2015/10/20

質疑応答形式のフレーズを楽しむ

【新・英語屋通信】(52)

――“I Confess”(私は告白する)より
 ヒッチコック映画は、やっぱり怖い。僧衣を着て殺人に及んだ Keller が犯行後の夜中に教会に駆けつけると、人の気配を感じた Father Logan(ローガン神父)が暗闇の中でいぶかしげに“Who's there?”(そこにいるのは誰?)と声をかける。
 “Keller, / why / are you / here / this time / of night?”(ケラー、なぜあんたは夜中のこの時間にここにいるのか?)と神父が尋ねると、殺人犯ケラーがどもりながら“I, I wanted to pray.”(私はお祈りをしたかった)と返事する。
 ケラーの様子が不審なので、ローガン神父が助けを必要とするかどうかを問うと、彼は“No one can / help me. / I have / abused your kindness.”(誰も私を助けられない。私はあなたの親切を悪用した)と答える。
 ケラーは教会の kindness に感謝したあと、“You will / hate me / now.”(あなたは私をいまに嫌うでしょう)と言い、さらに“I must / confess / to you. / I must / tell someone. / I want to / make a confession.”と「告白」を願い出る。
 懺悔室に入ったケラーが“I confess / to almighty God / and to you, / Father, / that / I have / sinned.”(私は全能の神とあなたに告白します。神父さん、罪を犯したことを)と言ったあと、殺人と“I / went / to steal his money.”(私は彼の金を盗みに行った)と動機を告白する。
 懺悔室で罪を告白された神父は、戒律上、告白者から知りえた事実を誰にも打ち明けられない。紳父にとって都合悪いことに、昔の恋人の Ruth が殺された男に脅迫されていたことを相談されていた。神父は殺人現場に先回りして、ルースが冤罪をこうむらないようにと知らせに行くが、その様子を刑事に見咎められた。
 それと併せて、現場近くの道路を僧侶服の男が歩いていたと2人の女学生が証言し、また犯人ケリーが神父の行李に血染めの僧衣を忍び込ませたことから、ローガン神父は犯人に仕立てられる。確実な証拠は何ひとつないのに、刑事は状況だけでローガン神父が星であると断定して法廷に引きずり出す。
 そして、真犯人ケリーは証言台に立って嘘八百を並べ立てる。証言台のルースは、殺人のあった時間に神父と会って、脅迫された内容を相談していたとアリバイ証明すると、夫に内緒だったから不倫関係にあったと刑事は勘ぐり、検事はありもしない架空の筋書きを作って、神父に真実を言えと追いつめる。
 検事は刑事による作り話を前提として、“Otto Keller has / testified / to this court / that / he / followed you / into church. / And that / he / found you / kneeling / before the altar, / in great distress.”(オットー・ケラーは本法廷であなたについて礼拝席に入ったと証言した。そして、彼は祭壇の前に膝まづいて苦悩するあなたを見ている)と犯人の出鱈目な証言を真に受けて神父が犯人であるかのごとく陪審員や法廷の聴衆に印象づけていく。
 人間の行動には、共通のパターンがあるのは確かだが、下手に類型的な解釈をすると、とんでもない間違いを犯しかねない。刑事が作る筋書きは、たいてい過去の事件からの類推にすぎず、狭い範囲の思考に基づいた当てずっぽうの経験則がしばしばある。洋の東西を問わず、警察の頭脳は単純かつ硬直にすぎて、真実を解明する姿勢に乏しく、組織の方針にがんじがらめにされて、一度こうと決めた冤罪物語を頑として守り抜こうとする癖がある。
 陪審は証拠不十分としてローガン神父を不起訴とし、裁判官が釈放するが、こんどは群衆(mob)が騒ぎ出して“Take off that collar.”(襟飾りを外せ)などと叫んで暴行に走ろうとする。法廷で無罪になっても、真実を知らないままミスリードされた大衆の思い込みによる不当な社会的制裁の怖さがこの作品のテーマの1つになっている。
 刑事の軽はずみな判断の結果、殺人犯はさらに自分の妻と民間人を殺し、自らは警察に射殺されて物語は終わる。凡庸な輩が権力の座に就くと、真実を曲げられてしまう恐怖がこの作品の基本テーマになっている。
 舞台がカナダの Quebec(ケベック)のカトリック教会だから、フランス語圏の雰囲気があり、犯人はドイツ人の難民だから、標準英語でないフレーズがいくつかあるが、警察の尋問や法廷で使われる質疑応答の英文はとても参考になる。
(S・F)
2015.10.20(火)