2015/06/23

先頭チャンクは音則が先で、文法はあと回し

【新・英語屋通信】(29)

 NHKテレビの英語講座で「先頭チャンク」の does he を do he と言わせて、間違いを訂正するシーンを見て驚いた。ご丁寧に does she と does it も do she と do it と言わせて、仰々しく言い直させて、三人称単数現在形では助動詞 do を魔法で does に変えますと脈絡のない説明をしていた。オリジナル性が皆無で、中学1年で教える二番煎じの内容に受信料を取って、学習者を煙に巻いて、おちょくって、なめきっている。
 do 動詞を人称代名詞と併せて使うさいの肯定形・疑問形での先頭チャンクの下記の語順は、文法上のテーマとするより、音則で把握するほうが身に付きやすい。
  I・you・we・they + do     do   + I・you・we・they?
  he・she・it   + does    does + he she it>
 do は〔d〕〔oo〕の2音から成り、ほかの語といっしょに使うと、母音が弱化して短母音〔-oo-〕になるので、音則上の強弱は I・you・we・they と相性が合う。しかし、do と he・she・it の並びは発音しにくく、必然的に does すなわち〔d〕〔-u-〕〔z〕にならざるをえない。そして does がほかの語と結ばれるとき、母音が弱化して弱母音シュワーに変わるため、he・she・it を強調しやすくなるので、その発音を身に付ければいい。
 言語では音声が先にあって、文法はあと付けの理屈でしかない。助動詞 do は意味の希薄な機能語だが、英語の疑問形は1種の強調文で、肯定形に付け足す do も強調語だから、音則的に大切な役割を担っている。否定形の don't による先頭チャンクも I・you・we・they と似合って、he・she・it は doesn't と結びやすい。なお、先頭チャンクとは別物の“Do it yourself.”の do it は、目的語の it より動詞の do を強く発音する。
 NHKの英語講座は10年1日のごとくではなく、約30年前のマーシャ・クラッカワーさんの講師時代より著しく劣化している。言語習得はスポーツや芸事と同じで、自習が中心になるから、学習者にそれを伝えない番組は無用の長物になる。NHKは大西泰斗氏のような英語をよく知る優秀な人を役立つように起用していない。ちょい役では、宝の持ち腐れだ。電波の無駄遣いならまだしも、本気の勉強家を勘違いさせて迷わせてしまう。
 教育物での娯楽的手法は、束の間の遊びでしかない。当事者は「演出」と言いたいだろうが、教育番組での「やらせ」はうんざりだ。メディアの退化が国民の判断材料を奪って、国家を滅亡へ暴走させる時代を日本人は経験してきた。(S・F)
2015.6.23(火)