2015/05/18

「あっと言う間に」と“Ants in pants”

【新・英語屋通信】(12)

 日本語を少し使えるようになって以来、私は10年間以上も「あっと言う間に」という表現を聞き取れなかった。意味がわからないので、辞書を引くんだが、見出しに「あっというまに」の項目がないし、言葉を正確に把握していなかったため、それらしき表現が出てきたとき、大勢に影響はないだろうと無視して聞き流していた。
 私がサウジアラビアで働いた数年間、同行した妻がのんびり屋の気質だったからか、滞在中にこの表現を一度も聞いたことがなかった。息子も無口な性格で、そもそもヨーロッパに留学させていたし、彼からもこの文言を聞いたことがない。
 沖縄に舞い戻ったある日、この句をふと本の中で見つけた。そこで、辞書で「あっ」を引くと、「驚いたり、感心したり、思わず何かに気付いて出す声」と解説されていて、派生句の「と言う間」を見つけた。おまけに「と言わせる」も出ていた。
 それからというもの、その日のうちに「あっと言う間に」が3回も4回も耳に響いて、自分でもすぐに使えるようになった。日本語のネイティブ・スピーカーは私のような経験はしないだろう。母語では bootstrap(コンピューターが稼働できるまでの一連の処理プログラム)が知らない間に身に付くからである。
 言葉は早いうちに覚えてしまうほうが何かと便利だ。知っている語句なら、何度も使ううちに、自分の所有物にできるからだ。日本語は発音が簡単だけど、英語は複数の単語が並ぶ文になると、音則がいっきに難しくなるから、基礎を学ばないと子供が話す言葉も理解できないと思う。
 “Ants in pants”は蟻がパンツの中に入った状況だから、「むずむず・もぞもぞする落ち着かない気分」の表現で、ants と in がリンキングして「アンチン」のように言うが、このフレーズを初めて聞く日本人は、たいてい「はっ?」という顔をする。英語の話し言葉は草書体のように言わないと、英語話者には通じにくい。
(Bob Godin)
2015.5.18(月)