

【新・英語屋通信】(24)

【Q】発音を学ぶとき、発音記号を見るのに辞書を引いたりする時間が惜しいけれど、何とかならないでしょうか?(T・O)

【A】「発音記号」は文字の1種だから、音を出してくれません。言葉はまず音声ありきで、母語話者は幼児期に音声の出し方を自然に身に付けます。外国語を学ぶ場合、なにはさておき、その話し言葉を構成するサウンドの「発声法」から始めなければなりません。すべての音声を正確に発音できて初めて、発音記号との照合が可能になります。
 日本人はとかく、カタカナ音を英語音に当てはめがちですが、両者はまったく異質なものと承知してください。カタカナと発音記号を一致させたところで、何の意味もないどころか、間違ったサウンドが身に付くと、むしろ英語学習の大きな障害になります。
 英語のサウンドはPV法で学んで、「45種の単音」および「アクセントのあり方」による「リズム」を会得すれば、単語の大半を自力で正しく発音できるようになります。あらかじめ音声のあり方を知っておけば、誤差的な語の発音記号だけを確かめれば済みます。
 英単語には外来語が多く、例外的な綴りが多々ありますが、発声法を知っておけば、発音記号は役立つガイドになります。ちなみに、英語話者で発音記号を知る者は皆無に近いでしょう。英語の辞書類は、綴りを読むための独自の記号を定めていますが、統一された共通記号になっていません。
2015.6.6(土)

2015/06/05

チャンク法が身に付くと「分かると忘れる」

【新・英語屋通信】(23)

 アメリカのTV番組には“I shoulda been here this morning.”といった「完了助動詞文」のセリフがよく出てきます。この文の原点は<S+beV>(主語+be 動詞)型の構造を持つ「be 動詞文」で、過去や完了または話し手の気分を告げるときなど、次のような重層的な発展を見せます。
  I'm / here / for the party.(私はパーティのためにここにいる)
  I was / here / 'til ten.(私は10時までここにいた)
  I have been / here / all day long.(私は1日中ずっとここにいた)
  I should be / there / now.(私はいまそこにいるべきだ)
  I should have been / here / this morning.(私は今朝ここにいるべきだった)
 be 動詞文は状態を表わしますが、<have+been>型の「完了文」はその延長線上にあって、I have been は I've been のように短縮されます。そして、話し手の気持を添える場面は「助動詞文」にして、その完了形は should have の部分を短縮させて shouda と言います。
 チャンク法とは、フレーズをいくつかの単位に分解して、口に出してチャンク(塊)ごとを個別に音則どおり練習し、最終的に言いたい内容の文を組み立てる無意識脳を作る手法です。上記の例では、3つに区切った冒頭の固定した形を脳内に叩き込むように練習しておけば、言葉の塊が潜在意識下に住みつく状態になって、そのうち考えずに口からフレーズが出てきます。真ん中の here と there の部分は状況しだいで変わってくるし、最後の時間や目的も変化する要素で、この両方にメッセージの内容が含まれています。
 英語は論理的な構造を持つ言語だから、理屈がわかれば、積み木遊びのように、文を無限に発展させられます。最初は「分ければ分かる」という考え方で練習し、最後に「分かれば忘れる」ことを目指して言葉を身に付けていきます。
 母語の話し言葉は意図せず「身に付く」もので、書き言葉は「身に付ける」学習対象です。そのじつ、文字がなかった時代は語り部が口承で物語を伝えてきたし、流暢に話せても、読み書きできない者がついこの間まで世界中に溢れていました。幼児期に使わなかった外国語は、書き言葉なみに学んで身に付けるしかありません。
(Bob Godin 監修)
2015.6.5(金)

2015/06/03

単語の意味はどんどん広がっている

【新・英語屋通信】(22)

