2015/06/15

Tom の母音に見る米音と英音の違い

【新・英語屋通信】(27)

【Q】Tom という名前は「トム」と書きますが、アメリカ人が Tom Cruise と言うとき、「タム」のように聞こえます。その周辺事情を教えてください。
(宮崎県O・R)

【A】トムは英国式で、タムは米国式の発音です。所変われば、音も変わるで、英米人は互いに多少の違和感を覚えますが、問題が起きるほど大きな差はありません。
 イギリス音の Tom の母音は、唇をすぼめて小さな円形を作って発音するので、日本語の「オ」と似ています。アメリカ音の Tom のそれは、口を大きく開けるので、日本語の「ア」と同じ音質になります。
 Tom の本来のサウンドは、もちろん「オ」に似た英音のほうですが、アメリカに渡って各地の音が混じり合ううちに変質して、短母音〔-o-〕は「ア」に似てきたわけです。米音には「オ」と比較される短母音は存在しませんが、類似音の周辺事情は複雑です。
 音声学は一般に father(父)の最初の母音を〔-o-〕の長母音と見なしますが、これは Tom の母音と同じ音質です。〔-o-〕の長母音は saw(のこぎり)の〔aw〕と言えますが、このサウンドは「オー」でも「アー」でもありません。
 ただし、rose(バラ)の二重母音〔o-e〕の最初の音は、口を円形にして唇をすぼめて発音するので「オ」と似ています。そして toy(おもちゃ)の〔oy〕や corn(トウモロコシ)のr型母音〔or〕は、いずれも二重母音で、最初の音は〔o-e〕と同じ種類です。
 また、car(車)に見るr型母音の〔ar〕も二重母音です。このサウンドは〔-o-〕または〔aw〕の口の形から発声されるので、「ア」を長く伸ばしたように響きます。
 〔-o-〕〔aw〕および〔o-e〕〔oy〕〔or〕そして〔ar〕の関係は上記のとおりです。英語の母音において、英音は日本語のサウンドに似た面があって学びやすいけれど、米音を身に付けたほうが汎用性が高くなります。英語の本家本元は英国であっても、昨今は世界的にアメリカ英語が圧倒的に優勢です。Tom は米音で〔t〕〔-o-〕〔m〕と言い、Bob も〔b〕〔-o-〕〔b〕だから、ボブでなく、バブのように言ってください。
 ちなみに、語頭の‘o’について言うと、office(事務所)は〔-o-〕で、offer(申し込む)は〔aw〕と発音します。アクセントのない offend(攻撃する)は弱母音のシュワーになります。
2015.6.15(月)