2015/05/20

「実用英語」における5段階の実力

【新・英語屋通信】(15)

 一口に「実用英語」といっても、ピンは英語の native speaker(母語話者)なみから、キリは命令された用事を理解できるだけの Janitor English(掃除夫英語)まで、多層なレベルに広がっている。流暢でなくても、相手と意思の交流ができれば、役に立つ「使える英語」と言えるし、自分が置かれた状況下の用件がこなせれば、ひとまず実用英語の使い手と見なして構わない。
 単語1つだけで伝える初級者が使う「1語英語」は、いわば「断片英語」と呼ぶべきカタコトだが、握手を求めて“Friend!”と言い添えれば、聞き手は親しくしてもらいたいのであろうと推察してくれる。ごくごく初級の入門英語だけど、話が通じたのであれば、初歩的ながらも実用英語と認めてよかろう。
 ついで、挨拶をしたり、交通機関を使ったり、ショッピングができたりと、旅行者が使う程度の英語は、ほとんど1秒以内のフレーズで用が足りる。中級レベルの「1秒英語」は、いうなれば「用足し英語」でしかないが、実用英語になっている。
 しかし、英語圏で生活すると、日常品を買い求めるときなど、正確な数値のやりとりをしたり、物品の用途を教わったりする。公私両面での人間関係が発生するので、Q&A的会話が多くなり、理由を述べるとき複文を使う場面も生じる。毎日的なフレーズはほぼ「2秒英語」になるが、この種の「生活英語」は上級者の英語と言ってもいい。
 つまるところ、言葉は手段でしかなく、社会活動のための道具でしかないから、それぞれの業務分野で流通する「範囲内英語」では、専門用語や特殊表現が多くなる。職種ごとに難易度が大きく違うものの、この種の「仕事英語」は有段者の英語と言えよう。
 そして、英語の講演を聞いても理解できるし、ディスカッションにも参加できるし、コメディーを観劇して笑えて、英語話者と対等に渡り合えれば最上級の英語力を身に付けたと見なせる。高段者が用いるこの「総合英語」は、いうなれば「文化英語」にほかならない。ここまで到達すれば、もはや英語の達人と言って差し支えない。
 人口の減少が続くわが国では、何をどうしたところで今後は国内需要が激減していく。売り手すなわち供給側は、いきおい海外のマーケットに踏み込まざるをえないが、そのためには世界共通語である実用英語の習得は避けて通れない。(S・F)
2015.5.20(水)

2015/05/19

“Hop on Pop” by Dr. Seuss

【新・英語屋通信】(14)

子供たちは絵本でファミリー語を学ぶ
 「同音同綴の母音」を含む単語のグループを「ファミリー語」と言います。そのファミリー語の何たるかを説明するとき、たいてい1音節語が例に使われます。
 kid・zip・thin・this・whip・rich・limp などでは、語中音〔-i-〕がファミリーを形成しています。pig・pin・pick・pitch・pill などでは、語頭・語中の〔pi-〕をファミリーと見なします。hit・fit・quit・wit・sit・shit などでは、語中・語尾の〔-it〕がファミリーを作っています。
 昔のアメリカの家庭で子供に文字の読み方を教えるとき、1単語だけの音声と綴りの関係を単独に教えるのではなく、同じサウンドを含むファミリー語をまとめて教えていました。ファミリー語はいわば、フォニックスの前身に相当する存在です。
 “Hop on Pop”は1963年制作のDr.スースの名著です。hop は“hop, step, jump”の hop で、ビールに苦味や香りを添える hop ではありません。pop にも「ポンと言う音」の意の pop や popular の短縮語がありますが、ここでは「おやじ」類を指します。
 hop も pop も軽快な響きを持つファミリー語として、HOP POP のページに父熊の腹の上で2匹の子熊が hop する挿し絵を添えて“We like to hop on top of Pop.”とあります。その右のページは STOP と題して、おやじ熊が“You must not hop on Pop!”と子熊を叱りつけるイラストが描かれています。
 最終章は“What does this say?”とあり、囲みの中に“seehemewe, patpuppop...”などと書かれています。綴りの読み方を覚えさせるための全編これファミリー語の絵本で、子供に読んで聞かせる最高の教材として永遠のロングセラーになっています。
 当社の蔵書には$3.95のラベルが貼られています。本の値段はたかだか知れていますが、カセットテープはアマゾンに12,491円と見えています。「べらぼう!」と言いたくなりますが、PV法の45種の単音の正しい発音をマスターすればカセットは買わずに済ませます。ちなみに、アクセントは1音節語の母音を強く発音すればいいだけですが、文ではやはりリズムが生じます。PV法を確実に身に付けてから読んでください。
(編集部)

http://www.amazon.co.jp/Hop-Pop-Beginner-Books-R/dp/039480029X
2015.5.19(火)


