2016/01/28

カタカナ語と英語の発音はかくも異なる

【新・英語屋通信】(63)

【Q】錦鯉に「コイヘルペスウイルス」という病気があって、このことについて外国人に伝える必要があったとき、俺の発音が通じなくて困った。(新潟県・鯉師M)

【A】英語で書くと koi herpes virus となりますが、これをローマ字(上段)とアメリカ人の発音によるPV法の表記(下段)を並べて示しておきます。
  〔ko〕〔i〕 〔he〕〔ru〕〔pe〕〔su〕  〔u〕〔i〕〔ru〕〔su〕
  〔k〕〔oy〕/〔h〕〔ur〕/〔p〕〔ee〕〔z〕/〔v〕〔i-e〕/〔r〕〔弱〕〔s〕
 日本語の仮名は、1字1音方式の表音文字で、大半が<子音+母音>型で、「コイヘルペスウイルス」は文字数どおり10音になります。一方、英語は子音・母音ともに「単音」として使うため、合計が12音になります。
 ところが、英語の音節は<子音+母音+子音>型が1音節だから、5音節しかないのに対して、日本語では五十音がそのまま音節化して10音節になるから、英語の話される速度が2分の1近くまで短くなって、日本人には速すぎて聞き取れなくなります。
 聞き取れなければ、英語がどんな音を使って話されているかがわかろうはずもありません。逆説的に言えば、英語の45種の単音(子音27・母音18)を正しく発音できれば、いずれ聞き取れるようになるはずです。では、米語の単音を説明しておきましょう。
 koi は〔ko〕〔i〕ではなく、〔k〕〔oy〕と言います。母音は boy(少年)や oyster(カキ)の〔oy〕の同音で、coy(おしとかやぶった)とまったく同じ発音です。
 herpes の her- の発音は〔h〕〔ur〕です。hurdle(ハードル)・hurricane(ハリケーン)・hurry(急ぐ)・hurt(傷つける)の hur-と同音です。
 hurler(野球のピッチャー)は hurl(投げる=pitch)からの派生語で、やはり同じ音です。「ハーラーダービー」は和製英語です。
 herpes(疱疹)はギリシア語の「這う→広がる」に由来する語だから、綴りが hur- にならず、her- のままです。同語源の serpent(有毒な大型の蛇)の ser- も同じく、やはり〔s〕〔ur〕と発音します。
 -pes の発音は〔p〕〔ee〕〔z〕で、母音はアルファベットの名前のEと同じように長母音で読みます。そのとき、語尾の -s は有声音〔z〕になります。発音は癖だから、何度か口にして、脳に定着させることが肝要で、理屈はどうでもいいと言えるでしょう。
 virus はラテン語の「毒、ヘドロ」からの移入語で、vi- は violin(バイオリン)・violet(紫)・violence(暴行)・vibration(振動)などの語頭にある〔v〕〔i-e〕と同じ音です。母音はやはり、アルファベット名の I と同じ長母音です。
 -rus の母音は弱母音のシュワー(schwa)で、この種の例は枚挙に暇がないほどで、pupyrus(パピルス)・chorus(合唱)のほか、-sus では Jesus(イエス)・census(人口調査)・versus(対)があり、-tus では lotus(水連)・status(地位)などですが、アクセントがないので、いずれも弱母音です。narcissus(水仙)から派生して「ナルシシズム」(自己陶酔)という語を作っています。
 なお、koi herpes virus をあえて仮名書きすれば「コイ・ハーピーズ・バイラス」のようになります。この語句には、r型母音の〔ur〕と子音の〔r〕が出てきますが、いずれも舌先を口の奥に巻き込んで出す音ですから、舌が口の中のどこにも触れないことに留意してください。
 この稿に取り上げた発音例は、日本人がほとんどカタカナ語として知っている英単語です。PV法を覚えて、カタカナ語を少し変化させれば英単語として使えます。野球に喩えれば、PV法は「キャッチボール」や「トスバッティング」のようなものです。基礎練習なしに野球ができないように、発音を知らずして英語は話せません。
(編集部)
2016.1.28(木)