2016/02/06

わが国は教育立国だが、英語教育だけがねえ

【新・英語屋通信】(64)

 文部科学省が2015年6月末から7月にかけて全国の国公立中学3年生の約6万人を対象に英語力を測定した初のテストの結果を公表した。英検3級(短く簡単な文の読み書きや聞き取りができる)程度に達していない生徒が「聞く」の面で約80%もいたとは驚きだが、一方で「やっぱりそうだったのか」と確認できた。

  <英語力別の生徒の割合>(中学3年)
              読む   聞く   書く  話す
  A2(英検準2級程度) 3.0 %  2.1 %  0.1 %  ----
  A1上位(3級程度)  23.1 %  18.1 %  43.1 %  32.6%
  A1上位に達しない   73.9 %  79.8 %  56.7 %  67.4%

 「話す」の対象者は約2万人だったが、A2(日常の範囲で単純な情報交換ができる)が0%とはねえ。文科省は「生徒は苦手分野を把握し、教員は授業改善につなげる」ことを狙いとして、英語力を上げるために2019年度から4技能を測る全国テストを始めるとコメントしているが、遅すぎるだろうと言いたくなる。病気とわかっているのに、原因を特定できないから、治療法を確立できない状況かもしれない。
 「生徒が苦手分野を把握し」と言っても、0%なら全部が苦手なのじゃありませんか、と問い返したくなる。「教員は授業改善につなげる」と言っても、この成績では英語の何を教えているのか現場を覗いてみたくなる。文科省は傍観省なのか!
 スポーツ界での日本人の活躍は華々しい。日本の選手は体力面で外国人より劣っているけど、多くの競技で目を剥くような好成績を収めている。誰もが自分の好みの競技に参加できる社会的なインフラが敷かれていて、進歩著しいスポーツ科学がデータ分析をして、適切なトレーニングを提供できているからだろう。
 芸術の分野も卓越している。音楽のクラシック界には人材が溢れ、美術界は絵画・造型はもとより、なかでもコミックはダントツだし、伝統芸能もしっかり継承されている。大学教育が充実しているせいか、優れた指導者が全国の隅々まで配置されている。
 わが国はモノづくり大国でもある。工業は重・軽を問わず、精密産業の職人は凄腕揃いだし、ロボットやコンピューターやバイオなどの近未来産業もお手のもので、技術教育も世界のトップグループを走っている。
 自然科学系では、日本人学者が毎年のようにノーベル賞を受賞している。理科・数学が苦手な子供が多いと言われて、教員の指導力に偏りがあるようだが、世界と比べて後塵を拝しているとは思えない。物理・化学・生理・医薬などの理科系のノーベル賞候補が目白押しに育っているから、高等教育は順調なのだろう。
 ところが、英語力だけが世界の最下位をうろついている。世界からの情報を英語でキャッチできる者が少なく、ディスカッションもできないから、ビジネスや政治はいかれっ放しに近い。テクノロジイの発想力が凄くても、外国人と協調できなければコスモポリタンになれない。学習者と指導者のどちらに問題があるのか、はたまた日本人は英語を学びたくないのだろうか?
 いやいや、英語教材の出版数は圧倒的に世界一だし、巷には英会話教室が軒を連ねている。英語をモノにしたがる日本人の動機・欲求の異常な熱さは、火を見るより明らかだ。漢字・仮名・ローマ字を併用して表記する世界一難解な書き言葉を駆使できている日本人に語学のセンスや能力が備わっていないはずがない。
 結論を言うと、教わる側のせいではない。教える方法が間違っていて、指導者は不在に等しく、教えるための適切なツールが普及していないだけにすぎない。ゆえに、学習者は「願望」だけを強く抱いて、「目標」を設定する術を知らない状況が続いている。
 物事に上達するには、それ相当の筋トレをしなければならないが、英語力の獲得の道は甘くないのに、学習者は「聞くだけで話せるようになる」などというたわごとが罷り通る低いレベルに据え置かれている。
(S・F)
2016.2.6(土)