2015/05/18

“Random House English-Japanese Dictionary”

【新・英語屋通信】(13)

英文の用例が身に付くアイテム
 書名から推察できるとおり、本辞典は翻訳物だから、英文の用例が実用的なのは当然としても、その日本語訳もほぼ完璧と称賛できる。この種の「英和辞典」のわが国の編纂力は凄すぎて、何の努力も挟まずに利用できるので、日本人の英語下手をかえって助長するのではないかと懸念したりもする。
 英単語の綴りさえわかれば、日本語ですべて教えてくれるので、知識がすらすらと頭に入ってくる。その反面、英語の使い方は撫でるように薄っぺらにしか入らない。
 自国語による教育があまり進んでいない一部のアジア・アフリカ諸国の場合、英語(フランス語などもある)に頼らざるを得ないため、学習者は英語話者になってしまう。方言話者に似て、標準英語を使えないだけで、発音が米音や英音から大きくずれていても、全教科を英語で学ぶおかげで、英語話者であることに違いはない。
 フィリピンの人が訛りの強い発音で英語を使う様子を見て、日本人も「日本語訛りの英語で十分」などとほざく意見があるが、その考え方は間違っている。日本語で教育を受けて、学科の1つとして英語を学ぶだけの日本人が英語話者になれるはずはない。
 明治期のわが国の高等教育では、一部で英語話者が英語で講義していた。また、海外で実戦的な英語を身に付けた輩は、見事な英語の使い手になった。松岡洋右が国際連盟を脱退するときの演説の迫力には思わず聞き惚れてしまう。日本人が英語話者なみに考えるようになれるには、大学で全教科を英語で教えなければならないだろう。
 それはさておき、本辞書の利用法は、用例をしっかり読み込むことに尽きる。急がば回れで、時間のある者は用例ノートを作るといい。言葉は繰り返し使わないとすぐに忘れるが、用例の書き抜きを続けていると、実用英語の構造がそのうち身に付いてくる。
 本辞書の長所の1つは、語源考に優れて(初版は翻訳が不十分)いることで、印欧語の歴史的考証はとくに興味深い。わが社が刊行中の『英単語マニア』(全3巻)と併せて読み込めば、そのうち英単語博士になれることを保証してもいい。
 近年はパソコンから辞典の呼び出しが可能だが、GIGO(garbage in, garbage out=ガイゴー)の言葉どおり、屑入れからは屑が多く出てくる。英語学習者なら手元に置いておきたい辞典と推薦したい。辞書なら、やっぱり小学館なんですねえ。
(編集部)
2015.5.18(月)


「あっと言う間に」と“Ants in pants”

【新・英語屋通信】(12)

