2015/06/11

shall の気分に見る法助動詞の立ち位置

【新・英語屋通信】(26)

――“Gone With the Wind”(風と共に去りぬ)より
 第二次世界大戦後、敗戦国の日本を統治したGHQ(general head quarters=総司令部)のトップを務めたダグラス・マッカーサー元帥がフィリピンで日本軍に破れてオーストラリアに退却するとき、“I shall / return.”(私は戻ってくるだろう)と言い放った有名な言葉が今日に語り継がれている。この shall には「必ず」とか「絶対に」という話し手の強い意志が込められていた。
 70年以上も昔の名言だが、言葉は時代とともに変遷して、昨今の日常英語では shall を使う場面が少なくなっているようだ。アメリカで編纂された everyday expressions の1万フレーズ級の資料の中にも shall は数例しか見当たらない。
 “Gone With the Wind”という1939年製作の上映時間が4時間近い映画がある。そのラストシーンの少し前に主役のスカーレット・オハラが最初の夫のレット・バトラーと撚りを戻そうとして“I only / know that / I / love you.”(私にはあなたを愛していることだけがわかっている)と言うシーンがある。レットが“That's / your misfortune.”(そいつは災難だったね)と言い返すと、スカーレットが“If / you / go, / where / shall I / go? / What / shall I / do?”(あなたがいなくなったら、私はどこに行けばいいのよ。何をすればいいのよ)と訴えるが、この shall を will に代えると、彼女の茫然自失の心境をぴったり表現できない。
 レットが“Frankly, / my dear, / I don't / give a damn.”(率直に言うと、お前さんには、俺は“糞くらえ”すらやりたくない)と吐き捨てる。ちなみに、本作品は damn を使った(意図的にか?)ために、上演阻止運動を呼び起こしている。
 スカーレットは“Oh, / I can't / let him / go! / I can't! / There must be / some way / to bring him back. / I can't / think about it / now. / I'll / go crazy / if / I / do! / I'll / think about it / tomorrow. / But / I must / think about it...”(ああ、私は彼を行かせることなんてできない。行かせられない。彼を取り戻す手が何かあるはず。今はそのことを考えられない。明日それを考えよう。でも、考えなくては……)とひとりごつが、このセリフに can't と 'll(=will), と must が立て続けに出てくる。いずれも動詞といっしょに用いる法助動詞だが、話し手の気持を表わす言葉だから、英語話者は主語に従わせて使っている。
 レットが使った助動詞の don't も法助動詞と同じ使い方で、動詞に補佐させながら、話者の態度を表明している。法助動詞が適切に使えないと、ちゃんとした英語にならないことを教えてくれる場面であった。
 shall は昨今、隅のほうに追いやられているが、死語になったわけではない。ミュージカルの“King and I”(王様と私)の主題歌に“Shall we dance?”(踊りましょう)という曲があった。ちなみに、その王様役を現在ブロードウェイで渡辺謙が演じている。
 耳に心地良いこのフレーズが日本映画の題名に利用されて、そのテーマがハリウッド映画になってリメークされた。shall はパワーのある単語だから、名文句になるように使えば、常に流行語になる性格を秘めている。
2015.6.11(木)