2016/05/10

ピアノを弾くより英語音の修得は容易

【新・英語屋通信】(72)

 英語の発音はたぶん、ピアノを弾くより格段に易しい。ピアノを弾ける者がわが国にどの程度いるか不案内だが、ピアノ教室の普及度からすると、少なくとも最低1000人に1人くらいは習い事の1つにしてきた様子だから、英語を話せる潜在人口は、どんなに少なく見積もっても、この分野だけで10万人は下らない計算になる。
 ピアノにはドレミファソラシの7音階しかないが、白鍵が低音部から高音部まで7段階と少しあって、半音の黒鍵が5段階ずつあるから、すべてを併せると90音弱ある。標準米語の英語音は、PV法には45音(子音27・母音18)だけで、ピアノのキーの約半数しかない。しかも、ピアノは両手で弾くため、半端な技術ではモノにできない。
 野球のボールを打つとき、バットを握る両手が「同時」に動くから、意識的な思考が働くことはない。ボールを捕って投げるときは、左右の手を「交互」に使うから、無意識に対処できている。ボールを捕球する手に片方の手を添えるが、両手の動きが「主従」の関係にあるので、複雑な動きとは感じない。いずれも「連動」する動作だからであろう。
 ところが、ピアノを弾く両手は、異なる音階を同時に出すため、頭が混乱して手の動きと一致させにくい。ピアノを片手だけで弾くのは、さほど困難ではないが、両手を揃えるとなると、英語音を正しく発音するより何十倍も難しい。ピアノでは教則本の最初期の練習曲 Butterfly(蝶々)を正しく弾けるまで何百~何千回と練習しなければならない。
 英語の発音では、舌・唇・歯・顎・喉などを同時に動かすので、口の筋肉を約100カ所ほど使うものの、1つのキーサウンド(単音)は10回も練習すれば、正確な音を出せるようになる。あとは口から無意識に音が出てくるまで繰り返し言い続けるだけだから、英語の音声修得は、ピアノを両手で弾くより明らかに質量両面で簡単と思う。
 PV法はキーサウンドとキーワードをいっしょに練習するので、おのずと音の連結まで理解できてしまう。余裕があれば、併行して chunk(チャンク=語群)のトレーニングに取り組むと修得しやすい。
 慣用句の“I should've known.”(やっぱり)の should've は、should have の<法助動詞+完了動詞 have>型のチャンクで、音の並びは〔sh〕〔-oo-〕〔d〕〔弱〕〔v〕となっている。主語の人称と動詞の過去分詞形を取っ替え引っ替えして、言葉が使われる場面をイメージしながら、応用形を練習すれば脳内に定着させられるであろう。英語を理解するには、頻繁に使われるチャンクをひととおり身に付けておく必要があるが、音符の組み合わせに比べるべくもなく、その数は圧倒的に少ない。
 音符を3つか4つ組み合わせた1小節は、1音節の単語と似ている。そして、4小節くらいが1つのチャンクに相当する印象がある。音声面において、音楽は常に言語の上位に位置している。
 ピアノの練習では、初心者の期間は1回10~15分間ずつを1日3回くらいレッスンすれば、前日より少しだけ上達した音色が自分の耳に届いてくるので、わずかな進歩でもわかりやすい。そのうち練習が楽しくなって、有段者級になるまで、モチベーションが下がることはあまりなかろう。
 残念なことに、英語の発音は、上達の程度を測定しづらいため、練習に取り掛かる意欲が湧きにくい。学習においては、具体的で効率の良い手段を常に必要とするが、PV法の利用では、ひとまず英語話者の音声をダビングして、そのあとに空白を作っておいて、自分の声を録音して比べれば、気付きが多くあって、練習がしだいに楽しくなる。
 自分なりの学習法を組み立てる努力が肝要で、出来合いの教材をそのまま使うだけでは本物の筋力は作れない。「肥より鍬」と言うように「教材よりも練習」が大切である。
 英語の発音練習では、最初は1回5分間ずつを1日3~10回くらい練習するだけでよく、無理して長い時間を学んでも、集中力が薄れると、身に付くものは少ない。最初は退屈かもしれないが、上達するにつれて、細部が気になるようになり、思わず知らずトレーニングを重ねてしまう。
 PV法を軸に、英語の発音練習を本気で3カ月もやれば、成人でも英語のネイティブ・スピーカーなみの発音になっている。5歳の幼児なら1カ月も要しない。「米一粒、汗一滴」とも言うから、練習を積む以外に物事の成就はない。
(S・F)
2016.5.10(火)