 日本語を少し使えるようになって以来、私は10年間以上も「あっと言う間に」という表現を聞き取れなかった。意味がわからないので、辞書を引くんだが、見出しに「あっというまに」の項目がないし、言葉を正確に把握していなかったため、それらしき表現が出てきたとき、大勢に影響はないだろうと無視して聞き流していた。
 私がサウジアラビアで働いた数年間、同行した妻がのんびり屋の気質だったからか、滞在中にこの表現を一度も聞いたことがなかった。息子も無口な性格で、そもそもヨーロッパに留学させていたし、彼からもこの文言を聞いたことがない。
 沖縄に舞い戻ったある日、この句をふと本の中で見つけた。そこで、辞書で「あっ」を引くと、「驚いたり、感心したり、思わず何かに気付いて出す声」と解説されていて、派生句の「と言う間」を見つけた。おまけに「と言わせる」も出ていた。
 それからというもの、その日のうちに「あっと言う間に」が3回も4回も耳に響いて、自分でもすぐに使えるようになった。日本語のネイティブ・スピーカーは私のような経験はしないだろう。母語では bootstrap(コンピューターが稼働できるまでの一連の処理プログラム)が知らない間に身に付くからである。
 言葉は早いうちに覚えてしまうほうが何かと便利だ。知っている語句なら、何度も使ううちに、自分の所有物にできるからだ。日本語は発音が簡単だけど、英語は複数の単語が並ぶ文になると、音則がいっきに難しくなるから、基礎を学ばないと子供が話す言葉も理解できないと思う。
 “Ants in pants”は蟻がパンツの中に入った状況だから、「むずむず・もぞもぞする落ち着かない気分」の表現で、ants と in がリンキングして「アンチン」のように言うが、このフレーズを初めて聞く日本人は、たいてい「はっ?」という顔をする。英語の話し言葉は草書体のように言わないと、英語話者には通じにくい。
(Bob Godin)
2015.5.18(月)

2015/05/12

歌はイミテートできても、言葉は真似られない

【新・英語屋通信】(11)

 沖縄のバーで英語の歌を上手に歌うフィリピン人の女性がいて、姿を見なかったら英語話者と勘違いするほど抜群に発音がいいのよ。
 彼女はホステスだから、お客のテーブルに来て、酒を注いだりするが、英語を話すと、アキサミヨー、フィリピン語なまりのとんでもない発音で英語を話すわけよ。
 歌は音声だけだからイミテートできるけど、会話は自分の頭から出てくる言葉だから、真似はできないね。
(Bob Godin)
2015.5.12(火)

英語の Children Dictionary に見る発音用記号

【新・英語屋通信】(10)

英語話者はほぼ3歳までに話し言葉を獲得します。文字が読めるようになる時期は、平均的に就学のちょっと前ころでしょう。そのとき、自分が言ったり聞いたりする音声と文字の綴りを一致させる手段として「フォニックス」が活用されています。ただし、フォニックスには特定された方式がありません。
 日本人の子供が仮名の五十音表に示される文字を丸覚えするのと同様、フォニックスでもやはり、音声と一致する基準の語形は丸暗記です。大半の Children Dictionary において、フォニックスに準じる綴りの一覧表がすべての見開きページの角っこに示されている様子からして、その種の事情が汲み取れます。
 どの辞書も25種前後の綴りの読み方を記号的に掲げていますが、辞書ごとにそれぞれ異なる数を紹介しています。ウェブスター(Webster)が最も多くて26種を掲げており、その内訳は母音が19種(弱母音のシュワー1種を含む)で、子音は7種だけです。
 子音では、bath の〔th〕と区別するため、綴りが同じ feather の〔th〕を斜体で示しています。ring の〔ng〕、church の〔ch〕と shade の〔sh〕のほか、実際の綴りと異なる記号を用いて wheat の〔wh〕は〔hw〕とし、measure の〔s〕は〔zh〕で表わしています。マクミラン(Macmillan)やホートン(Houghton)では、2種の〔th〕の違いを指示するだけです。私どものPV法が feather で〔th"〕を使い、measure では〔sh"〕として、2種の有声音に濁点を付けて記号化した理由も区分が目的です。
 母音については、ウェブスターが18種と弱母音を掲げた状況からして、母音重視の姿勢がよくわかります。英語では子音の発音はさほど問題ではなく、多様な母音の違いを判別することが大切であると一目瞭然で理解できます。
 わが国のテレビ講座での発音学習では、母音を軽視して、子音の違いだけを大袈裟に騒ぎ立てていますが、その姿勢は噴飯物というしかありません。英語は母音に強中弱のアクセントを置いてリズムを形成する言語だから、弱母音のあり方を知ることがいかに大切であるかを肝に銘じてください。
(編集部)
2015.5.12(火)

ギリシア・ラテン語系の英単語は漢字に似て

【新・英語屋通信】(9)

