2015/05/07

woman と言って「馬」に間違えられる

【新・英語屋通信】(6)

 単語1つだけが相手に通じなくて困ることがある。ロサンゼルスに駐在していたとき、私がいくら woman(女性)を繰り返しても、英語話者にはまったく通じなかった。日系人から「馬」に聞こえるとからかわれたが、日本人には woman の発音はとても難しい。
 では、どう発音すればいいのか、皆目わからなかった。H・M教授がUSC(南カリフォルニア大学)にいた関係上、そのもとで音声学を研究中の英語話者から週1回45分間ずつ米語音の発音レッスンを3カ月ほど受けたことがある。
 夜間教室からの帰路に Hollywood を通って、山の上の見慣れた大きな看板を目にするたびに、この語を何度も口にして、なんとか〔w〕の「口と唇の使い方」を覚えるに至った。しかし、woman はうまく言えなかった。woman の正しい発音は、メリーランド州にあるプライマリイ・デイ・スクールの校長先生から教えてもらった。
 問題点は語頭の〔w〕音ではなく、綴りの‘o’にアクセントを置いて〔-u-〕と発音して、アクセントの消えた‘man’の母音を「弱母音」(シュワー)に代えて、強弱のリズムを刻むのがコツだった。また、複数形の women の‘o’は例外的に〔-i-〕と発音して、‘men’の母音は〔-i-〕系の「弱母音」に変化すると指導された。
 1音節語の man は〔m〕〔-a-〕〔n〕で、men は〔m〕〔-e-〕〔n〕だが、多音節の中でアクセントを失ったとき、短母音が弱化すると教わった。woman や women は study word(勉強する単語)だから、「丸暗記する単語ですよ」と校長先生は言い添えた。
 〔w〕は「口を前方に突き出して、舌を平らに伸ばしたまま発声する子音で、接触する調音器官がないため「半母音」でもある。日本語の「憂い」(うい)や「上」(うえ)での母音は続けやすいが、同音が続く「うう」はやや言いにくい。woman や women の語頭は、母音が2つ続くみたいで、発音しにくい理由をなるほどと納得できた。
 理屈を知った私は break through(突破する)できて、英語音の音質の違いを一気呵成に会得できた。その後の私は、やはり依然として間違えることが多いけれど、一度ブレークスルーしているせいか、すぐに正しい音則と取り替えることが可能になっている。
 出版業は書籍を商って口に糊する職業だから、発行物を読者に買っていただくために、英語の習得がさも簡単であるかのような宣伝文句を並べ立てがちだが、正直に言うと、日本語と大きく違う英語音の習得は容易でない。
(S・F)
2015.5.7(木)