 近年、数えきれない種類の“○○○ for dummies”と題した本が出版されている。この dummies は入門者たちのことで、crocheting(クロッシュ編み)に至るまで、何でもありのハウツー本で、人を馬鹿にしたような dummy の使い方は俗語と言えよう。
 手元にある Children's Thesaurus(児童用類義語辞典)の見出しには dummy がないから、idiot で引くと、a stupid person とあり、dummy, moron, dunce, fool, dope といった類義語が見える。そこで、“Macmillan Dictionary for Children”の dummy の項を引くと、2種類の説明がなされている。
1.A figure / that is / made / to look like a person.(人に見えるように作られた姿)とある。そして、ウェディングドレスを着て店舗の飾り窓の中に飾られる dummy を例示しているから、要するにマネキンにほかならない。
2.Something / that is / made / to look like something else / that is / real.(本物のように作られた何か)とある。この例には俳優が用いるガンを挙げている。
 つまり、子供たちには dummy を人形や贋作物と教えているが、世間では dummy を「でくの棒」転じて「ぼんくら」のニュアンスで使っているわけだ。
 英語ニュースに出てくる新語や新表現は、すべて既存の単語を基にしているから、英語話者なみの想像力がないとついていけない。言葉は実生活の中でどんどん広がっているのである。
 したがって、単語が内包する意味の範囲は、辞書ではとても把握しきれない。言葉は日常生活の中で掴み取れればいいが、それができない環境下であれば、いくつかの辞書を併用しながら、人間が考えつきそうな連想力を応用的にトレースする訓練を重ねていくと、そのうち単語の全容が掌握しやすくなる。
(編集部)
2015.6.3(水)

2015/06/01

語尾の‘-ten’と‘-sten’でサイレント字が生じる音則

【新・英語屋通信】(21)

 ホームページにアップロードした音声を校正担当者が「often(しばしば)がアーフンではなく、アーフトゥンと発音していますが、ぼくたちは学校で‘t’がサイレントされると教わりました。調べてみると、最近は‘t’も発音するケースが多いようだから、このままでいいんでしょうね」と報告してきました。
 語尾を‘-tn’と綴る英単語はありません。しかし、発音が〔tn〕と子音続きになる単語は少なからずあって、語尾に見られる‘-ten’や‘-ton’のように、子音の間に母音字を挟んでいます。そして、この〔tn〕は母音がなくても1音節をなしています。
 語尾の‘-ten’には、lighten(明るくする)などの動詞がいくつか見られます。また、‘-tten’と綴る語なら、written(書いた)などの動詞の過去分詞形が多数派で、名詞なら kitten(子猫)などがあります。語尾を‘-tton’と綴る語形も、cotton(木綿)などの数個の名詞は〔tn〕と発音します。
 ただし、1音節語にはアクセントがあるので、母音字がサイレントされず、ten(10)では〔-e-〕があり、ton(トン)の語中母音〔-u-〕(〔-o-〕と違うから例外)もそのままです。
 なお、tan(日焼け)・tin(ブリキ)・stun(気絶させる)も1音節語だから、その母音はもちろん〔-a-〕〔-i-〕〔-u-〕です。この種の母音はサイレントしにくいサウンドだから、2音節以上の語にアクセントがなくても、弱母音のシュワーが残ります。
 さて、often について言うと、語頭の‘of-’の部分は off(から離れて)と同じ発音の〔aw〕〔f〕です。〔t〕と〔n〕は舌先が同じ位置に来るので、素早く言うと、前にある音が消えやすくなり、soften(柔らかくする)も同じく、ゆっくり発音すると〔t〕が表面に出てきます。この音則は語頭の‘o’が長母音〔aw〕であることと関係があります。英語はアクセントの強弱でリズムが形成されるからです。
 また、listen(聞く)・fasten(結ぶ)・hasten(急がせる)・glisten(きらきら光る)・chasten(懲らしめる)・christen(洗礼を施す)・moisten(湿らす)などの動詞の語尾部‘-sten’は、舌先を〔s〕から〔tn〕に移すさい、〔t〕が脱落して〔sn〕になります。子音が3つ続くと、発音しにくい場面があるのです。
(編集部)
2015.6.1(月)