 NHKに「白熱教室」と題した海外の大学の授業を要約した番組(毎週金曜日午後11時より55分間)があります。その中で放送された「ハリウッド白熱教室」は、南カリフォルニア大学(University of Southern California)の映画芸術学部の Drew Casper(ドリュー・キャスパー)教授による講義でした。
 授業中、教授が受講者に「ギリシア語由来の photography(写真撮影術)という言葉はとても響きがいいけど、その語源を知って私はいっそう嬉しくなってね」と興奮ぎみに語り、黒板にギリシア文字で「フォト」と「グラフィン」と書いて、その原義を知っている者は誰かいるかいと尋ねるシーンがありました。
 挙手したアンナという生徒に「驚いた、知っているのかい?」と教授が迫ると、彼女が「私、ギリシア人なんです」と答えて、教室の中が笑いに包まれるシーンがありました。教授が「ギリシア人なの?本当に。こんな偶然ってあるのかい?仕込みじゃないの?」と言うほどだから、アメリカで英単語の語源考がないがしろにされていることが想定できます。アンナは「フォト」が「光」で、「グラフィン」が「書く」と答えましたが、英単語の語源については、日本人の英語学習者のほうが深い関心を寄せていると感じました。
 たいていの英和辞書が photograph[photo+graph(記録)]はギリシア語で「光で書いたもの」と説明しています。派生語の photography[photo+graphy(表現法)]をはじめとして、photographic[photo+graphic(graph の形容詞語尾)]は「写真の」で、photographer[photo+grapher(記録する人)]は「カメラマン」の意と覚えてきましたし、photograph に付ける接尾辞の<-y><-ic><-er>の語形も知っています。
 一方、英語話者はラテン語やギリシア語の語源を知らなくても、幼少期から使ってきた単語なら、音声と意味を耳で聞いて一致できるのです。日本人が漢字の偏旁冠脚について曖昧にぼんやり知っている状態に似ているようです。
(K)
2015.5.12(火)

2015/05/11

PV法は英語の発音を攻略する唯一無二の手段

【新・英語屋通信】(8)

 英語の文字は英字アルファベット(26字)を利用した「表音文字」です。音声(45音)の数が文字数より多いため、不足を補う手段として、2字以上を組み合わせて、特定の音声を表わす「ダイグラフ」(digraph=連字)を作りました。
 この表記法をいつ誰が作ったのかは別にして、英語の綴りのシステムは、じつに合理的にできています。ただし、「綴り=音声」の関係を知らないと、読むことは叶いません。じつのところ、シェークスピアによる演劇が盛んに上演されていた1600年前後の観客の大半は、文字の読めない人たちでした。
 近代を迎えて、教育が一般人に普及されるにつれて、英単語の綴りを読む工夫の指導法が試行錯誤されました。現在はほぼ「フォニックス」(Phonics)だけに定着していると言えるでしょう。
 英語話者は英語の発音を知るための「発音記号」を使わないし、そもそも記号の存在すら知らない人が大勢います。一方、日本人は英語音を耳から覚えたのではないから、目安として発音記号に頼らざるをえないのかもしれません。
 しかし、記号が音を出すわけではありません。個々の発音用記号が表わす音を知るには、実際の音声を用いた教育法が必要になります。PV法(Phonovisual Method=音視法)は45種の音声を表わす「キーサウンド」の綴り(語形)を特定して、その発音を覚える手段だから、すでに英語を話せる英語話者にとってはフォニックス同様の手段ですが、音声学を下敷きしている点がPV法と特徴です。
 PV法は英語音を聞いて育たなかった非英語話者にとっては、英語の綴りを正しく読むための唯一無二の方策です。英語の綴りを読むための発音記号は、そもそも英米で異なるし、英語話者には無用の長物ですが、非英語話者は発音記号の代わりに、PV法が定めたキーサウンドを発音の手掛かりとすればいいでしょう。
(Bob Godin)
2015.5.11(月)

2015/05/07

uncle と ankle はともに「アンクル」

【新・英語屋通信】(7)

