2015/05/18

“Random House English-Japanese Dictionary”

【新・英語屋通信】(13)

英文の用例が身に付くアイテム
 書名から推察できるとおり、本辞典は翻訳物だから、英文の用例が実用的なのは当然としても、その日本語訳もほぼ完璧と称賛できる。この種の「英和辞典」のわが国の編纂力は凄すぎて、何の努力も挟まずに利用できるので、日本人の英語下手をかえって助長するのではないかと懸念したりもする。
 英単語の綴りさえわかれば、日本語ですべて教えてくれるので、知識がすらすらと頭に入ってくる。その反面、英語の使い方は撫でるように薄っぺらにしか入らない。
 自国語による教育があまり進んでいない一部のアジア・アフリカ諸国の場合、英語(フランス語などもある)に頼らざるを得ないため、学習者は英語話者になってしまう。方言話者に似て、標準英語を使えないだけで、発音が米音や英音から大きくずれていても、全教科を英語で学ぶおかげで、英語話者であることに違いはない。
 フィリピンの人が訛りの強い発音で英語を使う様子を見て、日本人も「日本語訛りの英語で十分」などとほざく意見があるが、その考え方は間違っている。日本語で教育を受けて、学科の1つとして英語を学ぶだけの日本人が英語話者になれるはずはない。
 明治期のわが国の高等教育では、一部で英語話者が英語で講義していた。また、海外で実戦的な英語を身に付けた輩は、見事な英語の使い手になった。松岡洋右が国際連盟を脱退するときの演説の迫力には思わず聞き惚れてしまう。日本人が英語話者なみに考えるようになれるには、大学で全教科を英語で教えなければならないだろう。
 それはさておき、本辞書の利用法は、用例をしっかり読み込むことに尽きる。急がば回れで、時間のある者は用例ノートを作るといい。言葉は繰り返し使わないとすぐに忘れるが、用例の書き抜きを続けていると、実用英語の構造がそのうち身に付いてくる。
 本辞書の長所の1つは、語源考に優れて(初版は翻訳が不十分)いることで、印欧語の歴史的考証はとくに興味深い。わが社が刊行中の『英単語マニア』(全3巻)と併せて読み込めば、そのうち英単語博士になれることを保証してもいい。
 近年はパソコンから辞典の呼び出しが可能だが、GIGO(garbage in, garbage out=ガイゴー)の言葉どおり、屑入れからは屑が多く出てくる。英語学習者なら手元に置いておきたい辞典と推薦したい。辞書なら、やっぱり小学館なんですねえ。
(編集部)
2015.5.18(月)