2015/10/05

英作文は基本形を覚えて応用する

【新・英語屋通信】(49)

 “You're / looking at a woman / who was / publicly / silent / for a decade.”(あなた方の目の前にいる女性は、世間に沈黙し続けて10年を過ごしてきました)というフレーズは、クリントン米大統領と不倫関係に陥ったモニカ・ルインスキー嬢が今年3月にTEDの壇上で自己紹介した冒頭の1節である。彼女は約17年ぶりに公の場に姿を見せて、自分が傷ついた往時の胸中を聴衆に披露した。
 アメリカの次期大統領選にヒラリー・クリントン氏が出馬するので、口さがない連中がそれと結び付けるのは当然だが、彼女は“I'd like to / end / on a personal note.”(個人的事情を述べて終わりたい)と述べて、講演の締めくくりに time がその理由であると告げた。
 In the past nine months, / the question / I've been / asked / the most is / why. / Why / now? / Why / was I / sticking my head / above the parapet? / You can / read / between the lines / in those questions, / and / the answer / has nothing / to do / with politics.
 The top-note answer was, / and is, / because / it's / time ? /
  time / to stop tiptoeing / around my past,
  (爪先立ちで自分の過去をうろつくことをやめる時)
  time / to stop living / a life of opprobrium, / and
  (不面目な人生を引きずるのをやめる時)
  time / to take back my narrative.
  (自らの物語を取り戻す時)

 彼女は若くして“Time files.”(光陰矢のごとし)を体験したせいか、これから歩む自分の人生のキーワードを time と定めて決意を述べている。<time+to 不定詞>型のフレーズはとても応用しやすく、日常英語に数多く出てくる基本表現である。
 慣用句の“Time to go”(そろそろ行かなくては)は“It's time to go.”の it's を省いた省略文で、何かが「始まる時間ですよ」といった場面で使われる。to 不定詞の動詞 go を差し替えて“Time to run.”と言ってもほぼ同じ意味で、“Time to split.”という俗語的表現もある。
 また、move along(どんどん進む)・push off(立ち去る)・shove off(立ち去る)などの句動詞を to と組んで“TIme to move along.”と言うし、hit the road(出掛ける)のVO型(動詞+目的語)も to と組んで使われる。仕事を終えたとき、to に続けて‘call it a day’(仕事を切り上げる)のVOC型(動詞+目的語+補語)を使ったり、夜勤なら‘call it a night’と言う例も可能であろう。
 “Time to eat.”は「ご飯です」という呼び掛けで、<time+to 不定詞>型は便利な言い方として多用されている。モニカ嬢は‘time to stop’の形で使っているが、stop は行為を止める言葉だから、そのあとに続ける目的語が進行中の動作を示すため、動詞は現在分詞(-ing 型)で用いられる。
 “Stop complaining.”は「ぶつくさ言わないで」の意味だが、complain を gripe に代えても同じ内容になる。“Stop sulking.”や“Stop pouting.”なら「ごねるのはやめて」といったニュアンスになる。
 “Stop bothering me.”の stop の後ろはVO型で、「やめてよ」みたいなニュアンスだから、bother を pester に代えても同じ意味になる。“Stop speaking in circles.”や“Stop beating around the bush.”は「回りくどく言わないで」と言うときの慣用表現で、stop のあとはVA型(動詞+副詞類)になっている。また、非常に困っている人には“Stop carrying the weight of the world on your shoulders.”と言って stop のあとをVOA型で表現する決まり文句もある。
 英語のフレーズは無限と言えるほどあって、何百万でも何千万でも作文は可能だから、丸暗記はまったく無理で、基本形の<time + to 不定詞>型や<stop + -ing>型などを部品にして組み合わせて応用するといい。
 モニカ嬢の講話は、原稿を読みながらであったが、間の取り方が絶妙で聞き惚れた。プレゼンの仕方にプロの手が入っているかもしれないが、ジョークを言う場面では笑わせられたし、真剣に聞くべき部分は思わず真顔になった。TEDの中のこの1編は英語教材として宝の山と言えよう。
(S・F)
2015.10.5(月)