 「カタカナ語」を収録した「外来語辞典」は、日本語辞典の1種であって、外国語辞典ではありません。日本語への浸透度の深さによって、カタカナ語(外来語)か否かが決定されています。
 uncle(おじ)と ankle(足首)は、いずれも「アンクル」と書きますが、不思議なことに、後者は2万語を掲載したカタカナ辞典に出ていません。原語(大多数が英語)の側からすれば、カタカナ辞典は片手落ちと言うか、掲載されてなくて「えっ!」と驚かされる反面、こんな言葉まで出ているのかとびっくりさせられます。
 uncle の「アンクル」には、派生語が United States の頭文字をもじった「アンクル・サム」(Uncle Sam(アメリカ人もしくはアメリカ合衆国)くらいしか見当たりません。ところが、姿の見えない ankle の派生語は目白押しの印象です。
 「アンクル・レングス」(ankle length=くるぶし丈)に関連する「アンクル・ソックス」(ankle socks=くるぶしまでの短い靴下)や「アンクル・ブーツ」(ankle boots=足首までのブーツ)は服飾用語です。「アンクレット」(anklet=足首を飾るバンド鎖)は装飾品として知られますが、接尾辞の<-et>が指小辞だからか、足首までしかない短いソックスを指し示す例もあります。
 「アンクル・サポーター」(ankle supporter=足首用サポーター)や「アンクル・ウォーマー」(ankle warmer=足首を暖めるすね袋)はスポーツ用語です。ちなみに、後者は「レッグ・ウォーマー」(leg warmer)とも言います。自転車競技は「アンクリング」(ankling=足首の関節を使うペダルの踏み方)という用語を使っています。
 カタカナ語が増える理由は、適切な訳語を見つけにくいからですが、ankle warmer は脚絆でもゲートルでもなく、野球の捕手が着ける leg-guard(レガーズ=すね当て)とも違うし、実際のところ訳語の設定に困りました。各分野で使用されるカタカナ語を網羅すると、おそらく5万語は超えるでしょう。
 uncle と ankle の発音の違いは、最初の母音の〔-u-〕と〔-a-〕だけですが、日本語に「ア」が1つしかないため、異なるサウンドが同じ表記になるのです。なお、〔n〕は両語とも〔ng〕の別の綴りで、〔c〕と〔k〕は同じです。〔-le〕は音節主音になる子音の〔l〕だから、語尾の‘e’はサイレントされます。
(K)
2015.5.7(木)

woman と言って「馬」に間違えられる

【新・英語屋通信】(6)

 単語1つだけが相手に通じなくて困ることがある。ロサンゼルスに駐在していたとき、私がいくら woman(女性)を繰り返しても、英語話者にはまったく通じなかった。日系人から「馬」に聞こえるとからかわれたが、日本人には woman の発音はとても難しい。
 では、どう発音すればいいのか、皆目わからなかった。H・M教授がUSC(南カリフォルニア大学)にいた関係上、そのもとで音声学を研究中の英語話者から週1回45分間ずつ米語音の発音レッスンを3カ月ほど受けたことがある。
 夜間教室からの帰路に Hollywood を通って、山の上の見慣れた大きな看板を目にするたびに、この語を何度も口にして、なんとか〔w〕の「口と唇の使い方」を覚えるに至った。しかし、woman はうまく言えなかった。woman の正しい発音は、メリーランド州にあるプライマリイ・デイ・スクールの校長先生から教えてもらった。
 問題点は語頭の〔w〕音ではなく、綴りの‘o’にアクセントを置いて〔-u-〕と発音して、アクセントの消えた‘man’の母音を「弱母音」(シュワー)に代えて、強弱のリズムを刻むのがコツだった。また、複数形の women の‘o’は例外的に〔-i-〕と発音して、‘men’の母音は〔-i-〕系の「弱母音」に変化すると指導された。
 1音節語の man は〔m〕〔-a-〕〔n〕で、men は〔m〕〔-e-〕〔n〕だが、多音節の中でアクセントを失ったとき、短母音が弱化すると教わった。woman や women は study word(勉強する単語)だから、「丸暗記する単語ですよ」と校長先生は言い添えた。
 〔w〕は「口を前方に突き出して、舌を平らに伸ばしたまま発声する子音で、接触する調音器官がないため「半母音」でもある。日本語の「憂い」(うい)や「上」(うえ)での母音は続けやすいが、同音が続く「うう」はやや言いにくい。woman や women の語頭は、母音が2つ続くみたいで、発音しにくい理由をなるほどと納得できた。
 理屈を知った私は break through(突破する)できて、英語音の音質の違いを一気呵成に会得できた。その後の私は、やはり依然として間違えることが多いけれど、一度ブレークスルーしているせいか、すぐに正しい音則と取り替えることが可能になっている。
 出版業は書籍を商って口に糊する職業だから、発行物を読者に買っていただくために、英語の習得がさも簡単であるかのような宣伝文句を並べ立てがちだが、正直に言うと、日本語と大きく違う英語音の習得は容易でない。
(S・F)
2015.5.7(木)

