2015/08/14

<the+比較級?, the+比較級?>の構文を攻略できて

【新・英語屋通信】(40)

 英語を学びたい者にとって、いまほど好都合な社会状況はかつてなかった。なかでもTEDの公式サイトは最高学舎の1つで、陳列台に「生きた英語」を山積みしている。
 “The Price of Shame”(恥の代償)と題したモニカ・ルインスキー嬢による講演は、彼女が自ら蒙った屈辱と同種の現象が被害者の許可なしにインターネット上で華々しく展開され、この「humiliation(恥辱)の文化」は人々から思いやりの気持を奪っているという内容であった。公に晒された恥の値には、犠牲者の損傷を考慮することなく、これを餌食にする者の利益にのみ値札を付けているとモニカ嬢は指摘する。
 すなわち、他者への侵害が素材になり、これを手際よく、遠慮会釈なしに、加工して、包装し、利益を得るために売り捌いている。その市場は活況を呈し、弱者を公然と辱めることが商品化され、恥辱が産業になっていると彼女は糾弾する。
 モニカ嬢は“How is the money made? Clicks”(その財はどのように生み出されるのか?多数のクリックで)と問いかける。その直後に<the+比較級?, the+比較級?>の構文が連続して登場するが、この部分は受験生のこのうえない教材になる。

 The more shame, / the more clicks.
 The more clicks, / the more advertising dollars.
 The more we click / on this kind of gossip,
  the more numb / we get to the human lives behind it, and
  the more numb / we get,
  the more we click.(中略)
 The more we saturate our culture / with public shaming,
  the more accepted / it is,
  the more we will see behavior / like cyberbullying,(後略)

 (恥が多いと、クリックは増加する。クリックが増えるごとに、宣伝費の増収になる。この種のゴシップにクリックし続けると、人々の背後にある暮らしぶりに無頓着になり、ますます感覚が麻痺して、私たちはさらなるクリックを重ねる。われらが文化に公然と侮辱することが溢れるにつれて、しだいに受け入れられて、ネットいじめのごとき行為を数多く目にするようになる)

 <the more ?, the more ?.>という構文は、学校英語で「?すればするほど、ますます?する」と訳せばいいと私たちは教えられてきた。ところが、モニカ嬢はシンプルに「?が多いと、?も多い」と表現している。
 また、この構文は「倒置形」を潜在させているが、the more のすぐ後ろに強調語の numb や accepted を位置させて、倒置文にならざるをえない必然的な形を示している。the more の直後に単独で使われる shame と clicks と advertising dollars は、まさしくその強調部で、文体を簡明にするため省略文にしている。
 なお、2度にわたる‘the more numb’の使い方は、現代人が大切な問題に鈍感になっていくことへの警告を含んでいる。文体ともども、このまま高校の教科書に掲載できる道徳的な教材として推奨したい内容と言える。TEDの閲覧は無料だから、虜になるのもよし、ナマの英語をみっちり勉強していただきたい。
 ちなみに、慣用句の“The sooner, the better.”(早ければ早いほどいい)の場合、sooner と better 自体を強調語にして、この構文の究極な形に到達している。
 30歳代の2人の東大出身者にこのTEDを見せたら、「the more ?, the more ?. の対句はよく使われるんですね」「なるほど、こんなふうに<the+比較級>の構文を使うと、相手に伝わりやすくなるのか」とコメントしてくれた。さっそく論文にでも利用するつもりだろうか?
(S・F)
2015.8.14(金)