2015/05/02

“The Macmillan Guide of English Grammer”

【新・英語屋通信】(5)

目から鱗の生涯の友とすべき英文法書
 本書は英語学習者の「目から鱗が落ちる」英文法のガイド本と評して過言ではない。紹介するにあたって、当社の蔵書を取り出したら、背の無線綴じが外れて、本がバラバラに壊れた。中身は赤のアンダーラインと蛍光ペンでカラー印刷のようになっている。
 本書には「あとがき」がなく、「序」らしきものが Introduction の冒頭に Aims(目的)と題して、わずか5行だけある。曰く「本書は伝統的な英文法を学ばなかったり、勉強したが忘れたという英語のネイティブ・スピーカーたちが英語をうまく使いこなすための案内書で、外国語として英語を学習する人たちの興味もそそるであろう」と。
 紹介するにあたって本を開いたところ、コメントを書く以前に、思わず読みふけってしまった。本書の序章に10数ページの「索引」があって、掲載項目のページも示されているので、知りたい内容にすぐに行き着ける。そのあと「文法とは何ぞや?」の章で本書の構成が簡単に解説され、次の章で「文型」について触れている。
 わが国の学校で教える5文型は、英文がS・V・O・C(主語・動詞・目的語・補語)の4種の構成要素から成ると説明している。一方、本書はA(副詞類)を一人前に扱って、英文型のエレメントはS・V・O・C・Aの5つと定めている。
 じつはわが国の英文法学者の中にもAの存在に手を焼いて、ひそかにM(modifier=修飾語句)と名付けて、実質的に副詞類を認めた文法書がいくつかある。ところが、同じ著者が学校英語の参考書類では「4要素・5文型方式」で英語の文型を解説している。
 Aの要素を欠く英文型は、耐震構造にならないのに、約100年前に確立された5文型方式に従わないと文部科学省の検定に合格しないのだろうかとの疑念が湧く。もしそうであるとしたら、日本人の英語オンチを文科省が大量生産していることになる。
 本書はまた「品詞」の働きを明解に説明している。わが国の文法学で隅っこに追いやられた determiners(決定詞=限定詞)の機能を強調した点はとくに有益と感じる。
 著者の Rosalind Fergusson と Martin Mauser は、ともに Oxford など多数の辞書に関わる lexicographer(辞書編集者)と紹介されている。本書を生涯の友とすることを薦めたい。手の届く場所に置いておきたい1冊ではある。
(編集部)
2015.5.2(土)

<No+名詞>型の省略文を使いこなす

【新・英語屋通信】(4)

“No onions.”と“Hold the onions.”
 当社では海外出張に出掛ける担当者に向けて、渡航直前に英作文の俄講習をする場面があります。そのおり、受講者にまず自分の言いたい表現を10個ほど提出させて、それをテーマに基本文型とその応用を説明しています。内容は業務より生活に関する everyday expressions(日常表現)が多くなりがちです。

 「タマネギを抜いていただけますか?」

 このフレーズの最も簡明な英文は“No onions.”(タマネギなし)ですが、丁寧に言いたければ、前後どちらかに please を付ければいいと伝えています。<No+名詞>型は代表的な省エネ文ですが、省略前の英文の構造には触れないほうがいいでしょう。
 ちなみに、英語話者は“Hold the onions.”をよく使います。hold の基本義は「保持する」ことで、「保つ」→「維持する」→「状態が続く」と発展して、“Hold it!”と言うと、写真を写すときなら「動かないで!」となり、電話なら「切らないで!」となることから、「待って!」→「やめて!」という意味で使います。“Hold the onions.”は、ゆえに「タマネギを入れないで」という表現になるのです。

<No+名詞>型の日常フレーズ
 日本人が最近よく使う“No problem.”は「問題なし」の意味だから、「いいとも」とか「どういたしまして」という用法に転じています。“No trouble.”は trouble(困難、迷惑、心配事)のない状態だから、“No problem.”と同じ状況で使うことがあります。
 “No sweat.”は「汗いらず」だから、やはり「問題ないね」→「簡単だよ」→「平ちゃらだ」といった感じで使います。
 “No way.”は「方法なし」だから、万事休す的に“No way!”と叫ぶと、「無理だ!」→「駄目だ!」さらに「とんでもない!」となります。“No chance.”も似たような表現ですが、将来に希望がない局面のフレーズです。
 “No kidding!”の kid は、動詞の「冗談を言う」とか「からかう」から出ているので、「冗談じゃない」→「嘘じゃない」となります。“No kidding?”と尻上がりに言うと「嘘でしょう?」→「まさか!」というニュアンスになります。

<No+名詞>型の場面は広がる
 “No sirree!”は「とんでもない!」という拒絶表現です。“No, sir.”のもじりと見なして、フレンドリイな場面で使う例を数名の英語話者から教わりました。sirree が載っていない辞書は多いけれど、英語話者ならこの表現をたいてい知っています。音の並びは〔s〕〔弱〕〔r〕〔ee〕で、アクセントを第2音節の長母音に置いて発音しないと英語話者には通じません。“Yes sirree!”は“Yes, sir.”のもじりで、「いいとも」といった感じで使われます。
 “No tresspassing.”は「通行止め」で、“No admittance.”なら「入場禁止」です。“No pain, no gain.”は「苦は楽の種」と訳されていますが、encouraging someone to try someone(誰かが何かにトライするときに力づける)言葉で、「虎穴に入らずんば虎児を得ず」(If one doesn't enter the tiger's den, one can't get cubs.)といった状況で使う人もいます。
 “No ketchup.”や“No mayo.”は、軽食堂で「ケチャップはなしで」とか「マヨネーズは付けないで」という要求ですから、“No onions.”と同様のニュアンスで使います。<No+名詞>型のフレーズは、ほかにいくらでもあるし、新しい表現がいくらでも作れます。
(K)
2015.5.2(土)

技術はひたすら“反復練習”で身に付ける

【新・英語屋通信】(3)

 出席者の大半が英語話者だけの記念行事に招かれて、図々しくも私は英語で挨拶した経験があります。場所はハワイで、参列者は水産関係者と観賞魚の愛好家でした。10分間に満たない短いスピーチだったので、原稿を読むのではなく、一字一句を丸覚えして、自分の言葉でしゃべると決めました。
 母語であっても、よそいきの儀礼文は、とかく不自然になりがちだし、聞き手に視線を向けて話すほうが親しみが湧くであろうと考えたからです。そこで、私が書いた草稿を英語話者にリライトしていただき、声を出して読んで、発音上の細かい点をチェックしてもらいながら、利用する単語や言い回しの訂正を重ねました。
 完成した挨拶文は、毎日の犬の散歩時に口に出して何度も何度も反復練習して、話の変わり目のチャプタリングでは指を折る仕草を目印にして、完全に暗で言えるようになりました。ミーティングのある早朝、原稿なしで読もうとする私を家内が心配して、宿泊したホテルの部屋で模擬テストさせられ、すらすら言えたのでOKが出ました。
 結論を言うと、大失策をやらかしました。ハワイ州の副知事と水産関係の大学教授が述べる言葉を聞いているうちに、余計な雑念が湧いて「よし、この表現を使って始めてみよう」と頭の中で冒頭部を書き直しました。
 出だしはほぼ無事にこなせましたが、チャプタリングでの指折りの動作に齟齬が生じて、丸暗記していたはずの原文との繋ぎがもたついて、モノにしたつもりの作品を台無しにしてしまいました。かっこよく、と欲を出したのがミステークでした。
 私の失敗など誰も気にしないはずですが、自分の英語が付け焼き刃であることを忘れたのは大失態でした。チャレンジ精神は間違っていないと思うものの、英語話者が聞くに耐えない拙い英語は、公式の場で使うべきでないと反省しています。
 母語は赤ちゃん時代に形成されます。外国語で丁々発止の交流ができる言語力の獲得は、二十歳くらいが最終年齢の限度ではないでしょうか。日本人が英語をモノにするには、ひとまず日本語と異なる音声を反復練習して自家薬籠中のものにすることから始まります。
 アスリートたちの誰もが技術を上げるには反復練習しかないと言います。カーネギーホールに出演するには繰り返し練習するしかないという名言もあります。“反復練習”は技術を身に付けるためのキーワードなのです。
(S・F)
2015.5.2(土)

2015/05/01

restaurant と restroom の音節数の違い

【新・英語屋通信】(2)

 ある日本人が“Where is the restaurant?”と尋ねたら、restroom を案内されたという話を聞いたが、英語話者の会話でこの両語を取り違えることはないと思うよ。
 なぜなら restaurant(飲食店)は res|tau|rant という3音節語で、restroom(お手洗い)は rest|room の2音節語だからね。「フン、フン、フン」というリズムと「フン、フン」はずいぶん違うだろう。
 日本語は restaurant を「レストラン」と5つの音に区切って、「レスト、ラン」のようなリズムで言うから、それを聞いた英語話者は脳の中で無意識に2音節の単語を探して restroom を引き出したんだろうと想像するね。
 英語は音節(syllable)の区切り(syncopation)がとっても大切で、1音節の中に必ず1つのアクセント(accent)があるのが特徴の言語だからね。2音節以上になると、強勢同士の強弱関係が生じて、音楽的に豊かな響きを作るから、親しい人の間では「フン、フン、フン、フン?」と聞いて、「フン、フン、フン」(この返事は「イエス」ではないよね)などと答えるリズムだけの会話をよくするのよ。
(Bob Godin)
2015.5.1(金)

英語は英語話者から教わるべき

【新・英語屋通信】(1)

新刊の『英語の発音とリスニングの音則』の著者バブ・ゴーデン(Bob Godin)氏の言語背景を簡単に紹介しておきます。彼はアメリカ人で、出身地はフロリダ州です。
 フロリダは引退者たちが集う地域で、そのせいかアメリカ各地の訛りが混じり合って、現在は最も癖のない「標準米語」が話されています。平均的という意味から、この種の米語をアイスクリームの基本の味に因んで「バニラ・イングリッシュ」と呼んでいます。
 バブの父親はフランス系カナダ人です。ニューヨークに移住したとき、そこがユダヤ人の多い職場だったため、ドイツ語から派生したイディッシュ語(Yiddish)を介して英語を理解するようになったものの、フランス語が母語だから、家庭では強い仏語訛りの英語も使っていたそうです。母親はオーストリアからの移民ゆえに、ドイツ語訛りが強烈に響く英語を使用していたとのことです。
 バブがまだ高校生のころ、コリアン食堂でアルバイトをした関係で、彼はいみじくも韓国語を少しかじりました。バブはスペイン語を使う中南米系の人が多く住む隣接地を生活圏とし、家庭では外国語訛りの強い英語を耳にしながら、韓国語の音声まで覚えて、幾種類もの言語音声が入り混じる環境下で標準米語を身に付けました。
 日本語は沖縄に赴任してから学び、独学でモノにしています。1日8時間のペースで日本語学習にどっぷり浸った時期もあり、本からも学ぶが、一般社会で使う日常語を重点的に身に付けたそうです。そのため、バブとの会話では、しばしば沖縄方言が飛び出して、聞き手を面食らわせます。披露したい面白いエピソードがふんだんにあります。
 バブは俗に言う「日本語ペラペラ外人」ですが、率直に言って、話し言葉は活用語の語形変化がいまいち不十分です。接続詞の使い方はワンパターンですが、日本人が知らない自作漢語を使ったりもします。リスニングは拗音を正確に聞き取れず、初対面の人の言葉に慣れるまで多少の時間が掛かります。100%とは言えませんが、聞き慣れた人の言葉やテレビで使われる話し言葉なら問題なく聞き取ります。
 ピアノはそれを弾ける者から教わるのが常道で、サッカー選手を目指す子供は経験者から指導を受けます。英語もまた、これを母語とする話者から習うのが王道です。当社が発行する英語教材の執筆陣が英語話者である理由は簡単で、彼らの母語が英語だからにほかなりません。
(S・F)
2015.5.1(金)